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欠格条項の改正に関する評価と
差別禁止法の必要性

金政玉

改正の問題点と評価

 障害を理由に資格・免許の取得を閉ざしてきた欠格条項の改正案が前通常国会において提案・審議が行われ、可決された。当初から高い専門性と生命・健康の維持、または安全性の確保に直結するという点で欠格条項の見直し全体に最も大きな影響を与えるだろうと注目されてきた医師法等の医療職関連と自動車運転免許に係わる関係法令が改正され、その結果、63制度中41制度の見直しが終了したことになっている。以下、改正内容に関する評価と今後の課題について考えてみたい。

 障害者等に係る欠格事由の適正化を図るための医師法等の一部を改正する法律(厚生労働省 以下、「医師法等の一部改正法」とする)の改正内容は、1.法律本則において「目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者」(絶対的欠格事由)、「精神病者」(相対的欠格事由)等の障害および病名の特定は削除された。2.同本則には、「心身の障害により○○(各資格等の名称)の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの」に該当する者には免許を与えないことがあるとしている。3.「厚生労働省令で定める者」とは、「視覚、聴覚、音声若しくは言語又は精神の機能の障害」により、「必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」(省令事項)としている。つまり、資格試験に合格しても、省令に基づく判定によって最終的に免許の交付の可否が決定されることになり、省令の運用によっては、本人の意思に反した決定が下される可能性がある。
 道路交通法の一部を改正する法律(自動車運転免許)では、1.これまで法律本則に規定された「精神病者、知的障害者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口が聞けない者」「政令で定める身体の障害がある者」(絶対的欠格事由)は削除された。
 一方で、同じ本則に「免許を与えず」「保留することができる」対象として、「幻覚の症状を伴う精神病」「発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気」等が明記され、「政令で定めるもの」となっている。これも「医師法等の一部改正法」の省令事項と同じように、運転免許試験に合格しても2.に該当した場合は、臨時適性検査が今まで以上に厳しく行われ、とくに精神病等への差別、偏見を強化することになるという懸念が指摘されている。
 この間、障害者に係る欠格条項の見直しに向けた対処方針(1.欠格、制限等の対象の厳密な規定への改正、2.絶対的欠格から相対的欠格への改正、3.障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正、4.資格・免許等の回復規定の明確化─1999年8月障害者施策推進本部決定。以下「対処方針」とする)に基づき、関係省庁において検討が行われてきた。これまで見てきたように、確かに対処方針の2.に沿って改正され、資格試験を受ける門戸が大きく開かれたといえる。しかし、対処方針の1.、3.については、「医師法等の一部改正法」省令事項、または自動車運転免許の本則改正でみたように、欠格および制限の対象の「厳密な規定」と各種機能の障害名と病名の特定が併置される形で残され、政令・省令の運用の現場で障害に対する否定視と差別、偏見を背景に障害当事者の意欲と可能性の芽を摘み取ってしまう危険性がある。

今後の課題

 ADA(障害をもつアメリカ人法、1990年)では、「差別」という文言には「応募者または従業員である有資格の個人の既知の身体的・精神的制限に対する合理的な便宜を提供しないこと」が含まれるが、適用対象の事業体がその便宜を供与することが「過度な困難」となることを実証可能な場合に限って差別にあたらないとしている(102条(b)(5)(A))。この「過度な困難」とは、設備に関するあらゆる財源、被用者の人数、費用や財源、設備の運用に対する便宜供与の影響などの点から見た「著しい困難または出費」を意味する(101条(10))とされている。
 こうした観点から日本の現状を考えた場合、今後の課題として第1に国および地方公共団体の責務として、障害者が資格や免許等に基づく業務に就いている間は、その障害者が必要とする補助手段に係る経費等を支援するための必要な措置を講じること、第2に事業者の責務として、資格や免許等に基づく業務に就く障害者を雇用する事業主は、その障害者が必要とする補助手段の確保のため必要な措置を講じる責務を有すること、第3に教育・養成機関の責務として、資格や免許等の取得に際し、その修業や卒業が条件となっている大学等の教育機関においては、必要な課程の履修にあたり、障害者が必要とする補助手段の確保に必要な措置を講じることなどが、広く認識される必要があると考える。
 今後も差別法令である欠格条項の廃止を求めていくことを通じて、障害を理由とする差別の禁止を法制度に盛り込んでいく取り組みがいっそう重要になっている。

(きむぢょんおく DPI障害者権利擁護センター所長・障害者欠格条項をなくす会事務局長)