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ハイテクばんざい!

PHSの通信方式を利用した
外来診察の待ち時間における配慮

鯉沼琢也

●外来診察の現状

 病院や診療所における外来診察の混雑状況は日を重ねるごとに増してきています。これから進んでくる病院の統廃合や高齢社会による年配者の人口増加など、診察を受けるために待つ時間の要因は増える一方ではないでしょうか。
 現在、病院や診療所では情報システムの積極的な導入により、少しでも待ち時間の短縮に貢献しようとしています。しかし医師の数より圧倒的に外来患者が多いため、なかなか思うように事が運んでいないのが現状です。

●障害のある人への対応

 病院や診療所に情報システムを導入したからといっても、すべての外来患者に同じようなサービスの提供ができることは不可能です。待ち時間が長い場合、一般患者であれば受診する診療科の職員に自分が何番目なのか、またはすでに呼び出されてしまったのか等の確認は容易にできますが、これが障害のある人となると大変な行動となってきます。通常は職員の目が届く場所で待つか、付き添いの人とは別の待ち合い所で待つことが多く、いくら情報システムを導入したからといっても診察の待ち時間が短縮されることは少なく、特に障害のある人への配慮までは目が届きにくいところなのです。

●予約制の導入

 最近の病院や診療所では、診察待ち時間を有効にするため予約制という方式を導入する傾向があります。これは予約をすれば指定時間に診察が受けられるというものです。従って予約した時間の前に受付を行えば、長い時間待たなくても診察を受けることができます。ただし、予約をしていない患者については病院によって運用が違うようです。たとえば予約をしている患者の診察の合間に予約をしていない患者を診察する場合や、予約をしていない患者専用の診察室を設ける場合など、診察順番の決め方にもいろいろあるようです。これらから分かるように予約制を導入しても、予約をしていない患者の診察待ち時間は昔とあまり変わっていないのです。
 「たかが風邪なのに何でこんなに待たされるのか?」なんて思ったことはありませんか? これは予約をしていないことも要因の一つなのです。体調が随分良くなってから再度診察を受ける場合は、すぐに診察してくれることが多いかと思います。これが予約制というものであり、いろいろな面で長所と短所があるようです。

●待ち時間が長いのは仕方がない

 ある総合病院では、予約制を導入している診療科と導入していない診療科があります。予約制を導入している診療科はそれほど待ちませんが、導入していない診療科は受付の早い順に診察をしているため、午前の早い時間に受付をしても、実際の診察開始は午後になってしまうこともあると思います。何時間も待たされるのは、受付の早い順で診察しているので仕方がないのですが、これらの理解がない患者はどう思っているのでしょうか。

●待っている間は何をするか?

 これだけ待たされるとトイレへ行くことはもちろんのこと、喫茶店や本屋で時間をつぶしたりすることも可能です。あまりにも待ち時間が長いときは家へ帰れることもできるでしょう。一般の患者であればこのようなことはできますが、障害のある人となると話は違います。
 障害のある人は混んだ待ち合い所で診察の順番をずっと待っているだけなのです。それはいつ呼び出されるか分からないため、ひたすら待つしかないのです。

●待ち時間を改善しようと思わないのか?

 この厳しい経済状況のなか、利益や経費削減につながらないサービスを企業が行うでしょうか? 病院や診療所も企業と同じように経営に貢献できないサービスは、なかなか手が回らないのが実情のようです。しかしながら、このような患者の精神的な負担を少しでも改善しようとする病院があります。それは外来診察に来院した患者に携帯端末を持ってもらい、診察順番が来ると、持っている携帯端末で呼び出されるというシステムを導入している病院です(図1)。弊社が取り扱っているシステムもそのひとつで、外来患者呼出システムと呼んでいます。

図1
図1 イラスト

 このシステムは、呼出受信機という携帯端末を受付時に持っていただき、光・音やメロディ・振動で診察が近づいたことを知らせてくれます。これらの呼出方法により、目や耳に障害をもっている患者にも診察順番が近づいたことを知らせることができます。呼出受信機には液晶画面を設けており、患者の名前や受診する診療科および呼出時の案内メッセージを表示する機能を備えているため、障害のある人を含め多くの外来患者が利用でき、また患者のプライバシー保護にも貢献できると思っています。
 このようなシステムは新しいものではなく、通称ポケベルというもので対応してきました。ただし弊社はこのシステムを開発するにあたり、院内でナースコールなどに使用しているPHSの通信方式に注目しました。PHSの通信方式を使用することで双方向通信が実現でき、医師や職員は呼び出しに対する応答が確認できる便利な機能を備えることができるからです。
 呼出受信機は年配の患者でも操作できるようにボタンを二つだけにし、配置も右手で押しやすい位置に配慮しました。さらに電源を勝手に切ることができないようにスイッチをなくし、また感染対策として有機系素材のアメニトップという抗菌剤を本体表面に使用しています。圏外に出たときの圏外通知や管理装置による未返却管理などの充実した機能も備えています。
 病院や診療所での病院内専用PHSの使用については、一定の注意事項を守っていただく必要はありますが、携帯電話に比べて電波の出力が小さいこともあり、よほど使い方を間違わない限り医療機器への影響はほとんどないはずです。
 また外来患者呼出システムは、病院の情報システムからペースメーカーなどを装着している患者の情報を受信して、該当する患者に呼出受信機を貸し出さない機能を持っています。最近の病院では、このようなシステムを採用して待ち時間の短縮はできないまでも、待ち時間を有効に使っていただこうという動きが活発になってきています。

●これから何が必要なのか?

 このシステムは再来自動受付機能や拡張性を考え、院内のPHS交換機と接続できるようになっています。ただし、これらのほかにも改善事項は数多くあり、ローコスト化はもちろんのこと呼出受信機の筐体(きょうたい)を小型化することや画面の大型化、また再来自動受付機の小型化、制御機に対する処理能力の向上などがあります。さらに音声による会話が実現すれば、応答がない患者に職員が直接話しかけることができるようになります。
 患者が病院や診療所を選ぶうえで重要なのは、診療の質などが主な理由の一つですが、このような患者サービスも一つの要因ではないかと思っています。今後このようなシステムが多くの病院や診療所に導入されれば、待ち時間を有効に使った病院が数多く出てくることは間違いないでしょう。先は長いですが、気長に待っていてください。

(こいぬまたくや 松下電器産業株式会社システム営業本部技師)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2002年2月号(第22巻 通巻247号)