音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

列島縦断ネットワーキング

福島
雪の上で思いっきり楽しもう
―障害者ゆきんこまつり―

国松公造

 「障害者もスキー場で思いっきり楽しもう」という障害者ゆきんこまつりが、去る3月17日から20日にかけて行われました。
 今回で18回目になる障害者ゆきんこまつりは、国際障害者年の年、『完全参加と平等』への夢を語り合っている席で、年老いた車いすの女性の「死に土産に不自由さを忘れて真っ白な雪の上を転げまわってみたい」の一言に共感したボランティアが、「ボランティアをたくさん集めてみんなで行こう!」と言ったことがきっかけとなりました。
 1982年3月、1.ひとりぼっちの障害者をなくそう!、2.障害者にも冬のスポーツ・レクリエーション活動を保障しよう!、3.障害者問題への理解とふれあいの輪をひろげよう!という3大スローガンを掲げて始まりました。資金やボランティア不足であきらめた年もありましたが、若いボランティアを中心に実行委員会形式で長野、新潟、福島方面などのスキー場に出かけています。

ボランティア募集と厳しい財政状況

 ゲレンデ内にある、安くてバリアフリーな宿を捜すのは容易ではありません。ボランティアの確保はさらに大変です。参加費を出し自分たちはスキーも楽しめず、雪の上での介助は重労働です。滑ってくるのは一瞬で、障害者をおぶったり、ソリで引き上げながらゲレンデを登ります。障害のためリフトも使えないことが多く、スキー場側に断わられることもあります。その様はまるで『雪の八甲田山』を思わせる過酷なものです。それでも最近はスノーモービルでの引き上げも可能になり、かなり負担は解消してきました。
 例年、各高校から大学、社会福祉協議会、公民会等々にポスターや案内チラシを発送し、クチコミも含めあらゆる方法でボランティアを募集します。それでも思ったような効果は得られず、最後はマスコミ頼みというのが実態です。乱暴な話ですが、直前でないと反響がなく、しかも『ゆきんこピンチ、ボランティア不足!』などという悲惨な見出しが紙面におどると、何か月も苦労してきてもやりきれないことが、1日、2日で一気に解決してしまうのです。この実態を喜ぶべきか、悲しむべきか複雑な心境に陥ります。
 「できるだけ参加費を安くしたい」これが実行委員会の悩みです。ボランティアの参加はなおさらです。そのために市民団体や労組、企業、商店、病院、弁護士事務所、ロータリーやライオンズクラブなどの福祉団体、各自治体や市町村社会福祉協議会等々に協賛依頼をしたり、チラシをまきながら街頭での宣伝カンパ活動も積極的に取り組みます。協賛金も、特定の企業や団体におんぶするのではなく、一口1万円で広く支援を呼びかけています。「なぜ県に予算化してもらわないの?」という意見もあります。毎年、要請はしていますが、力不足なのかいまだ実現していません。1500件以上に郵送で協賛依頼をしていますが、10年前と比べると、市町村や社会福祉協議会などは潮が引くように協賛団体から名前が消え、また長引く不況で企業、商店等は厳しい状況でロータリークラブまでが解散に追い込まれ、丁寧なお断りを受けることもあり、今は受難の時といえます。

120人が参加したゆきんこまつり

 さて、今回は17日の夜、北浦和、川越、熊谷の3か所からバスに乗り込み、夜中に現地の宿に着くとすぐ就寝。2日目(18日)の朝、説明会も含めてのんびり過ごし、早めの昼食後ゲレンデにでて、スキー組とチェアスキーやソリ組に分かれて楽しみました。夕食後は障害者問題や遊びの分科会をしました。3日目(19日)は朝からゲレンデで雪上運動会、午後はまたスキーやソリ滑りを楽しみました。夜は夕食込みの大交流会で、ゲームなどで大騒ぎしました。そして4日目(20日)は、朝のうちにお土産などを買い込み、昼前にバスに乗り込み帰路につくという行程でした。
 これまで100人から170人程度で実施していますが、今回は約120人の参加があり、うち障害者が55人(車いすなど肢体障害者27人、視・聴覚障害者3人、知的障害者25人)、ボランティアは65人(学生35人、社会人30人)でした。
 スキーは軽度の障害者が挑戦しましたが、アウトリガーが重いことから、普通のストックかストックなしが精一杯で、楽しむ状況ではありませんでした。チェアスキーは補助スキー板が両サイドについた旧式タイプで、両腕が使えず座位も保てない脳性マヒでも滑る程度ならでき、ブレーキも使えない人はロープでつなぎスピードを調整してもらいます。どんなに重い障害者でも風を切るスピード感はたまらないようで、大変好評でした。ソリも困難な人はボランティアと二人乗りで滑り、止まらない時は下で待ち構えているボランティアに受け止めてもらいました。ゲレンデでは絶えず楽しそうな歓声が響いていました。

自立への意欲を引きだすチャンスに

 障害者ゆきんこまつりは、初めて参加する重度の障害者に貴重な体験をしてもらうとともに、家族以外の人を知る機会や自立への意欲を引き出す絶好の機会になるし、家族にとっても介護から開放され『命の洗濯』になります。
 宿舎でも移動、食事、トイレ、入浴、寝返りとすべてに介助が必要で、初参加のボランティアにとっては驚きの連続で、寝食をともにするぶっつけ本番の荒っぽい企画です。しかし、これを契機に福祉の道をめざした若者が何人もいることを考えれば、若いボランティアたちの人生観を揺り動かすのに十分すぎる取り組みと言えます。
 手弁当でもって赤字を抱えた時もあります。公的支援もないのによくやってきたなという思いが交錯します。昨今はパラリンピックなどで障害者スポーツも認知されてはきましたが、雪となれ親しむような行政側からの振興策もないと、競技人口などの広がりをつくりだせないと思います。今後の支援を期待したいものです。

(くにまつこうぞう 障埼連)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2001年5月号(第21巻 通巻238号)