音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

フォーラム2002

「知的障害のある人を理解するために」
ハンドブックを全国の警察に配布!

堀江まゆみ

1.「街の中で『安全』に暮らしたい」

―だからセイフティ・ネット―

 知的障害者が犯罪被害に遭ったりトラブルに巻き込まれるケースが後を絶たない。暴力、性的被害、詐欺、誘拐、殺人など、あまり知られていないが、知的障害のある人は実に多くの犯罪被害に遭っている。施設から地域へ生活の場が移るにつれて、残念ながら犯罪やトラブルに巻き込まれる障害者がますます増えていくことになるだろう。
 私たち厚生科学研究班(「地域生活における障害のある人のためのセイフティネット構築」)は、地域で暮らす知的障害者の生活を守るためには「セイフティ・ネット」が必要と考え、全日本手をつなぐ育成会権利擁護委員会と共同で「警察にわかってもらおう、知的障害のことを―警察プロジェクト」と「地域の安全協力の受け皿作りを―セイフティ・ネット構築」に取りかかった。
 地域の安全の核はやはり警察である。まず知的障害のある人が街の中で警察とどのようなかかわりを経験していたかについて調査を行った(図1)。90以上の回答の中には、好きな電車を見ていたら自殺志願者と間違われてパトカーで連行された男子、レイプ被害を訴えたら、セカンドレイプさながら男性警察官に何日間にもわたって配慮なく質問された女性、近所で起こった幼女暴行事件の容疑者と一方的に決めつけられた男性の事例など、不審者に間違われたり犯罪に巻き込まれたりという被害が明らかになった。ただ、いずれの例でも警察官の理解とちょっとした配慮があれば、むしろ知的障害者本人や家族に対して被害救済や精神的な立ち直りの力になっただろうと思われるものであった。

図1 どんなときに警察とかかわりましたか
円グラフ 捜索願44% 不審者24% 被害15% 加害15% いじめ2%

2.こんな時どうする?

―警察ハンドブック活用と警察との勉強会―

 そこで、現場の警察官に知的障害のある人のことを理解してもらおうと「知的障害のある人を理解するために」(警察ハンドブック)を作成し、昨年12月、警察庁の協力により全国の47警察本部、1500警察署、6500交番、9000駐在所に約2万6000部配布した。
 ハンドブックの内容は、知的障害のある人が遭遇しやすい犯罪を例示し、なぜ被害に遭いやすいか、なぜ被害を訴えられないかを説明し、そのうえで、Q&A形式で「こんな時どうする?」と対応の仕方を具体的に提案している。たとえば、◆「障害のある子が行方不明になった」と通報があった時、◆「パニックになって大声を出している人がいる」と通報があった時、◆「警察に相談や苦情を言いによくくるが、どうしても何を言いたいのかわからない」。「さあ、こんなとき、どうしたらいいのでしょうか?」…と章は続く。巻末には◆「役に立つ地域の情報」として、実際に知的障害のある人が犯罪被害に遭うなどして警察が困った時に、地域で連絡を受けたり専門的な技術を提供できる社会資源を紹介し、活用方法に関するコメントを付記した。
 さらに、ハンドブックを現場の警察官に有効に活用してもらうために、警察との間で連絡会や勉強会を開くことにした。今年は親や福祉関係者の申し出を快諾してくれた大阪府警と北海道警で、第1回の勉強会が実現できた。大阪府警との勉強会(2月21日、大阪府警から2人参加)では、参加者から「交番勤務の警察官がどのようにハンドブックを活用していくのか」という質問がなされ、府警担当者から「全府下での活用や大阪版ハンドブックの作成を検討している」旨の報告を得た。北海道警との勉強会(2月28日、道警の地域課・生活安全課等から6人が参加)では、「被害を訴える窓口」「“事件”にならない事例の扱い」あるいは「ハンドブックを読んでいたために自閉症の方と落ち着いて対応できた警察官」の事例などについて報告や意見交換がなされた。特に、今後はより身近な交番の警察官を交えて小勉強会を開いていくなど、協力関係のあり方を継続して検討していくことが確認された。

3.「地域の協力の受け皿作りを」

―セイフティネット協力員による勉強会実施―

 警察官と有効な協力関係を持ち、知的障害のある人の被害を最小限にとどめる、あるいは未然に防ぐために、私たちの側もネットワークを作り、警察を理解することが必要となる。このために今年は北海道、大阪、東京地区の親・福祉関係者、学校関係者に向けてセイフティネットの協力員を募り、計500人の賛同者を得た。今後、この協力員同士の勉強会を進めるために一般向けのハンドブック「知的障害のある人を被害から守る」を作成した。
 このハンドブックには知的障害のある人が犯罪の被害に遭った時にどうすれば警察にきちんと捜査してもらえるか、あるいは警察に誤解されたり任意で連れて行かれたりした時にどうすればいいのか…など、非常事態への対処の仕方が解説されている。
 協力員勉強会は、今年の3月には千葉地区、東京地区で毎週のように小グループで実施された。大阪、札幌でも4月下旬には第1回が始まることになった。各地の勉強会の中では、参加者が今までに街の中で経験したさまざまな侵害の事実が語られ、地域ごとのセイフティネットの必要性が再確認されることとなった。今後も各地域で継続的に開いていく計画である。
 勉強会を開きたいという問い合わせおよびハンドブックの購入は、堀江まゆみ(白梅学園短大、E-mail:mayumi@shiraume.ac.jp, FAX042-346-5644)、あるいは全日本手をつなぐ育成会(鈴木伸佳 FAX03-3578-6935)までご連絡ください。なお「警察向けハンドブック」(100円)と「一般向けハンドブック」(200円)のうち、希望するハンドブックの冊数と送付先を明記してください。

(ほりえまゆみ 白梅学園短期大学)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2002年4月号(第22巻 通巻249号)