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働く 50

ワークステーション・コンドルの取り組み

大越健一

はじめに

 精神障害者通所授産施設「ワークステーション・コンドル」は、岡山駅から南方8Kmの児島湖をのぞむ場所に位置しており、玄関を入るとパン作りを手がけているだけに甘い香りが漂い、食欲を刺激すると同時にやさしい気分にしてくれます。また、施設内は日の光が十分取り込まれ、ゆったりした空間が印象的です。今回、このワークステーション・コンドルを訪問し、作業状況を見学するとともに岸本所長からお話を伺いました。

設立の経緯(あゆみ)

 ワークステーション・コンドルの母体である社会福祉法人浦安荘は、昭和50年に「浦安荘」という生活保護法による救護施設を設置し、その中で精神障害者の社会復帰のための就労基礎訓練や生活訓練等の支援を実施するという、当時としては先駆的な取り組みを始めました。しかし救護施設という性格上、生活保護を受ける状態にある人のみの利用にとどまってしまうという限界があり、たとえば家族の支援等はしっかりしているが、社会で頑張っていくにはまだ十分でない人は利用できないということが出てきます。
 そこで、より対象者の幅を広げて救護施設の枠にとらわれず、精神障害者の社会復帰の支援をしていきたいという考えから平成11年4月、精神障害者通所授産施設ワークステーション・コンドルを開所しました。ただし、精神障害者通所授産施設は精神保健福祉法に基づいた施設で、これは利用者との契約による入所となるため、利用者は毎月一定の費用を納めることになり、また施設としても、身体障害者や知的障害者施設のような措置費というものがなく、公的助成が少ないことから、運営が苦しいことは覚悟のうえでの開所でした。

ワークステーション・コンドルの活動

 ワークステーション・コンドルは、社会参加への中間施設として設立された経緯から、社会へ、そして一般企業への一つのステップの場という認識のもと、地域で自主的な生活を送れるよう、特に就労面についての指導や援助に力を入れています。現在31人が登録されていますが、実際の作業にはデイケアとのかけもちのメンバーや、毎日の通所は負荷が大きいメンバーもいるため、通常20人程が作業に取り組んでいます。
 次に作業内容についてですが、これは二つの部門に分かれています。

1.パン工房部門

 約30種類の菓子パンや惣菜パン、食パンを製造販売しています。販売はコンドル内の店舗はもとより、近隣の公園や大学、病院へ出向いて出張訪問販売も行っています。また、併設されている浦安荘の給食にも出されます。私が訪問した時には、パン工房で6~7人のメンバーが指導員とともに生地をこねる作業を行っており、お店では当番のメンバーが値段を確かめながらレジ打ちを行っていました。
 コンドルがパンの製造販売を手がけるようになった理由は、下請け作業は加工賃や受注量が景気に左右されがちなのでこれは避けたいという気持ちがあり、そこに当時、ほかの施設でパン作りの取り組みを耳にするようになり、これに目をつけたというわけです。また、製造から販売まで手がけられることで、メンバーがさまざまな経験ができるということも決め手の一つでした。
 パンの販売に関しては、一般のパン屋さんとの競合の調整等難しい問題もありますが、将来的には一般商店に卸すことも考えているとのことで、今後の大きい夢をもっています。私も帰り際にいくつかパンを買ったのですが、パンの種類もそろい、食べてみると味のほうもしっかりしていて、近隣の人気も高く、予約して買うお客さんもいることから、これなら一般商店への進出も遠い将来の話ではないと感じました。

2.給食部門

 給食部門では、併設の支援センター・コンドルと連携し、調理および夕食サービス、宅配サービスを手がけており、メンバーは指導員とともに調理全般をこなしています。ここで作られた給食は、支援センター登録者の方々に食べていただきます。バランスの取れた食事で、こちらも人気を博しています。
 この給食の作業を手がけた理由は、食事サービスを行う支援センターを併設することがわかっていたので、どうせなら授産施設の作業として実施しようという考えから開始されました。当初の作業ぶりは、包丁を持ったことがない、調理するのは初めてというメンバーが大半だったため、作業が雑だったり遅かったりと大変だったようです。
 これら2部門とも作業日は月曜日から土曜日で、時間は9時から16時30分(お昼の1時間の休憩を除く)の実働6時間30分です。なるべく一般就労を見据えて長く作業時間をとるようにしているとのことです。また、工賃については現在、時給160円です。これらについて岸本所長は「今のところ利用者にとっては作業、工賃ともに厳しい部分もありますね。月に4万円程度の工賃を出せるようにしていきたいとは思っています。ただ、私たちはそれ以上の利益を追求することに関して、特に積極的には考えていません。やはりここで満足してもらうのではなく、一般の会社で働いてお金を得る喜びを感じてもらいたいですから」と話していました。コンドルではこれら作業のほか、食事会や日帰り旅行、月に一度のミーティングを行い、その中で社会資源の活用の仕方などを学ぶ勉強会も計画、実施しています。

もう一つの取り組み

 このワークステーション・コンドルの特徴の一つに、地域交流活動を積極的に行っていることが挙げられます。施設内にその名も〈地域交流活動室〉という多目的ホールがあり、ここを地域に解放して利用してもらうことを通じて交流を図ったり、地域の方を対象に年に2回、精神障害に関する講演会を開催したり、またイベント等も開催しています。このような活動を行うことで、メンバーは地域社会へ出ていく不安が軽減し、また地域の方々の精神障害に対する理解につながるよう努力されています。

今後について

 最後に、今後の取り組みについてお聞きしました。「当初の考えである一般企業にチャレンジしていこうというメンバーの応援をしていくことは今後も続け、これを施設の大きな柱としていきたいです。開所して2年が経ちますが、今のところ一般企業へ就職した人は一人です。その人も数か所で働いたのですが、現在は施設に戻ってきています。今後、施設がどのような方向性をもって取り組むかについて、具体的には作業効率を上げて工賃を増やし、ある程度稼げるようにするのか、もしくは一般就労の通過点としていくのかについては、正直に言うとまだ模索中の段階です。確かに年金と工賃を合わせて生活できる程度に出したいとは思っています。ただ、一つ言えることは、利用者にとってのベストは、やはり地域社会に出て一般企業で働くことだと思います」またこれに続き「そのためには私たちも利用者が地域で働けるよういっそうの努力をしなければならないですし、その他にも職業リハビリテーション制度をより充実してもらい、精神障害者が安心して一般就労に溶け込むことができるよう、お願いしたいですね」ともおっしゃっていました。

おわりに

 今回の取材では、障害者の人々にとって地域社会で暮らすこと、そして働くことがどんな意味をもつのか、何がもっともよい暮らし方なのか、といったことについて改めて考えさせられました。今後は当センターとしてもこのような施設とより連携を図り、就労支援を通して障害者の人々が地域社会で伸び伸びと暮らすことができるよう努力していくことが必要だと強く感じました。

(おおこしけんいち 岡山障害者職業センター)