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自閉症児者の発達支援と社会参加

石井哲夫

1.幼児期・学童期における発達支援

 日本自閉症協会は、その前身は自閉症親の会全国協議会であり、現在の会員のほとんどが親である。従って、自閉症児者を抱えて苦労し続けている親たちのことを考えて、この問題提起を行ってみたい。

 乳幼児期において、自閉症児が少しでも他人と関係ができ、親や兄弟と気持ちを合わせて暮らすことができるようになるための援助を切実に求めている。そのためには、効果的な早期診断、早期療育を求めたい。
 自閉症の多くは、その脳機能の障害という生物学的な障害によって、人間関係の発達障害を強め、家族や教育、福祉援助などの社会的な機関でも適切に対応されにくい。そのため、本人としての不満や不快が多発していき、これが心理的な外傷体験として内在化されやすい。つまり二次的障害が多発している。さらに行動障害のもとになる「いじめられ体験」によるトラウマができやすく、長期にわたって悪影響をもたらすものと考えられるのである。このような状況を知ったうえでの療育のあるべき姿を考えなければならない。
 言うまでもなく、このようなトラウマを作らないために、関係者が相互に緊密な連携を持ってかかわれるような、かかわりの基本的なガイドラインを明らかにするとともに、確実に本人が安心できるような人とのかかわりの仕組みを家庭、学校、職場などに作るための工夫が望まれる。
 基本となることは、早期からの効果的な家庭療育が行われるべく援助する体制を作ることではなかろうか。親に対して的確なアドバイス(将来にわたって生活や学習に特別な配慮を必要とするケースか否か)が、医師などの専門家から行われるようになるとよい。
 この時期に、幼稚園や保育所に自閉症児を入れて普通児との交流の経験を持つことが必要という考えを持ちやすいが、その前に、家庭外の場での安定した適切な受け入れの場が求められてくる。そうでないと、普通児たちと交流できないままに刺激の多い幼児集団から、過激な刺激を投与されている状況を放任してしまうことになる。そして、他人を避けて暮らす術を教え込むことになりかねないので、できれば、専門の療育機関に関係することが望まれる。
 また、学童期においては、前述した乳幼児期と一貫性を持って、自閉症児を理解し、考慮した教育の充実を望みたい。その教育は、マニュアルによるものではなく、個別的な教育がよい。発達がゆっくり進む自閉症児なので、その分、通常の小、中学校および養護学校の幼、小、中、高等部において、自閉症児に適切に対応できる学びの時間(社会的な学習、知的学習)および専修学校等の高等部以後にも及ぶ学びの時間を確保してほしい。
 従来からの特殊教育が、知的発達の遅れを中心としていて、身体運動や、作業学習・生活学習を多くしたり、体力を使う仕事に向けた教育のみが強調され、わが子を強制的にそこに入れ込まれることを批判する親たちが多い。ぜひとも、自閉症児に必要な現実の事態や、言葉の正しい意味を分からせるような学習や、自閉症児に共通している人間接触の不足を補う教育を開発し、実践してほしいと思っている。
 さらに自閉症児の多様性を考慮し、個別的な対応を取り入れ、将来に向けて、生きていく力を育てること、生活する力を培うことが教育とそれを保障してくれる社会システムにあることが望まれる。できるだけ現実的な生活経験から学ばせることと、援助者との交流を増やすことによって、このような生活力の基盤が育つことになると考えている。併せて、学校生活と家庭生活を調整していく本人に合った療育が望まれよう。このことは、放課後、長期休暇中などにおける余暇活動への援助や保護者に対しての相談や、子どもへの緊急一時保護などの支援も含まれている。
 「自閉症には自閉症教育を」という行政への要望は、基本的人権を求めることと考えている。そのため、何はさておき、専門的な教育・療育機関の整備、適切な職員の養成教育を求めなければならない。支援センターの設置で求められる仕事の一つに、幼稚園、保育所や学校における自閉症児への援助方法をスーパーバイズすることがある。
 さらには、養育困難な自閉症児を抱える親の生活を援助するためのホームヘルパーや、ガイドヘルパーがいてくれるとよい。そして子どもを安心して預けられる施設のデイケアやナイトケアを求めたい。
 また自閉症児を抱えて、精神的なゆとりのない親に対しては、子育ての相談だけではなく、親に対してのカウンセリングが容易に受けられるような仕組みがほしい。
 このような専門性については、わが国で現に成果を上げている諸専門機関の実績から学ぶという現実的な認識が必要であろう。

2.社会参加と就労問題

 自閉症児者の障害内容が一般的に理解困難なため、家族をはじめとして、援助の専門家たちにも自閉症児者とコミュニケーションができにくい。自閉症者の社会参加をすすめるためには、まず地域に安定できる家庭生活が確立されることである。そのうえ、自閉症者を受け入れる職場が増えていくことである。
 以下のような実態は社会には伝わっていないが、ノーマライゼーションの重要事項として考えてほしい。
●就職、施設通所、結婚ができない自閉症の大人たちが多くいるという実態
●地域で生活している自閉症者への近隣からの苦情の多発
●最近多発している障害者の犯罪に巻き込まれている自閉症者の実態
●就職はしているが、日常的に不適切な対応をされ、心身ともに疲れ切っている自閉症児者およびその家族の実態
 以上のような悲惨な生活実態にもかかわらず、「地域で自立した生活」を望む風潮が強く、自閉症児者も社会福祉施設から地域生活へと転換が求められている。しかし前述のように、自閉症児者の心身の機能が及ばない仕事が求められ、自立の目標を持たされている自閉症児者とその家族の人たちの不安は強まっている。地域生活に欠かせないグループホームや通所施設のような地域における支援資源には、自閉症児の通所療育と家族への相談機能の内容を整備していくことが望まれよう。地域療育支援に関しては、利用者に直接かかわる療育と家族への対応とを平行させて、それぞれの個別的な支援を深めていくことと、ケアプランとして、一貫して総合的に対処を行うように進めていくことが求められよう。
 また、自閉症者対象の専門的な配慮のあるガイドヘルパー派遣をはじめとして、通所施設や生活療、ショートステイのできる入所更生施設などが地域に多くできることである。
 本人に対する療育としては、まず心身の働きを調整強化していく療育や、トラウマやストレスからの解放とそれへの耐性を育てる療育をはじめとして、発達援助や不足している機能に対して行う強化的課題学習や、選択的作業療育、芸術促進学習、職業関連機能学習などを含んでいる。
 以上は、自閉症の特性にかかわる療育の知見に則ることであり、一般社会の人たちと安定した交流が少しでも増えていくようにすることである。地域療育に責任を持つ機関としては、本人や家族のみとの交流だけではなく、自閉症児者に不利なことが横行しないような社会への公平性を求め続けていく態度が求められよう。
 自閉症者の場合には、社会参加して地域生活で自立できないで行動障害が強化されてくると、家族の手だけでは対処できなくなる。特になかなか家族から離れられない自閉症者は、親の高齢化が心配されている。子どもと離れて暮らしたい親と、そうでなく、いつまでも子どもとかかわりを持って暮らしたいと思っている親とが、それぞれ自由にその晩年の生活が選べるようにできることが望ましい。また、子どものためによりよい成年後見人を望むことや、その財産のよりよい信託を求めていることが増えてきている現状を踏まえて、親の信頼できる法人などの必要な組織が増えていき、親と協力して必要な施設や制度を創設していくことが求めれている。

(いしいてつお (社)日本自閉症協会会長)