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オランダにおける
障害者の所得保障と介護保険

佐藤久夫

障害者の所得保障

 オランダでは障害者年金は最低ベースが最賃の7割(要介護者は10割)で、被雇用者は以前の給料と加入期間による上乗せがある。このように所得保障としての年金という点に特徴があるが、日本の場合、基礎年金額の根拠(つまり年金の目的)が不明である。またサービス利用に当たっての自己負担はあるが、日本の介護保険と違って応能負担である。

 日本でもオランダでも老齢、障害、遺族、失業などに対する保険による所得保障がある。しかし中身はかなり違う。オランダではこれら保険事故の種類ごとに公的保険があるが、日本では、厚生年金保険の中に老齢・障害などがあるように(雇用保険を除いて)職域別保険である(基礎年金制度などで統合化はめざされているが)。保険料率も給付水準も受給者割合もオランダがかなり高い。
 日本では20歳以上の全国民が国民年金に加入し、被用者はそのうえに被用者年金に加入する2階建て構造になっている。被用者の場合、15歳から加入できる。
 オランダでは、公的障害年金保険は、被用者障害保険(WAO)と自営業者障害保険(WAZ)である。WAOの保険料(給料の7.69%)は、労災もカバーしている事情にもよるのか、全額事業主負担である。WAZは自営業者を手助けしている配偶者、専門職業者や経営管理者・株主なども対象とする。このほかに税を財源とする若年時障害援助法(Wajong)があり、17歳までに障害を受けたか、それ以降でも学生の時に障害者となったものを対象とし、18歳から給付がなされる。したがって専業主婦は障害者となっても障害年金はない。もともと所得がなかった者に、障害をもったからといってどうして所得を保障する必要があるのか、と逆に聞かれた。
 障害年金受給者数は、オランダでは人口比5.9%(約94万人、注1)で、日本では1.8%(約232万人、注2)である。オランダは日本の3.3倍の受給率である。日本では障害無年金者が社会問題となっているが、オランダでは能率の悪い労働者を職場から排除するために障害年金が使われていると、その「乱用」批判も聞かれた。
 オランダでは受給者は65歳には老齢年金に移行するが、日本では障害厚生年金受給者の28%、障害基礎年金の21%が65歳以上である(注3)。オランダでは普通、老齢年金に各自の会社の年金などが加わるので、65歳から収入が下がるということはないという。

オランダの障害年金給付

 WAOの障害年金が支払われるのは52週以上経って15%以上(WAZとWajongでは25%以上)の障害が残っている場合である。ただし実際には、受給者の70%(WAZでは59.4%、Wajongでは97.7%)は最高ランク(80%以上障害)と認定されている(注4)。
 WAO給付は第1段階と第2段階とで金額の計算の仕方が異なる。第1段階は所得減補足の期間(開始年齢により0~6年間)で、第2段階はフォローアップ期間(障害が続けば65歳まで)である。第1段階では障害をもつ前に最後に受けた給料が基本となり、その14%(障害程度15~25%)から70%(障害程度80%以上)まで7段階に区分される。ただし、もし介護を要する場合には100%が給付される(入所者を除く)。
 第2段階ではフォローアップ給付に変わる。その額は、最低賃金(日額116.97ギルダー(G)=5849円、注5)と最後の給料(ただし上限は日額337.33G=1万6876円)との差額の2%に、15歳からWAO給付受給時年齢までの年数をかけ、その額を最低賃金に上乗せし、こうして基礎額を算出し、これに障害程度による%(前述、要介護は100%)をかける。
 Wajongでは基礎額は一律に最賃額である。給付額は、障害の程度によってその基礎額の21%(25~35%の障害)から70%(80%以上の障害)までである。ただし、常にケアが必要な場合には、最賃の100%である(施設入所者を除く)。
 障害程度の関係で給付額が低く、かつ他の収入(給料)もないかもしくは少なく、社会的な最低生活費(最賃の70%)に足りない場合、その差額を埋める補足給付TWや高齢・部分障害失業者給付法IOAWがある。したがって、学生時代までに発生した障害の場合、25%以上の障害率であれば、いろいろ組み合わせて最賃の70%(月額8万2460円)が保障され、ケアを要すれば100%(11万7800円)が保障される。日本の小さい時からの障害者は、(通常の)就労が困難な程度以上でないと受給できず、受給できる場合で、一級でも最低賃金12万1512円(2000年度、全国平均、日額×24で計算)の70%に足りない8万3775円(2000年度)である。なお「常時特別の介護」を要する場合には、特別障害者手当が付いて月額11万円程度になる。厚生年金加入者の場合も、オランダと計算式が違うが金額は似たものとなる(重度障害者手当を加えるなどによって)。
 総合的に見ると、日本の障害年金制度に関する政府の情報公開の不備のために、重複等を除いた実際の受給者数の把握はできないが、少なくとも日蘭間に3倍の受給率の差があり、オランダで受給している人の3人に2人以上は日本では受けていない。重度障害者の受給額に日蘭間の差はあまりないが、オランダの受給者の82.4%は被用者障害年金WAOで、日本の場合は52.5%が国民年金であることを考えると、対象数だけでなく、給付額でもオランダが進んでいる。さらにオランダの家賃補助制度や移動手当制度なども考慮しなければならず、また1G=50円とした換算も、生活必需品の購買力の面からは見直しが必要であるかもしれない。

オランダの介護保険とパーソナル・バジェット

 オランダでは、介護保険(正式には特別医療費補償支出法AWBZ)が、高齢者・障害者の施設・在宅サービスと精神保健福祉関係サービス(入院からリハまで)をカバーし、一般医療でも1年以上の入院費用をカバーするなど、広範囲の保健・医療・福祉サービスを担当している。1998年からの改革で、各地域に中立的・独立的な地域アセスメント機関(Regional Indicatie Orgaan:RIO)ができ、それまでサービス提供機関などによって行われてきたニーズアセスメントとケア認定の作業を一元的に行うようになった。RIOは1998年現在、83か所で平均住民人口は約25万人である。AWBZの評議会は各地の健康保険機関(CO)に実際の運営を委託し、COは第三者的機関であるRIOにアセスメントを委託する(注6)。
 RIOは患者・ケア利用者組織、ケア提供者、開業医組織、CO、そして市町村代表者の五つの利害関係者が合同で運営する。実務的にはアセスメント専門家(看護、ソーシャルワーク、老年心理、そして社会老年学など)が行い、施設入所の場合はチームで行う。統一的な評価表と評価手段がアセスメント規則に規定される予定で、準備中という。
 この評価により、3か月以上にわたる在宅ケアを必要とする人はCOに申し込んで、パーソナル・バジェット給付の方式を利用することもできる。一般的には、ケア認定に従ってCOが利用者の意見を聞きながら適切なサービス提供機関を選び、サービス提供と費用支払いの契約を結ぶが、パーソナル・バジェットを選んだ場合は、本人の所得に応じた自己負担分を差し引いた額が本人サイドに渡される。具体的には、友人や家族に支払う予定の介護報酬の部分は直接本人に渡され、非営利組織や営利組織などに依頼する予定の部分は、社会保険銀行の本人用の口座に振り込む。サービスを受けた後で請求書をCOに送ると、COは社会保険銀行に連絡して支払いを行ってもらう(注7)。
 通常は半年でRIOによる再評価を受けるが、必要に応じて再評価はできるし、5年間有効とすることもできる。
 パーソナル・バジェット利用者は、1998年の調査では平均年齢60歳、女性が75%、受給額は平均52G(2600円・1日)、使途内訳は家事援助50%、介護10%、看護4%、これらの組み合わせ34%である。2001年3月の国会報告(注8)では、1996年の5400人から、2000年には高齢者・身体障害者1万6282人、知的障害者6195人、実験段階の精神障害者141人の合計2万2618人へと発展、2001年からは精神障害分野での本格実施、施設ケアへの拡大などが計画されている。
 この方式は利用者から喜ばれているが、会計処理や雇用に伴う手続きや責任など難しい面も多く、利用者を中心とした二つの団体が各地に支部を設け、政府から助成金を受けながら助言事業を行っている。

(さとうひさお 日本社会事業大学)


(注1)

LISV, Kerncijfers: werknemersverzek eringen, 2001(www.lisv.nl/4.publicatie.pdf)。2001年1月現在。WAO, WAZ, Wajongの合計。

(注2)

日本政府統計データ(http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kihon/data12およびhttp://www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y1824000.xlsなど)による。一般の年金は1998年度、戦傷病は2001年度、労災は1999年度統計。重複してカウントしてあることや、一般の年金の数字は受給権者数であるため、実受給者数はこれよりかなり少ない。また、労災障害補償年金受給者約56万人の平均年金額は26.9万円と、所得保障的意味合いが薄い部分もかなり含まれており、国際比較には注意を要する。

(注3)

厚生労働省年金局、年金財政ホームページ、1997年資料

(注4)

CBS,Statistish Jaarboek 2001

(注5)

1ギルダー(G)=50円(2001.5レート)とした。

(注6)

佐藤久夫「オランダの介護保険制度改革の動向:アセスメントとケア認定のプロセスを中心に」日本社会事業大学社会事業研究所編・発行「要介護高齢者の在宅ケアマネージメント・システム等に関する国際比較研究」所収、1998、pp31-48

(注7)

八木ありさ「オランダの介護保険制度改革の動向:パーソナル・バジェット・システムの導入をめぐって」日本社会事業大学社会事業研究所編・発行「要介護高齢者の在宅ケアマネージメント・システム等に関する国際比較研究」所収、1998、pp49-58

(注8)

http://www.minvws.nl/pdf/gehand.pdf