音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

フォーラム2000

精神障害者のホームヘルプサービス

高坂文仁

1 はじめに

 平成11年の精神保健福祉法改正に伴い、3年間の準備期間をおいて、平成14年4月1日より、精神障害者居宅生活支援事業(精神障害者居宅介護等事業、精神障害者短期入所事業および精神障害者地域生活援助事業からなります)が実施されています。精神障害者に対する福祉施策は、昭和62年に精神障害者社会復帰施設が法定化されて以来徐々に整備されてきましたが、今回、在宅福祉事業が法定化されたことで、精神障害者に対する福祉施策も他障害と同様に、施設福祉だけでなく在宅福祉の充実もめざしていくこととなります。
 また、精神保健福祉業務は、これまで保健所を中心として実施してきましたが、今年度からは、このうち、施設や事業の利用についての相談・助言・斡旋(あっせん)・調整の業務、通院医療費公費負担申請、精神障害者保健福祉手帳の受付事務といった業務を市町村を窓口として実施することとなります。保健所は、こころの健康、社会復帰、アルコールといった内容に関する相談や、本人や家族に対する危機介入的な訪問、医療継続・受診等に関する訪問指導等専門的な相談・指導を行うとともに、複数の市町村にまたがる場合の連絡調整の役割を担うこととなります。

2 精神障害者訪問介護(ホームヘルプサービス)試行的事業にみる精神障害者ホームヘルプサービスの特徴

 精神障害者に対するホームヘルプサービスについては、法改正後の平成11年度からモデル事業を実施してきました。精神障害者に実際にサービスを提供してみてどんな問題点があるのかを検証するとともに、試行期間中に市町村にノウハウを蓄積してもらって、少しでも円滑に本格実施ができるようにするということがその趣旨で、3年間にわたって実施されました。
 サービスを提供してみての主な特徴としては、食事の準備、掃除といった家事援助が92.1%、話し相手などの相談支援が49.4%と多く、身体介護が14.6%と低かったことがあげられます(重複回答)。
 精神障害者の場合、直接身体に接触して動作の援助を必要とすることが他の障害者や高齢者と比べて少く、他方、見守りや共同実践による援助により自立支援をしていくというケースが多いようです。
 また、訪問頻度および1回あたりの介護時間は、利用者によってかなり開きがあること(平均値は、おおむね週2回、1回2時間程度)、見守りや促しによる支援が中心であるため、同じ介護内容を代行実施する場合よりも時間がかかるといったこともあげられています。
 これらのことから、精神障害者に対してのホームヘルプの実施にあたっては、画一的なサービス提供ではなく、利用者の気分や調子に合わせて弾力的にサービス提供をしていくことが必要であると言えます。

3 サービス提供の流れについて

 精神障害者ホームヘルプサービスは、市町村の責任のもと、さまざまな機関と連携して実施していくこととなります。以下、おおまかに事業の流れについて述べたいと思います。
1.市町村は、ホームヘルプ事業を実施しようとする者(社会福祉法人、医療法人などが対象となりますが、委託も含めて市町村が自ら行うこともできます。以下「運営主体」と呼びます)からの申請により、適切な実施が可能であるかを審査し、自己の市町村でサービス提供を実施する者として指定をします。
2.サービスの利用を希望する精神障害者もしくはその方の属する世帯の生計中心者は、市町村に対し申し込みを行いますが、その前段階で、市町村または市町村から委託を受けた精神障害者地域生活支援センターに利用に関しての相談をすることもできます。いろいろなサービスをどのように組み合わせて利用するか、といったこともここで確認できると思います。
3.市町村は、申し込みを受けて、精神障害者保健福祉手帳または年金証書等を所持しているか、主治医がいるかといったことを確認し、さらに利用者の同意を得て主治医の意見を求めることなどにより、病状が安定していることや定期的に通院していることについて確認をします。これらの所要の事項を確認して、サービスを提供することが適切であると判断した場合は、ホームヘルパーの派遣回数、提供されるサービスの内容、1回の利用に要する時間、利用料などを決定し、利用者に通知します。利用者の多様なニーズに対応できる内容となるよう配慮することが必要です。
4.利用者は、決定通知を受け取ったら、運営主体とサービスの利用に関する詳細を調整していくことになります。市町村は必要に応じて利用者と運営主体の間に立って斡旋をします。
5.提供されるサービスの具体的な内容が決定したら、利用者は運営主体との間でサービス利用契約を締結することになります。契約にあたって、運営主体はあらかじめ、重要事項を記載した文書を交付して説明を行うとともに、その内容につき利用者の同意を得る必要があり、介護保険における利用の場合と同様、当事者の意思表示の確認をとることとしています。
6.利用者またはその属する世帯の生計中心者は、所得に応じて設定された利用料を負担します。
7.市町村は定期的に利用者の状況を見直し、変化があればサービスの内容も見直します。

4 本格実施を迎えて

 厚生労働省では、2月に、各都道府県を通じて市町村からのご質問などをまとめて、「精神障害者居宅生活支援事業に関するQ&A集」を作成・配布するとともに、3月末に運営要綱を発出いたしました。
 4月からの市町村の取り組み状況については、全市町村のうち約3割が開始しており、年度途中に開始する市町村も含めると約7割が平成14年度中に開始することとしているようです。
 厚生労働省としては、精神障害者のニーズに十分応え、自立をきめ細かく支援していくことにより事業の着実な推進に努めていく必要があると思っています。

(こうさかふみひと 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課在宅福祉係長)