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平等と統合を実現する
「スタンダード・ルール法」の制定を

森昇

 授産施設は、「訓練の場」として一般雇用への移行をめざし、一方で「就労の場」としてより多くの賃金を支払う努力をしてきた。
 しかし、一般雇用への移行は年間0.8%程度(注1)と極めて少なく、「訓練の場」になり得ていないことが明らかとなった。
 そこで、全国社会就労センター協議会では「継続的な就労の場」の役割を重視し、最低賃金に近い賃金支給をめざすとともに、一方で就労になじまない人の日中活動を保障する制度の創設を提言してきた。しかし、福祉工場を除く全種別の授産施設利用者の平均賃金は1か月当たり1人1万7千円程度(注2)であり、「就労の場」の実現も厳しい。
 その原因に、新規施設の増加、経済不況、施設や職員の意識の希薄などが上げられるが何よりも、2~3千万円程度の授産設備整備費で数十名の就労と所得の保障を求める制度自体に無理があると言わざるを得ない。
 また、利用者本人に地域生活や企業就労への移行希望があっても、家族の思いは必ずしもそうではないという調査結果(注3)があり、家族の置かれている環境や社会制度に深い問題があることを示している。
 このような実態のなかで、2003年度より利用契約制度へと移行する授産施設のうち、どれほどの施設が所得保障を契約内容に盛り込むことができるだろうか。
 ここで今一度想起したいのは、『今後の障害者保健福祉施策の在り方』(1997年)の基本理念に「障害者の機会均等化に関する規準原則」が据えられていたことである。
 国連では、1993年に「スタンダード・ルール(障害者の機会均等化に関する規準原則)」が決議されたが、このルールは、人はすべて平等であり同じ価値があるとの観点から、教育、生活、医療、雇用、その他のすべての部分での機会の平等と統合を求めている。
 わが国では、これまで障害のある多数の成人を福祉施策の対象としてきたが、今後は一般雇用や地域社会への統合を進め、他の人と同等の生活を送ることができる「所得保障」を実現することが急務である。
 契約制度に移行するのであれば、今こそ、この「スタンダード・ルール」の基盤に立ち、他の人と同等となるうえで必要な就労、生活、移動、情報、その他のサービスの提供を具体的に定める法律を制定すべきである。
 すべての人が同等となった時に、初めて対等で成熟した契約社会が成立するからである。

(もりのぼる 社会福祉法人修光学園理事長)


(注1)「平成12年度社会就労センター実態調査報告書」(全国社会就労センター協議会)
(注2)(同★右→上★)
(注3)「はたらく・くらす―社会就労センターからの提言―」(全国社会就労センター協議会)