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「障害者に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律」について

林俊宏

1 はじめに

─背景および経緯─

 障害者に係る欠格条項とは、目が見えない、耳が聞こえないなどといった身体や精神の障害があることを理由に資格や業の許可等を与えないとする法令上の規定のことです。こうした規定は、障害者も障害のない方とともに生き生きと生活するという「ノーマライゼーション」の理念を踏まえ、見直しを行い、障害者がその能力を十分に発揮することができるようにしていく必要があります。
 政府においては、「障害者対策に関する新長期計画」(平成5年3月障害者対策推進本部決定)のなかで、「必要な見直しについて検討を行う」こととされ、さらに、平成11年には、障害者施策推進本部で、見直しに向けての基本的考え方および具体的対処方針を決定しました(「障害者に係る欠格条項の見直しについて」平成11年8月9日障害者施策推進本部決定。以下「政府方針」という)。
 政府方針においては、障害者の社会参加を不当に阻む要因とならないよう、現在の医学の水準や障害の機能を補完する機器の発達等科学技術の水準等を踏まえて検討を行い、
 1.必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止
 2.真に必要と認められる制度については、
  ○ 対象の厳密な規定への改正
  ○ 絶対的欠格から相対的欠格への改正
  ○ 障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正
  ○ 資格・免許等の回復規定の明確化により対処する
こととされております。
 厚生労働省においては、この政府方針を踏まえて、医療関係者審議会や中央薬事審議会などで検討を進めるとともに、障害者関係団体から意見を聴取するなど、見直しに向けた作業を行い、本年の通常国会に見直しのための法案(障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律案)を提出しました。
 本法案は、6月22日に国会で可決成立し、同月29日に公布され、7月16日から施行されております。

2 改正の内容

(1) 欠格事由の見直し

 従前、医師、歯科医師などの免許制度等においては、「目が見えない者、耳が聞こえない者、口がきけない者には免許を与えない」など、こうした障害がある者には一律に免許等を与えないこととする規定(絶対的欠格条項)が設けられておりました。また、「精神病者には免許を与えないことがある」などの精神障害者についての相対的な欠格条項が設けられておりました。
 こうした規定を、前述の政府方針に従い、
 1.もはや必要性がないと考えられるものは廃止
 2.なお必要性があるとして存続させるものについては、絶対的欠格は相対的欠格へ改正し、また、障害者を表す規定から障害者を特定しない規定へ改正することにより、本人の業務遂行能力に応じて資格等を取得することができることとしました。
 具体的には、
「心身の障害により○○【「医師」など各資格等の名称】の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるものには、免許を与えないことがある」
という規定に改正しました。また、法律で規定する「厚生労働省令で定めるもの」については、
(ア)資格等に係る業務を適正に行うことができるか否かは、認知、判断及び意思疎通を行う能力の有無によるものであることを明確にするとともに、
(イ)それぞれの資格等ごとに、具体的にどのような身体又は精神の機能に係る障害であれば欠格条項の対象となり得るのかならないのかを明確にする
という趣旨から、
「××の機能の障害により○○【「医師」など各資格等の名称】の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」(には免許等を与えないことがある)
((注)「××の機能」については資格制度等ごとに範囲が異なる)
との規定としました。
 なお、労働安全衛生法における就業制限業務に係る免許については、各免許に係る業務を適正に行うために必要となる中核的作業を規定し、
「身体又は精神の機能の障害により当該免許に係る業務を適正に行うに当たって必要な○○の操作(作業の内容)又は○○(周囲の状況等)の確認を適切に行うことができない者」(には免許を与えないことがある)
といった規定としております。
 それぞれの資格等についての法律及び省令における具体的な欠格事由の範囲については、表をご覧ください。

表 現行の法律上の欠格事由の範囲及び改正後の欠格事由の範囲

×:絶対的欠格事由
△:相対的欠格事由
―:欠格事由に該当しない

現行 改正後
法律の規定 省令の規定
制度名 目が見えない者 耳が聞こえない者 口がきけない者 精神病者 心身の障害により○○の業務を適正に行うことができない者として省令で定めるもの 以下の障害により業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
視覚・聴覚・音声若しくは言語又は精神の機能 聴覚又は精神の機能 精神の機能
医師免許 × × ×    
医師国家試験・予備試験 × × × 廃止      
歯科医師免許 × × ×    
歯科医師国家試験・予備試験 × × × 廃止      
診療放射線技師免許 × × ×    
臨床検査技師・衛生検査技師免許 × × ×  
理学療法士・作業療法士免許    
視能訓練士免許 × × ×    
言語聴覚士免許 × × ×    
臨床工学士免許 × × ×    
義肢装具士免許 × × ×    
救急救命士免許 × × ×    
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師免許    
柔道整復師免許    
歯科衛生士免許 × × ×    
歯科技工士免許 ×    
保健婦、助産婦、看護婦又は准看護婦免許 × × ×    
栄養士免許 廃止      
調理師免許 廃止      
理容師免許    
美容師免許    
製菓衛生士免許 廃止      
薬剤師免許 × × ×    
薬局開設許可    
医薬品等の製造業等許可    
医薬品等の一般販売業等の許可    
麻薬の輸入等に係る免許    
けしの栽培許可    
毒物劇物取扱責任者 × × × ×    
特定毒物研究者の許可    
衛生管理者 廃止      
作業の主任者 廃止      
クレーン等の運転免許 そのほか


(2) 相対的欠格条項の的確な運用

1.障害を補う手段等の考慮

 免許等を申請した者が、障害者に係る欠格条項に該当する者である場合に、免許を与えるか否かを判断するに当たっては、その者の障害の程度等のみをもって判断するのではなく、当該者が現に利用している障害を補う手段やその者が現に受けている治療等により、障害が補われまたは軽減されている状況を考慮することが必要であり、その旨省令に規定を設けました。

2.具体的な判断方法

(ア)医師の診断書により障害の有無等を確認
 申請者の障害の有無や現に使用している障害を補う手段や治療等を把握するため、免許等の申請者から提出を求めます。
(イ)医師等の免許
 ○ 身体の機能の障害がある者
 以下の流れにより判断します。
  a 各資格等の修業課程において必須または履修が求められている実習を修了したかどうかを確認
  b 実習を修了した者について、当該申請者が有する障害に係る身体の機能を用いて行う必要がある典型的な実習項目(例:聴覚障害者が医師免許を申請した場合の「聴診」)を履修したかどうか、また、その際どのような補助的手段(例:聴覚障害者が用いるオシロスコープ)を用いたかどうかを確認
  c 当該用いた補助的手段が、現在の科学技術水準及び一般的な医療水準にかんがみ、普遍的かつ実用的と判断される範囲のものであることを確認できた場合には免許を付与
 この判断は、免許等の担当者に加え、資格に係る専門家、障害に精通した専門家および資格の養成、教育に係る専門家が参画して行うことを予定しております。
 ○ 精神の機能の障害がある者
 必要に応じて、診断書を作成した医師から障害の程度・内容を確認するとともに、免許等の担当者および専門家(資格、障害、養成・教育)が共同で、認知、判断および意思疎通を適切に行うことができるかどうかを個別に判断し、免許を付与します。
(ウ)薬剤師等の免許
 ○ 身体の機能の障害がある者
 病院実習等調剤に関する実習を修了したかどうかを確認し、単位の取得が確認できれば免許を付与します。
 なお、申請者が当該実習を修了したかどうか確認できない場合等については、担当者および専門家が共同で、当該者が「調剤」「処方せんを作成した医師への疑義照会」「患者に対する服薬指導等の情報提供」を行うことができるかどうかを確認し、免許取得の可否を判断することとなります。
 ○ 精神の機能の障害がある者
 身体の機能の障害がある者と同様の方法により判断します。

(3) 意見聴取規定の整備

 免許権者が障害者に係る欠格事由に該当するとして免許を与えない場合には、あらかじめ申請者に通知して、求めがあった場合には、免許権者が指定する職員(担当者のほか資格や障害の専門家を予定)に申請者の意見を聴取させなければならない旨の規定を法律上設け、判断のいっそうの適正化を図ることとしております。

3 国会における修正および附帯決議

 本法案は、平成13年4月5日の参議院厚生労働委員会において、附則に法施行後5年を目途として欠格事由の在り方について検討を行う旨の規定を追加する修正が行われたうえで全会一致にて可決され、翌日本会議にて可決されました。また、6月20日に衆議院厚生労働委員会で全会一致にて可決され、6月22日に衆議院本会議にて可決・成立しました。
 なお、両院厚生労働委員会において、附帯決議が付されております。

4 今後の取り組み

 今回の欠格条項の見直しにより、障害者の資格取得等の機会が実質的に確保されるためには、教育や就業環境などにおける必要な条件整備を併せて進める必要があることから、政府の障害者施策推進本部においては、6月12日に条件整備についての申し合わせを行いました。
 今後は、この申し合わせなどを踏まえて、当省をはじめとして関係省庁一体となって施策を推進し、障害者の社会参加が実質的に進むよう努力することが必要と考えております。

(はやしとしひろ 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課)


【資料】
障害者に係る欠格条項見直しに伴う教育、就業環境等の整備について

平成13年6月12日

障害者施策推進本部申合せ

 障害者に係る欠格条項については障害者施策推進本部決定(平成11年8月)に沿って見直しが進められているところであるが、当該見直しにより障害者の資格取得等の機会が実質的に確保されるためには、教育や就業環境など必要な条件整備を併せて推進する必要がある。このため、関係省庁においては、それぞれの資格制度の実態に応じて、以下の事項について適切な措置を講じるよう努めるとともに関係団体に対し協力を要請するものとする。

1 資格取得試験

 ◎障害者の持つ知識、技能が適切に判定されるよう障害の態様に応じて点字等の方法により試験を実施するとともに、受験に際しては障害の態様に応じて手話通訳や移動介助等による支援を行う。
 ◎実技試験においては、福祉用具等の補助的手段の活用に最大限配慮する。

2 教育・養成

 ◎入学・入所試験、卒業試験において資格取得試験と同様の配慮を行うとともに、受講に際して手話通訳、移動介助等の便宜の提供や点字教材、障害に適応する教育機器の配置などの支援を行う。
 ◎校舎等のバリアフリー化を促進する。
 ◎障害を補う補助機器の活用に関する指導、コミュニケーション能力や運動・動作の基本的技能の習得に関する指導など障害のある児童生徒への教育の充実を図る。

3 就業環境

 ◎業務遂行・職場定着を援助する者や障害を補う補助機器の配置、職場のバリアフリー化などを促進するための支援を行う。
 ◎上記措置等を講じつつ、雇用率制度における除外率制度、除外職員制度について基本的に縮小を前提とした検討を行う。

4 障害及び障害者の機能を補完する機器の研究開発の促進