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1000字提言

街の中にうどん屋をつくる
─商業のノーマリゼーションをめざして─

師康晴

 知的ハンディの人の通所施設「SELP・杜」は、横浜市内では9軒目の授産施設として平成10年5月に開所しました。利用者定員は50人、職員14人が6部門体制に分かれて食関係の仕事を始めました。施設の別称を「食の生活館」といい、国産の原料を使い、添加物に頼らずに手づくりで麺や豆腐、パン、菓子、陶器や農産物などをつくり地域に向けて販売してきました。
 昨年度の授産製品の年間売上高は5000万円を超えました。そのうち原材料費は4割を超えていますので、光熱水費や諸経費を差し引くと月額の工賃は2万円強ですが、だれでもが地域生活(グループホーム)をするための最低経費、年金と工賃を併せて10万円を想定していますが、それが可能になるように日々の仕事を組み立てています。
 この間、養護学校の卒業生や失業して在宅になった人、他の施設利用者のなかでSELP・杜を希望する人たちが多くなってきました。そのニーズに応えるために今年度から定員以外に分場制度を導入して、総定員を70人にしました。同制度は小規模ながら借地借家が認められていますので、街の中に店を借りられるという利点があります。4月に1軒目の分場「杜のマーケット」(定員15人)が農業系の分場としてオープンしました。本体施設の前にある古いマーケットを借りてコロッケや納豆・蒟蒻(こんにゃく)をつくり、外には近隣の農地(1200坪)を借りて無農薬野菜を作っています。
 10月からは2軒目の分場「杜の台処」(定員5人)が商業系の分場として開店します。店名は法人名の「杜」「台所」と「麺処」からとりました。本体施設から車で15分、JR大船駅徒歩3分のところにあるうどん屋です。麺類はSELP・杜の麺部門が作ります。信州のそば粉や小麦粉を使用、うどんは沖縄の荒塩と自然回帰水で練り込み、防腐剤の代わりに紀州産の白梅酢を使います。製麺は自閉傾向の青年2人が担当、彼らなりの工夫を重ねた麺は、今ではプロ顔負けのものがつくられるようになってきました。店で出す麺は茹でたて、天麩羅は揚げたてを原則とし、将来的には夕方からの飲食店につなげられたらと夢想しています。
 麺類のほかに店頭にはSELP・杜の国産大豆と天然苦汁を使った豆腐や手作りの陶器などを置き、飲みものもSELP・杜で自家焙煎したコーヒーや菓子部門の豆乳入りのシュークリーム、生ケーキを用意して女性が入りやすい店をつくるつもりです。
 街の中の立ち食いうどん屋に女性が入り、その接客を知的ハンディの人たちがするという絵の中に、商業界でのノーマリゼーションが潜んでいるような気がします。

(もろやすはる 横浜SELP・杜施設長)