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ワールド・ナウ

アフガニスタン
地雷、ポリオ、その他の病気に苦しむ子どもたち

勝間靖

1 アフガニスタンという国

 南アジアと中央アジアの狭間に位置するアフガニスタンは、パキスタン、イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、中国と国境を接している。日本の約1.7倍の国土に約2300万人の人々が住む多民族国家である。最近では、バーミヤンの巨大な石仏が破壊され、世界から非難を受けた。
 1979年のソ連軍侵攻以来、現在に至るまで、アフガニスタンは内戦状態にある。100万人もの命が失われたうえに、500万人が難民として国外(特にパキスタンとイラン)へ流出したと言われている。80年代を通してソ連軍に抵抗したムジャヒディーン(イスラム聖戦士という意味)が92年に勝利を治めたものの、今度は、ムジャヒディーン各派同士が覇権を巡って抗争を繰り返すようになった。さらに、94年にはタリバーン(神学生という意味)が新たな勢力として台頭し、ムジャヒディーン各派に変わる主流派となるに至った。タリバーンは女性の就労の禁止や女子教育の停止を政策として掲げており、国際社会はその人権侵害を問題視している。
 こうした長年の内戦によって、基礎的な社会サービスも十分に整備されていない状況である。また最近では、内戦に加え、30年来とも言われる深刻な干ばつのため、昨年の夏以降、50万人以上とも推定される人々が自分の村を捨てて国内避難民となった。このように、アフガン人、とくに障害をもつ人びとを取り巻く生活環境は非常に厳しい。

2 障害をもつ子どもたち

 2000年にユニセフが東部地域と南東部地域で行った無作為抽出による世帯調査のデータを見ると、18歳未満の子どものうち何らかの障害をもつ者の比率は1.5%であった。その種別として、身体的障害のみをもつ者が80%、知的障害のみが17%、身体的および知的な障害をもつ者が3%であった。
 障害の原因については、先天性が34%とかなり高く、次に感染症および非感染症の病気(小児マヒを除く)が17%と続く。そして、地雷による障害が12%、小児マヒによるものが10%、事故によるものが3%である。これに加えて、その他および不明が24%もある。障害をもつ子どものうち何らかの治療を受けたことのある者が68%しかいないため、原因が分からないと答える世帯が多いのであろう。
 アフガニスタンにおける障害の原因として際立つものが、地雷と小児マヒであろう。国連地雷撤去データベースによると、アフガニスタンに敷設されている対人地雷は1000万個もある。これを踏んでしまうと、十分な医療施設がないこともあり、手足の切断手術を受けることになったり、視聴覚を失ったり、身体がマヒ状態になる場合が多い。現在でも、1か月あたり300人の犠牲者が出ていると言われている。また、アフガニスタンでは、結核に加えて、小児マヒもまだまだ猛威を振るっている。予防医療サービスの脆弱さがその背景にある。さらに、一部の地域ではハンセン病もみられる。
 障害者に対する偏見はどうか。いわゆる先進国と比べても、アフガニスタンでは偏見が少ないと言う人もいる。確かに、どこへ行っても、対人地雷などで手足を失った人々を大勢見かけるし、日常の風景の一部となっている。また、戦争の犠牲者と見られ、社会的に受け入れられやすいのかもしれない。しかし、先天性の障害の場合、公共の場から隔離されている例も報告されている。これには、障害者への偏見をなくすだけでなく、障害者が自立できるように支援していくことが必要であろう。

3 障害の予防へ向けた支援

 障害の予防という観点から、1000万個あると言われている対人地雷の除去が大きな課題となっている。現在でも、1500もの村が地雷や不発弾などに汚染された状態だと推定されている。もちろん、人道的な側面は重要であるが、同時に、経済的な側面から見ても、農業を中心とした生産活動を活性化するために、地雷の除去は不可欠である。アフガニスタンでは、国連が中心となって地雷などの除去を進めているが、外国やアフガニスタンのNGO(民間公益組織)も活発な除去活動を行っている。日本も、地雷除去のために資金協力を行っているほか、パワーショベル型地雷除去機を供与している。
 また、とくに子どもについては、地雷や不発弾の危険性についての啓蒙活動を十分に行うことが障害を予防するうえで有効である。たとえば、地雷があると思われる場所の周辺に赤白の色を塗った石を配置することによって、危険地帯を知らせるようにしている。また、住民、とくに子どもを対象として、地雷などの危険性について教育し、危険地帯へ近づかないよう呼び掛けている。
 小児マヒについては、ポリオ予防接種を全国的に展開している。ユニセフは、世界保健機構(WHO)やNGOと協力しながら、「予防接種の日」を年に5回設けて、子どもへのポリオ・ワクチンの供与を行っている。しかし、内戦などのために予防接種が困難な場所もあり、ポリオ撲滅を達成するには至っていない。

4 障害者のリハビリテーション

 障害者のリハビリテーション分野においては、赤十字国際委員会をはじめとしていくつかのNGOがアフガニスタン国内で活動しており、13の施設がある。
 たとえば、英国のジャーナリストによって設立された「サンディ・ガルのアフガニスタン・アピール(SGAA:Sandy Gall’s Af-ghanistan Appeal)」は、義肢、歩行支援器具、車いすなどを製作しており、障害者のリハビリテーションを支援している。地雷の犠牲者に対して義肢を補綴したり、小児マヒの子どもに矯正を行ったうえで、歩行訓練などの物理療法を実施することが中心的な活動である。
 また、「リハビリテーションとレクリエーションを目指す手足のないアフガン自転車利用者(AABRAR:Afghan Amputee Bicyclists for Rehabilitation and Recreation)」という組織では、手足を失った人々に義肢を補綴したうえで、自転車を使って行動範囲を広げられるように支援している。
 アフガニスタンを全国的に見ると、南西地域と北西地域には施設が一つもなく、こういったリハビリテーションへのアクセスはまだまだ限られていると言えよう。

5 基礎的社会サービスと社会統合

 教育といった基礎的な社会サービスへのアクセスについては、長年の内戦によって、アフガニスタン全土において非常に制約されている。また、タリバンによる女性の就労の禁止令によって、これまで教師の中心を占めていた女性が教壇に立つことが許されておらず、教師の確保さえ難しい状況である。また、女子教育の停止によって、子どもの半数から教育の機会が奪われている。このようなアフガニスタンにおいて、障害者はさらに厳しい社会環境におかれている。とくに、視聴覚障害者や知的障害者への支援は非常に限られていると言わざるを得ない。視聴覚障害者を支援するNGOとしては、アフガニスタン聴覚障害者財団(HIFA:The Hearing Impaired Foundation of Afghanistan)やアフガニスタン盲人協会(AAB:Afghan Association of the Blind)などがある。前者は、他のNGOと協力しながら、アフガニスタンにおける手話の標準化を進めている。
 国連アフガン障害者プログラム(UNCDAP:United Nations Comprehensive Disabled Afghans’ Progra-mme)は、障害者のリハビリテーションと社会統合へ向けて、6か所において、コミュニティのリソース(資源)を総動員するCBR(Community Based Rehabilitation)アプローチを採っている。このアプローチでは、村や地区レベルにおいて、相互扶助のための障害者組織(DPOs : Disabled People’s Orga-nizations )づくりを働きかける。さらに、障害者に加え、その家族、保健ワーカー、教師、その他の関心ある者が参加して、CBR委員会を設置する。そして、障害者組織とCBR委員会は、地元のコミュニティと対話を繰り返しながら、地域レベルで何ができるかを模索していくのである。このほか、障害者が経済的に自立できるよう、小規模融資や職業訓練などの支援もUNCDAPは行っている。
 このように、アフガニスタンという厳しい社会環境の中で、障害者は自立へ向けて、本当に少しずつではあるが、歩み続けているのである。

(かつまやすし 国連児童基金アフガニスタン事務所・モニタリング評価担当)


【参考文献】

・中村 哲『アフガニスタンの診療所から』筑摩書房、1993年
・Coleridge, Peter (1999). Disability in Afghanistan. Peshawar: UNDP/UNOPS-CDAP.
・Gall, Sandy (1994). News from the Front: The life of a television reporter. London: Heinemann.
・Masoud, Ahmed (2000). “Braces and bicycles for Afghan children,” Aina: UN Afghanistan Magazine,Vol.5, No.1.
・Sandy Gall’s Afghanistan Appeal (2000). “Helping the disabled” & “A brief history”, [www.sandygallsafghanist anappeal.org].