音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

技術を武器に雇用労働者への道を
―視覚障害者の課題とのかかわりで―

橋本宗明

 視覚障害者は「安定的」所得保障こそ、関心事である。テーマ後半の「契約」は、施設入所と絡むので、ここでは触れない。また、高齢視覚障害者は各種年金をもらっているので年金一般の中で論ぜられるべきものとし、ここでは省く。
 さて、障害者はだれでも「自分で稼いで、自分でめしを食いたい」と思っている。だから、視覚障害者は、盲学校やリハセンターを出て「あはき(按摩・鍼・灸)」を開業する。ほかに道はないから。それに、開業は簡単だ。福祉事務所から世帯更生資金を借りて「6畳1間に電話1本」広告の千枚も撒(ま)けば、開業「出張専門」はできる。でも、その容易さは、そのまま起業としての脆弱(ぜいじゃく)さにつながる。それに、腕は良くても経営能力があるとは限らない。そして晴眼業者の進出と、未曾有(みぞう)の不況は、視覚障害業者の「生業」的零細業者をスローンデスのように締めつけてゆく。
 零細な個人開業に由来する不安定性から、どうしたら抜け出せるか? 全盲あはき開業者の絶えざる関心事である。たとえば、何とかあはきを武器に雇用労働者になれないか? かつてこれは、夢物語であった。
 最近、一部大企業で、ヘルスキーパー(企業内理療師)という職種ができてきた。労働現場では、パソコンを軸にした労働密度の濃化は多くの労働者に心理的・身体的歪みを起こさせている。企業にとってヘルスキーパーの採用は、単なる福利厚生ではなく生産性の維持向上策として大きな意味を持ってきた。
 しかし、日本企業の大部分を占める中小企業は、このままではなかなか雇いきれない。しかも潜在受容は、大企業並みにあるはずだ。
 そこで提案する。公益法人で「視覚障害ヘルスキーパー派遣協会」を各都道府県ごとにつくる。所謂(いわゆる)人材派遣業である。財政負担と、職員の需要の両面で専属のヘルスキーパーを雇えない中小企業は、そこと契約し、必要なヘルスキーパーの供給を受ける。視覚障害ヘルスキーパーは、この派遣協会に雇用され、仕事と収入を保障されることになる。
 あはき業が社会的に、十分な有用性を持っていることは、今更、言うまでもない。そして、視覚障害者に比較的、適職であることも過去の実績から納得しうる。問題は「雇用」とか「個人開業」といった就業の社会的有様である。個人開業はマルチ能力が求められる。視覚障害者は情報その他の点で不利である。雇用労働者として専門性の中で働けば、生活の安定が得られると期待される。

(はしもとむねあき ロゴス点字図書館)