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自閉症・発達障害支援センターとその周辺の施策
―「発達リハビリテーション」の見地から―

大塚晃

1.はじめに

 自閉症については、その70~80%に知的障害が見られることから知的障害者福祉施策の中でサービスが提供されており、さらに医療の必要に応じ精神保健法で対応されてきました。しかし、自閉症については知的能力の障害というより人間関係の障害のために社会生活適応ができないという自閉症の特性を踏まえた、きめ細かい対応が必要であることが以前より議論となっていました。特に、在宅の自閉症児・者については、こだわり等の特有な行動や強度行動障害等への対応が、家族への大きな負担となっている現実もあります。
 また、近年、知的障害を伴わない自閉症(いわゆる高機能自閉症)やアスペルガー症候群などの存在が、社会的事件などを通してクローズアップされてきました。現在、これらの人たちについては、人間関係の障害のために社会生活や就労に困難を抱えるという共通の課題を抱えながら、知的障害を伴わないという理由で、福祉的対応がなされてこなかった領域であります。
 このように、自閉症とその関連障害については、さまざまなタイプがありますが、1.社会的相互交渉の障害、2.コミュニケーションの障害、3.想像性の障害ならびに硬直した反復的な行動パターンという共通に特徴づけられる、広範囲にわたる一連の障害(いわゆる広汎性発達障害)を指すものであり、今後は、狭義の自閉症のみならずこれら発達障害にも対応していくことが要請されています。
 今回、この要請に応えるために、長年の厚生科学研究の成果などをもとに、自閉症・発達障害支援センターを各都道府県に配置することといたしました。

2.自閉症関連施策の経緯

 昭和23年、児童福祉法の制定により精神薄弱児施設が法に位置づけられ、わが国における知的障害をもつ人たちの施策がはじまりました。昭和35年、精神薄弱者福祉法が施行され、精神薄弱者援護施設が法律に位置づけられました。昭和39年には、重度精神薄弱児収容棟が設置され、重度の知的障害児への対応がはじまり、日常生活の上で多くの介助を必要とする児童のみならず、行動障害をもつ人たちへの援助の道が開かれました。昭和55年、自閉症の人たちの援助を目的とした知的障害者施設がつくられる計画が明らかになると、さまざまな議論が巻き起こり、自閉症が社会の課題としてクローズアップされました。同年、自閉症施設が知的障害児施設の一類系として、児童福祉施設最低基準に位置づけられました。この年に、医療型5施設、福祉型2施設の自閉症児のための施設が開設されました。平成4年には、強度行動障害者特別処遇事業が制度化され、行動障害の激しい人たちへ取り組みのための事業がはじまりました。

3.早期発見・早期療育体制

 自閉症などの発達障害児の早期発見については、従来から市町村が実施する乳幼児期の1歳6か月、3歳児健康診査において、行われているところです。こうした乳幼児健康診査等において発見された障害児については、保健師等がフォローするとともに必要に応じて専門機関につなげるとともに、障害児には該当しないが精神・運動等の発達に問題のある児童(その恐れのある児童を含む)および保護者に対して、保健所等による発達相談指導や、専門スタッフを児童の家庭に派遣し指導等を行う乳幼児発達相談指導事業が実施されています。
 自閉症児については、このような健康診査において発見される可能性が高く、その後の適切な医療的・福祉的ケアが行われるケースが増えていますが、診断する専門医師の不足やその後の自閉症児への適切なプログラムが提供できる機関などの不足などの理由で、適切な早期発見・早期療育に課題を抱える地域もあります。
 幼児期からの早期療育・訓練の場としては、知的障害児通園施設があり、さらに心身障害の相談、指導、診断、検査、判定等を行うとともに、療育訓練を行うことにより早期発見・早期療育体制の整備を図ることを目的とした心身障害児総合通園センターがあります。
 また、地域に通園の場を設けることにより、障害児への早期の療育訓練を行う障害児通園(デイサービス)事業の体制整備を図っており、また、一般の保育所で障害児を受け入れる「障害児保育事業」が実施されています。

4.相談・支援体制

 自閉症などの障害に対する専門的な相談については、各都道府県の保健所、市町村保健センター、児童相談所および知的障害者更生相談所で受け付けています。また、身近な地域で在宅の障害児や家族の相談・療育支援等を行う障害児(者)地域療育等支援事業が実施されています。このように、地域の相談のための機関や事業はたくさん整備されてきましたが、自閉症などの発達障害への適切な診断やその後のフォローアップを含めた支援体制など解決されるべき課題は多く、このような状況を改善していくことが必要です。
 自閉症児・者については、従来より、知的障害福祉施策の中に位置づけられており、24時間ケア施設としては、知的障害児施設、知的障害者入所更生施設、知的障害者入所授産施設、日中の療育・支援の場としての知的障害児通園施設、知的障害者通所更生施設、知的障害者通所授産施設において支援が行われています。特に、自閉症に特化した施設については、前記の自閉症児施設と知的障害児・者のための施設が中心となり、全国自閉症施設協議会を構成して、自閉症への専門的援助を行っています。

5.自閉症に関する審議会意見等

 障害者基本法・参議院附帯決議(平成5年11月16日、参議院厚生委員会)においては、 「てんかん及び自閉症を有する者並びに難病に起因する身体又は精神上の障害を有するものであって長期にわたり生活上の支障があるものは、この法律の障害者に含まれるものであり、これらの者に対する施策をきめ細かく推進するよう努めること。」が決議されています。
 今後の知的障害者・障害児施策の在り方について(中間報告)においては(平成9年11月9日、身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会、公衆衛生審議会精神保健福祉部会、合同企画分科会)、「自閉症については、精神薄弱者福祉施策の中でサービスが提供されており、さらに医療の必要に応じ精神保健法で対応しているが、知的能力の障害というより人間関係の障害のために生活適応ができないという自閉症の特性をふまえつつ、自閉症に関する処遇方法の研究・開発等施策の充実を図るべきある。」、今後の知的障害者・障害児施策の在り方について(平成11年1月25日、中央児童福祉審議会)「自閉症については、基本的には、知的障害福祉施策の中でサービスが提供されており、また、医療の必要に応じて精神保健法で対応しているが、自閉症等生活適応に困難を有する発達障害については、今後更に、心理的、社会的な処遇方法の開発等施策の充実を図る必要がある。」と提言されています。
 また、社団法人日本自閉症協会などは、さまざまな自閉症の課題について研究成果などをもとに重要な提言を行っています。

6.社会福祉基礎構造改革と新たな福祉の流れ

 社会福祉基礎構造改革の一連の流れの中で、平成12年6月7日、「社会福祉事業法等との一部改正法案」が国会を通過し、法律の名称を「社会福祉法」と変え、公布、施行されました。障害者福祉においては、ノーマライゼーションと自己決定の実現をめざし、障害者が地域でその人らしく安心して普通の生活を行うことが求められています。このような新たな社会福祉制度の構築の中で、自閉症および発達障害のある方々が、地域でその人らしく安心して生活できるような相談・支援の体制の整備が強く求められており、「自閉症・発達障害支援センター(仮称)」の創設を行ったものです。

自閉症・発達障害支援センター(仮称)の創設

 地域における自閉症児(者)等対策の推進を図るため、平成14年度予算において、新たに「自閉症・発達障害支援センター(仮称)」を創設。

1 事業の対象

 在宅の自閉症等の特有な発達障害を有する障害児(者)
 自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群などの自閉症およびその周辺領域にある発達障害を対象

2 事業の内容

 自閉症児施設、知的障害児(者)施設に「自閉症・発達障害支援センター(仮称)」を附置して、以下の事業を実施することにより、自閉症児(者)等の福祉の向上を図る。
(1)自閉症児(者)等の各般の問題につき、自閉症児(者)等およびその家族、並びに関係機関等からの相談への対応および助言指導並びに情報提供
(2)療育および就労支援を希望する自閉症児(者)に対する適切な療育および就労支援
(3)自閉症児(者)等の関係施設職員、小中学校、養護学校等の教職員等への情報提供および研修
(4)自閉症児(者)関係施設、福祉事務所、児童相談所、更生相談所、保健所、医療機関、学校、職業安定所等の関係機関との連絡調整

3 事業の実施主体

 都道府県および指定都市 (自閉症児施設等を運営する社会福祉法人に委託可)

4 職員の配置

1.心理療法等を担当する職員 2名
2.相談支援を担当する職員  2名
3.就労支援を担当する職員  1名

5 平成14年度予算額等

(1)運営費

1.予算額  103百万円
2.補助対象か所数 8か所
3.補助率 1/2(負担割合 国1/2、都道府県・指定都市1/2)
4.補助単価 1施設当たり 約2533万円 (初年度のみ初度調弁費を加算40万円)

(2)施設・設備整備費

施設整備費 1施設当たり国庫補助基準面積  84.4m
設備整備費 1施設当たり国庫補助基準額 835,000円
(社会福祉施設整備費・設備整備費に一括計上)

(おおつかあきら 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課)