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ろうあ高齢者の介護保険の実情

清田廣

 2000年4月から、介護保険制度がスタートしました。措置によるサービス提供から利用契約によるサービス提供へと変わってきました。この変化が、手話コミュニケーションを主たる手段として生活しているろうあ高齢者にどんな影響があったのか。 
 大阪ろうあ会館が実施している介護保険事業と契約し、サービス提供を受けている57名のろうあ高齢者の実情から考察してみたいと思います。
 【収入面】生活保護18名(31%)・障害基礎年金26名(46%)・厚生年金11名(19%)・遺族年金2名(4%)
 収入面では、生活保護と障害基礎年金で生活している人が77%を占めています。
 このようなろうあ高齢者が介護保険料を支払い、介護サービスの利用料1割を負担し、生活費として残る月6万から7万円の中から家賃・医療費・生活費を捻出するとなると、実質は生活保護世帯より苦しい場合があります。
 昭和40年代以前は、聴力障害者への理解も手話通訳者も皆無という状況でした。就職もよほど恵まれた人以外は、社会保険もない零細企業でした。このことが生活保護と障害基礎年金受給者77%という数字となって表れています。
 データでは、独居と夫婦のみの世帯が91%を占めています。また、聾教育の義務化が昭和23年に小学部だけ(中学部は昭和28年)ということもあり、ろうあ高齢者の中には未就学の人がたくさんいます。聴力障害者が未就学のままということは、手話も音声も言語獲得がなく、言葉がまったく身に付かないことを意味します。文字が読めない、書けない状況で何とか今日まで生きてきた、その人の人生はいかなるものか。
 「契約」というと、書類のやりとりが基本になりますが、まずこれが不可能です。本人と契約ができなかった例として、77歳のろうあ高齢者(生活保護世帯)のケースがあります。介護申請をして訪問介護サービスを利用することになりましたが、契約の意味が伝えられず、また本人が契約の内容を理解できないうえに身寄りもないため、契約行為が成立しませんでした。福祉事務所と相談をして、後見人制度を利用しようということになりましたが、高額の鑑定費用がかかります。結局、福祉事務所長が代理人となって契約をすることになりました。大阪ろうあ会館ではケアプランの作成を行っていますが、サービスの利用は、支給限度額の27%と低いものになっています。
 「利用者が選択する」福祉制度を真に利用者の立場で構築していくことを考えるなら、サービス基盤の整備をきちんとさせ、障害の違いに応じて利用できる内容を具体化することを最優先すべきです。そうしてこそ、正しく対等の立場での契約が成立する基盤ができたと言えるでしょう。
 福祉サービスの享受に貧富の差を織り込むべきではありません。「福祉とは何か」、人が人らしく生きていくために援助することです。福祉がお金で決まるなら、もはや福祉とは言えないでしょう。

(きよたひろし 社団法人大阪聴力障害者協会会長)