移動円滑化基本構想づくり
―堺市の取り組み―
堺市 交通政策担当保健福祉政策課
平成12年11月、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(通称:交通バリアフリー法)」が施行されました。
これを受けて、堺市では、12年度に庁内組織として、堺市交通バリアフリー化推進検討会並びに堺市交通バリアフリー化推進幹事会(ワーキンググループ)を設置し、移動円滑化基本構想(以下、基本構想という)の策定に向けた調査、研究等を進めてきました。
さらに13年4月には、学識経験者、高齢者・障害者各団体代表、自治会・女性団体代表、地元商業者代表、行政(国、大阪府、堺市)、公安委員会(警察署)、道路事業者、公共交通事業者などで構成する「堺市交通バリアフリー化検討委員会」(委員長:三星昭宏近畿大学理工学部教授)を設置し、基本構想案の策定に本格的に着手いたしました。委員会の運営にあたっては、主に公共交通事業者や道路事業者等との調整を担当する建築都市局交通政策担当と当事者参加等を担当する保健福祉局保健福祉政策課の共同事務局となっています。
委員会は、堺市が行う鉄道駅周辺地区など、福祉のまちづくりを重点的・一体的に進める地区(重点整備地区)の交通バリアフリー化基本構想の策定について協議、検討し、基本構想案を立案します。
《堺市交通バリアフリー化推進組織図》
拡大図
基本構想策定への取り組み状況
基本構想の策定にあたっては、まず市域全体を包括したバリアフリーのまちづくりの考え方をベースに、全体的な交通バリアフリー化基本理念を設定し、全市的なバランスを図りながら、各対象駅舎の基本構想を順次策定していきます。
《堺市交通バリアフリー化基本理念》高齢者・障害者などの自立と社会参加に向けた都市環境整備の推進とより質の高い都市基盤の提供を目的に、“だれもが移動しやすく、安全・快適で活力のあるまちづくり”を基本理念として、ユニバーサルデザインの考え方をベースに市民・当事者参加型のバリアフリーのまちづくりを目指します。 |
国の基本方針では、「特定旅客施設」を中心とした地区を「重点整備地区」と定め、その地区について基本構想を策定し、交通バリアフリー化を進めていくことになっています。本市においては、市内鉄道駅29駅すべてが「特定旅客施設」の条件を満たしており、基本構想策定の対象となります。
そこで、原則として平成13年度から段階的に市内29駅の駅舎および周辺地区のバリアフリー化をめざすこととし、12年度に行った全市実態調査の結果等を踏まえ、今後重点整備地区として位置付け、早期に基本構想を策定する必要がある地区を、
1.通勤・通学の利用が多い、あるいは商業施設の集積が高い地区で、バリアフリー化を今後とも進める必要がある地区
2.高齢化の進展が著しいまたは障害者の利用が多いと考えられ、その移動ニーズへの対応が急務である地区
3.主要な公共公益施設が立地または計画されている地区
4.駅の改良・新設および駅周辺の開発・整備が計画されている地区
の以上四つの視点に基づき検討を重ねた結果、第1次重点整備地区として15駅を抽出しました。
さらにこの中から、周辺地区のまちづくり状況・計画、駅および周辺地区の施設整備状況・計画等を勘案し、13年度の基本構想を策定する地区として6駅5地区を選定しました。
《平成13年度基本構想策定地区》1.南海本線堺駅・南海高野線堺東駅を含む都心地区 |
今後、委員会においては、これら6駅5地区について、以下に述べる交通バリアフリー点検調査、意識調査、当事者懇話会の意見および市民からのパブリックコメント等の詳細データを参考に、各鉄道事業者および道路管理者等から意見聴取を行い、具体的な事業計画との調整を図りながら、基本構想案の検討を進めていきます。13年12月頃までに各地区の基本構想骨子案をまとめ、さらに当事者等広く市民から骨子案に対する意見を求めたうえで、14年3月を目途により詳細な基本構想を策定する予定です。
住民参加(当事者参加)の手法
基本構想の策定にあたっては、高齢者、障害者等の当事者をはじめ市民の意見を幅広く取り入れていくことが大きな課題となります。本市では、検討委員会への当事者参画をはじめ、さまざまな手法により住民の声をより多く反映できるよう努めています。
1.市民への情報公開
広く市民の意見を求めるという趣旨から、検討委員会は公開し、傍聴も可能です。また、会議記録(概要版)等の資料も市の市政情報センターで一般の閲覧に供しています。
2.交通バリアフリー化懇話会の設置
「堺市交通バリアフリー化懇話会」は、交通バリアフリー化検討委員会の広聴的な役割を担う部会として、高齢者、障害者、NPO(民間非営利組織)、女性団体など当事者を中心とした市内20団体のメンバーが参加しています。当事者の協力を得て、バリアフリー化に関する身近な要望など基本構想策定にかかわるさまざまな意見の収集の場となっています。さらに、12月頃には、現在策定中の基本構想骨子案に対する意見も求めていく予定です。
3.広報媒体による情報提供およびパブリックコメントの収集
広く市民への情報提供については、市の広報紙「広報さかい」で交通バリアフリーに関する特集を組み、バリアフリー意識の醸成を図るとともに、郵便、FAX、さらに市のホームページを利用して、広く交通バリアフリーについてのパブリックコメントを求めてきました。広報12月号には基本構想骨子案を掲載します。
4.交通バリアフリー基本構想策定に係わるアンケート調査
7月下旬から8月中旬にかけて、当事者等を対象に、外出時における活動実態や交通バリアフリーに対する意識調査を実施しました。無作為に抽出した市内に居住する高齢者、障害者等、計3,300人を対象に、郵送方式による(配布・回収とも)アンケート調査を行った結果、このうち1,304人(回収率39.5%)から回答を得ました。現在調査結果の概要集計を終え、委員会事務局においてさらに内容の精査を行っています。
5.交通バリアフリー点検調査への当事者等市民参加
基本構想策定地区における交通バリアフリーの実態や当事者の視点からの問題点を把握するため、高齢者、障害者、地元自治会、女性団体、商店代表、さらにボランティア等の参加による現地点検調査を行いました。
平成13年度基本構想策定地区6駅5地区について、8月上旬から9月上旬にかけて、延べ478人の参加による大規模調査となりました。各地区の調査日程と参加人数は以下のとおりです。
調査方法は、各地区においてそれぞれ10~20人のグループ4~6班に分れ、このうち1班は駅施設・駅前広場の点検調査、残りの3~5班はルート別に道路の点検調査を担当し、用意したチェックシートに各調査員が記入する形式で実施しました。なお、堺東駅周辺地区では、交通事業者等委員会メンバーによるキャップハンディ擬似体験もあわせて実施しました。猛暑の中にもかかわらず多数の市民の協力を得て、道路や駅施設等の現状について多くの貴重なデータが得られました。
特に、今回の点検調査に当たっては、チェックシートの記入など調査員(当事者等)を補助するボランティアを事前に一般公募し、延べ100人を超える市民の参加があったこと、また各班のリーダー役として、さらに擬似体験の補助員として、キャップハンディボランティアの協力を得られたことは、広く市民へのバリアフリー思想の普及啓発に役立つものと考えています。
交通バリアフリー点検調査の日程と参加人数
日程 | 対象駅 | 新金岡駅 | 堺市駅 | 北野田駅 | 堺東駅 | 堺駅 | 深井駅 | 合計 |
調査日 | 8/2 | 8/6 | 8/8,9/4 | 8/27 | 8/28 | 9/3 | 7日間 | |
参加人数 | 障害者 | 10 | 9 | 12 | 11 | 12 | 12 | 66 |
自治会 | 21 | 12 | 19 | 17 | 16 | 15 | 100 | |
商店代表 | 2 | 0 | 3 | 1 | 3 | 2 | 11 | |
女性団体 | 2 | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 | 11 | |
ガイドヘルパー | 5 | 7 | 8 | 6 | 7 | 8 | 41 | |
キャップハンディボランティア | 5 | 5 | 5 | 15 | 5 | 5 | 40 | |
リーダー他 | 0 | 0 | 8 | 0 | 0 | 0 | 8 | |
一般ボランティア | 22 | 14 | 19 | 21 | 16 | 15 | 107 | |
外部調査員 | 8 | 8 | 14 | 8 | 5 | 7 | 50 | |
委員会メンバー | 8 | 6 | 10 | 7 | 8 | 5 | 44 | |
合計 | 83 | 62 | 100 | 88 | 74 | 71 | 478 |
今後の展開と課題
平成13年度中に6駅5地区の基本構想を策定した後は、第1次重点整備地区の残り9駅について、15年度までの2年間を目標に基本構想の策定を進めていきます。交通バリアフリー法ではむこう10年間で全国の鉄道駅舎の交通バリアフリー化を完了する予定ですが、堺市においても、5年後の法の見直しを踏まえ、残る市内全駅の基本構想の策定に着手するとともに、基本構想を策定した各駅のバリアフリー化事業の進捗状況も順次チェックしていきたいと考えています。
基本構想では、駅ごとの重点整備地区において主要な特定経路を設定し、その経路を中心に移動円滑化事業を進めていくこととなりますが、今後は、駅および周辺地区からそれ以外の地区へと、さらに広い面的なバリアフリーの空間づくりが必要となっていきます。
また、設備等ハード面の整備だけではなく、市民一人ひとりがバリアフリーについての理解を深め、だれもが住みやすいまちを実現するため、情報提供、啓発を進め、地域による積極的なまちづくりへの取組みを呼びかける等ソフト面の充実が求められています。