音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

新たな飛躍に向けて

助川征雄

 「厚生の指標(平成13年度)・厚生労働省」によると、精神病(精神障害)は今や悪性腫瘍(ガン)を抜いて最も罹患率の高い病気となり、精神科治療を受けている国民の数は204万人、実に国民の60人に1人に上ると言われている。
 そのような中、この8月に横浜で開かれる日本精神神経学会において、「精神分裂病」という病名が「統合失調症」に改められる。「精神が分裂している病」という不可解なイメージや偏見を払拭しようとするものである。
 また、今年4月から「市町村精神保健福祉業務」が実施された。身近な市町村がホームヘルパー派遣などのさまざまな精神障害者支援を始めたのである。これらのことにより、身体や知的障害者と同等の福祉支援が進むのではないかという期待が高まっている。
 一方、このような明るい話題とは別に、今、「心神喪失等の状態により重大な他害行為を行った者の医療および観察に関する法律案」が国会で審議されている。いわゆる重大な犯罪を起こした精神障害者対策である。これまで、心神喪失者の判断能力の判定はむずかしく再犯の予側は至難とされてきた(欧米でも的中率は3分の1と言われている)。しかし、それらの難題を精神科医に丸投げするような従来のやり方では、事態はもはや打開されないという認識が高まってきたのである。今回の法案は、欧米の経験を下敷きにし、裁判所や保護観察所を拠点とする裁定制度やフォローアップ制度、さらに特殊病棟(治療・教育施設)の整備などを盛り込んでいる。私はこれまで現場で制度の不備を痛感していたので、今回の取り組みは一歩前進であるとは思う。しかし、裁判の手続き上の人権擁護の面や社会復帰支援面などに不備(無理)があり、このままでは新たな強制入院制度を創設することになりかねないと危惧される。
 今回の制度創設は、広い視野に立てば、重大な他害行為対策だけでなく「精神障害者に裁判を受ける権利を保障する」という当事者や国民の長年の要請を実現する歴史的な大事業である。今一度、「国際人権自由権規約」等の精神に立ちかえり、欧米の経験や現場の提言を精査し実効性のある制度づくりに取り組まれるよう国に強く要望したい。

(すけがわゆきお 田園調布学園大学教授)