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厚生行政と労働行政の連携事業

松岡正樹

1.雇用と保健福祉の連携における課題

 21世紀を迎える本年1月6日、中央省庁再編に伴い、新たに厚生労働省が発足した。これに伴い、厚生省、労働省で別々に行われてきた障害者の保健福祉施策と雇用施策が同じ省の中で行われることとなる。
 引き続き、雇用施策は職業安定局高齢・障害者雇用対策部において障害者雇用促進法をもとに実施し、保健福祉施策は社会・援護局障害保健福祉部において身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法、精神保健福祉法をもとに実施することとなるが、従来よりも施策の調整、連携が図りやすくなる。
 関係各方面からも、十分連携がとれた施策の展開が図られ、統合の実が上がることが期待されている。そのための課題としては、さしあたり以下のことが考えられる。

 第1には、障害者の雇用と生活の両面からの支援の強化が必要である。特に、知的障害者、精神障害者の雇用を進める上では、職場での仕事の能力の獲得、職域開拓など就業支援だけでなく、日常の生活習慣、生活の管理などの生活面の支援が必要となっており、地域において、職業安定所、地域障害者職業センター、障害者雇用支援センター等の労働関係機関と、福祉事務所、保健所、社会福祉施設等保健福祉関係機関が地域のネットワークを形成し、連携した施策が展開されることが期待されている。
 第2には、保健福祉施策と雇用施策の架け橋となる施策の充実が必要である。障害者の自立にとって雇用は大きな意味を持つが、従来の厚生行政の中では保健福祉の分野だけで障害者の自立を完結して考える傾向があった。授産施設、小規模作業所、社会適応訓練事業などの施策の充実も図られてきたが、そこから雇用につなげていく意識がこれまで必ずしも十分ではなかった。保健福祉施策から雇用へつなげていく施策、雇用施策から就業のノウハウの提供など双方から接続をしていく施策の展開が期待されている。
 第3には、「福祉的就労」から「雇用」に至るまでの全体を通じた施策の整理が必要となる。雇用施策においては、一般の職場のみならず、重度障害者多数雇用事業所、特例子会社などが発展してきたが、保健福祉施策における授産施設、小規模作業所、デイサービスなどともあわせ、全体を通じて、障害者の態様に応じた施策の整理が求められる。授産施設では一人当たり10~20万円の措置費を受け、入所者一人当たりの工賃は平均1~2万円であるが、企業雇用の障害者との対比でその在り方は考えられる必要があろう。
 いずれにしても、障害者の雇用施策と保健福祉施策の連携の強化あるいは融合は緒についたばかりで、今後さらに進められる必要があるが、平成13年度においても、先行して実施されてきた事業も含め、連携事業の充実が図られている。

2.平成13年度の主な連携事業

(1) 障害者就業・生活総合支援事業

 障害者の就業・生活を通じた支援を行うため、平成11年度より、雇用と福祉部門の連携により、就業支援と生活支援を一体的に行う「障害者就業・生活支援センター(仮称)」の設置に向けて試行的事業を実施している。
 就業支援(雇用部門)では、基本的な労働習慣を習得するための訓練(出退勤、仕事中の態度等)、就職後の職場定着を行う支援を行う「障害者雇用支援センター」を活用することとしている。一方、生活支援(福祉部門)では、障害者のうち就職を希望している者や現に就業している者に対して、金銭管理や衣食住等生活面の相談・助言等の支援を行う「障害者生活支援センター」を活用することとしている。
 試行的事業では、既存の社会福祉施設、能力開発施設を「障害者雇用支援センター」と「障害者生活支援センター」に併せて指定し、両者の機能を合わせ、就業面と生活面の支援を一体的に提供することとしている。また、知的障害者養護学校等の在校生に対して、現場実習等の際に通勤寮等を体験利用させ、就業面及び生活面について一体的な指導を行うことにより、就業意識を啓発し、職業生活の安定的な移行を図っている。
 本事業は、これまで知的障害者、精神障害者を重点に置いていたが、13年度からは重度身体障害者にも広げることとしている。12年度までに全国14の社会福祉法人で実施されており、13年度も箇所数が増加する見込みである。平成13年度予算では、知的障害者養護学校在校生の受け入れに係る費用(1カ所最高300万円)等で、8400万円を計上している。
 また、あっせん型の障害者雇用支援センターの運営費は、障害者雇用納付金を財源とする助成金で最高500万円(運営費の4分の3)である。生活支援センターの運営費は、国(障害保健福祉部)2分の1の補助率により、知的障害者の場合は一般会計補助金で最高536万円(国268万円の補助金)、精神障害者の場合は一般会計補助金で最高2180万円(国1090万円の補助金)である。
 平成11年度に実施した9カ所では支援対象者220人(知的197人、精神13人、身体10人)で、就職実習実績152件、就職実績94人、就職に至るまでの期間は平均3,4カ月である。就業と生活支援の一体的提供の効果が評価されている一方、財源面での煩雑さ、関係行政機関の連携不足、今後の設置数の目標の設定が課題として指摘されている。

(2) 情報機器の活用による重度障害者の社会参加・就労支援連携モデル事業

 本事業は、情報・通信技術を活用した障害者の就労・雇用の可能性が広がっていることなどを踏まえ、重度障害者の社会参加と就労を促進するための試行的事業として、平成12年度より実施している。
 本事業では、第一段階として、身体障害者デイサービス事業または市町村障害者社会参加促進事業において、移動に困難を伴う重度障害者に対し、パソコンの基礎的な操作技術を習得させる。第二段階として、基礎的な操作技術を習得した者に対し、日本障害者雇用促進協会がインターネットを活用して遠隔教育を行い、同協会が委託した支援機関が実践的な能力を高めるための指導(OJTを含む)等を実施することにより、就労に可能な技術・技能の向上を図るものである。
 平成12年度においては、三つの支援機関と4市で実施しており、ワープロ、表計算、データベース、ホームページの4コースを設定している。平成13年度は、予算額4900万円であり、遠隔教育方法や実践的指導を充実させるとともに、実施個所を増やす予定である。

(3) グループ就労を活用した精神障害者の雇用促進モデル事業

 精神障害者については、新しい環境への適応が苦手であること等から、直ちに一般雇用を目指すことが困難なケースも多いため、福祉的就労、短時間就労、集団的就労等幅広い就労形態を活用しつつ、段階的に一般雇用を目指すことが一つの方法として考えられる。
 このため、平成13年度より、地域の精神障害者の生活支援の場である精神障害者地域生活支援センターを運営する社会福祉法人等が、事業所と請負契約を締結し、数人の精神障害者のグループが指導員の支援のもとに一定期間就労することにより一般雇用へとつなげる事業を試行的に実施することとしている。
 平成13年度予算では3000万円を計上し、日本障害者雇用促進協会を通じて、3法人(各2事業所)での実施を予定している。

(4) 企業等の事業所における授産活動の推進による障害者の就職の促進

 障害者授産施設は、障害者であって雇用されることが困難な者を入所させて、自活に必要な訓練を行うとともに、職業を与えて自活させることを目的とする施設であり、通過型施設としての機能を有しているが、入所した障害者の就職が進まず、施設入所期間が長期化しており、待機者の新規受入がなかなか進まない状況になっている。
 このため、本事業において、障害者授産施設が一般企業等から一定の業務の委託を受け、障害者授産施設に入所(通所を含む)して訓練を受けている者が、授産施設の指導員の指導の下、企業等の事業所において、授産活動を行うとともに、授産活動終了後に公共職業安定所等が職業相談、個別求人開拓、職場定着の支援等を行うことにより、授産施設から一般雇用へ結びつける支援体制の在り方を検証することとしている。
 平成13年度においては、障害保健福祉部において8300万円を計上している。

(5) その他の連携事業

1.医療機関等と連携した精神障害者のジョブガイダンス事業

 就職するための準備が十分に整っていない精神障害者を就職に結びつけるため、公共職業安定所から医療機関等に出向き、就職活動に関する知識や方法を実践的に示すジョブガイダンス事業を平成8年度から実施している(平成13年度 34カ所 6200万円)。

2.地域雇用支援ネットワークによる精神障害者職業自立支援事業

 地域障害者職業センターが中核となり、精神障害者の雇用に関する地域での支援ネットワークを構築し、医療、福祉、教育等の関係機関の連携の下に効果的な援助を行うもので、平成11年度から実施している
(平成13年度 8センター 1億600万円)。

(まつおかまさき 厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部障害者雇用対策課調査官)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2001年4月号(第21巻 通巻237号)