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会議

第16回 CSUNカンファレンス

鈴木淳也

CSUNカンファレンスとは

 2001年3月16日~24日、ロサンゼルスで、第16回CSUNカンファレンスが行われました。ここで、いろいろなことを見聞きしてきましたので、ご報告します。

 CSUNカンファレンスというのは、“The Center on Disabilities at California State University, Northridge”(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校の障害者センター)の主催する“Technology and Person with Disabilities”(技術と障害)についてのさまざまな情報を公開する会議です。今年で16回目を数えます。

 会議の対象となる障害は多岐にわたり、視覚、聴覚、肢体、知的はもとより、それらの複合障害、またディスレクシア(読みの障害)なども含まれています。

 話題の中心は、やはり「パソコンを活用したさまざまな取り組み」についてでした。視覚障害者用には、画面を読み上げたり、点字ディスプレーに表示するソフトが数多く紹介されていました。また、聴覚障害者用には、手話と文字、音声を仲立ちするソフトや装置が紹介されていました。また、知的障害、ディスレクシアの人用には、理解を助けるためのソフトの紹介がありました。肢体不自由の人用には、片手でも入力できるフルキーボードなどが印象的でした。いずれのソフトも、“Disabilities”を“Abilities”に変えて、教育や仕事の可能性を広げるためのものでした。

さまざまな障害の人がさまざまな情報を求めて参加

 CSUNの本会議の前日になると、会場兼宿泊場所であるヒルトンとマリオットホテルには、大勢の人が集まってきました。さまざまな国から、さまざまな障害の人が、さまざまな情報を得たり、また発信しようと思って集まってきました。会議がはじまり会場に入ると、電動車いすあり、盲導犬ありでした。特に、盲導犬の多さにはびっくりしました。

 また、会議中の雰囲気は、積極的に質問や意見が出て、どっと笑う場面もたくさんありました。犬も喜んで体をプルプルさせていました(笑)。

広がるDaisyの活用分野

 まず、Daisyに関する会議に出席しました。ここでは、Daisyを録音図書としてだけでなく、教材などでいろいろと活用しようとする取り組みが紹介されました。中でも興味深かったのは、“視覚障害者向けの数学教科書への応用”です! 一見、数学教科書というと、図や数式が多いので音声化するのは難しいと思われ、これまでは点字教科書が使われてきました。しかし、点字の教科書は、とても分量が多く、目的の事柄、数式を探すのがたいへんでした。そこで、Daisyの登場です。一般的な説明は、Daisyの音声で行います。そして、数式など音声では確認が難しい部分は、点字ディスプレーで確認できるように構成されています。これで、音声と点字それぞれのメリットを生かして、効率的な勉強ができるようになるのです。

 また、Daisyブックを作るためのツールも数多く紹介されていました。ほかにもカセットテープを高速でDaisy化する装置が紹介されていました。これまでに作られた膨大な量のテープ図書をスピーディーにDaisy化するためのものです。こうして、Daisy図書のタイトル数が増え、また活用場面も着実に増えていることがわかりました。

パソコン画面を読み上げるソフト(さまざまな工夫)

 今回は、視覚障害者のための「パソコンの画面読み上げソフト」の会議にいくつか出席しました。これらのソフトは、Windowsの画面を音声で読み上げるものです。ユーザーが操作をしたとき、パソコン側から何かメッセージが出たとき、音声でガイドしてくれます。

 第一印象は、「なんて多くの言語のWindowsに対応しているのだろう。(ただし、日本語以外)」「なんて多くのアプリケーションソフトを使えるようになっているのだろう」ということでした。

 代表的な画面読み上げソフトは、“OutSpoken”(http://www.tokaido.co.jp/fukushi/index.htm)“Jaws”(http://www.freedomesci.com/)
“Dolphin”(http://www.dolphinusa.com/products/price.html)です。いずれのソフトもそれぞれ工夫をこらして、さまざまなソフトを効率的に使えるようにしていました。

 “OutSpoken”では、日本語、英語をはじめ、多くの言語のWindowsに対応しています。今回の会議で紹介されたソフトで日本語Windowsに対応しているのは、“OutSpoken”だけでした。“Jaws”では、ワープロソフトを使ったとき、文字の色、属性などの視覚的な情報も音声で確認できるようにしている点が印象的でした。ある操作をすると、今カーソルのある文字の色などの属性を読み上げることはもとより、文章全体を読ませたとき、属性の変化を声の変化でわかるようにしています。

 また、“Dolphin”では、文字の画面上の位置をステレオ音声でわかるようにする試みもなされていました。行の左側を読んでいるときは、左のスピーカーから音が出て、行末に行くにつれて、音も右に進んでいきます。このようにして、「音声を使って、いかにして視覚的情報を伝えるか」「マウスを使わずに、目的の操作をキーボードからできるようにするか」など、さまざまな工夫をしていることがよくわかりました。

点字ディスプレー内臓のパソコン!

 これまでお話してきた画面読み上げソフトに加え、点字ディスプレーの商品化もかなり進んでいることが実感できました。小型のメモ用の点字ディスプレーに加え、80マス、40マスのものも多数展示されていて、説明がありました。なかでも興味深かったのは、フルキーボードの手前、つまりノートパソコンの手首を置くあたりに点字表示部があり、液晶画面がないものがありました。

 これを使うと、点字表示を確認しながら、通常の情報にアクセスできるのです。つまり、インターネットにアクセスできたり、メールを使えたり、墨字(英文)を印刷したりできます。また、フルキーボードではなく、点字キーボード(六点入力キーボード)のついた小型点字ディスプレーもありました。これも、点字タイプを打つように入力することで、通常の情報にアクセスできるようになっていました。

 ちなみに、日本で使われている点字ディスプレーは、パソコンと接続して使うのが一般的です。パソコン側で漢字かな交じりデータと点字データを相互変換して使います。つまり、点字ディスプレー単体では、通常のデータにアクセスしたり、漢字かな混じり文を印刷することはできないのです。英語圏だからできることなのでしょう。でも、日本語でも、文字の詳細読み機能を活用することで、このような携帯点字ディスプレーで、漢字を扱えるようになることと思います。

考え方が作り出す“Abilities”

 いろいろな展示や説明会を通して、「工夫一つでDisabilitiesをAbilitiesにできること」を実感できました。それらの“工夫”は、難しい技術を必要とするものではありませんでした。“発想の転換”と“使えるようにしたいという気持ち”が生み出すものばかりでした。

 特に、コンピュータのソフトでは、工夫一つでアクセシビリティーが大きく変わってきます。私自身、パソコンを使うことで多くのDisabilitiesをAbilitiesにしてきました。その恩恵は図りしれないものがあります。その喜びをより多くの人に実感してもらえるよう、「DisabilitiesをAbilitiesにするポイント」を、より多くの人に知ってもらえるようにしていきたいと思いました。

(すずきじゅんや 日本障害者リハビリテーション協会ネットワークサービス課)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2001年6月号(第21巻 通巻239号)