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ケアについての一考察

地域からの退院支援・地域生活支援

田中政則

はじめに

 「精神障害者」と言われる方々の地域生活支援を考えるにあたって、退院支援について触れておきたいと思います。
 大阪府では、平成12年度から『退院促進事業』が実施されています。詳しく報告するスペースはありませんが、中長期入院で、いわゆる「社会的入院」の方を中心に専門の退院支援職員を配置し、行政・医療・地域が連携して、個人支援を行い、早期退院を実現しようという事業です。今回はこの事業を活用して退院し、地域生活を送っている事例を紹介し、考察していきます。また、今取り組もうとしている新たな事業を提案します。

事例

 Sさん(45歳)、男性、独身、診断名:精神分裂病(統合失調症)。
 中国地方O県出身。工業高校卒業後、関東の工場で働いていたが、平成8年夏(39歳)幻聴が聞こえ、JR駅構内で自殺企図により保護され、箕面市内のM病院に入院しました。箕面市はSさんにとって初めての場所でした。

退院促進事業

 M病院は閉鎖性も強く外部との接触もなく、症状が落ち着いてからも退院はもとより外出もほとんどありませんでした。入院生活も4年半が過ぎ、Sさんは退院や地域で生活できるという望みを失い人生に絶望し、このまま一生入院が続くのかと無気力・無感情になっていました。このような状況の時に退院支援職員が病院を訪ね「退院促進事業」の説明をし、Sさんの退院意志を確認しました。病院から生活支援センターや作業所に体験通所し、退院後はグループホーム(以下GH)に入居しようということになりました。支援職員とともに体験通所を繰り返し、3か月後、Sさんの地域生活は始まりました。 

地域生活の現状

 現在Sさんは、当初の予定通りGHに入居し、共同作業所に通所し、生活支援センターの活用もしながら地域生活を営んでいます。スタッフの関わりも徐々に減らしていき、代わりにGHや作業所の仲間の支えが力強いものになっていきました。
 「仲間が大勢集まって仕事をする場所があるなんて夢にも思わなかった」「退院直後風邪をひいて倒れましたが、GHの仲間がいろいろと面倒を見てくれました」「仲間が道案内や洗濯や買い物などを親切に教えてくれました」などと述懐しています。またSさんは、「退院促進事業」の当事者としていろいろ報告の機会がありますが、最後にこう結びます。「今日ここに来たのは、この事業を、今後退院してくる方々にとってわかりやすく安心できるものにしたり、大阪府以外の地域に広げていくことに協力するためです」と。

これからの生活

 Sさんの現在の目標の一つは、就労し、アパートなどでの一人暮らしを始めることです。特に就労に関しては、求人情報だけでなく、トータルかつきめの細かい情報・支援を求めており、支援センター「パオみのお」では、専任のジョブコーチを軸にシリーズで「就職セミナー」を行ったところです。
 またSさんは生活の幅を広げるために、パソコン・インターネットにも取り組み始めようとしています。
 さらに、長い入院生活の絶望感から完全に抜け出せていないところもあり、息の長い見守り支援も必要です。
 Sさんとの関わりを通して多くのことを学びましたが、何と言っても地域生活では「仲間」の重要さ・有効さです。またGHの仲間のほうもSさんの支援をすることにより大きく成長したことも付け加えておきます。

「立ち寄りセンター」構想

 一方、在宅ではあるがまだまだ引きこもっている方もたくさんおられます。「引きこもり」の方々に聞くと、たばこ・ジュース・雑誌などの買い物には出かけるが、それが済むと家に戻り、次のステップに進めないようです。「社会的引きこもり」とでも表現できます。
 私どもの家族会や当事者会は、この方々への取り組みを以前から検討していましたが、新たな資源として「立ち寄りセンター(仮称)」を考えています。この「立ち寄りセンター」の構想は、徒歩約20分以内の市内各所に点在し、事務所・喫茶店・商店・住宅・公共施設等何でもよく、可能ならば当事者仲間やボランティアが常駐しており、互いに話し相手になります。必要時には関係スタッフも出向くというものです。私たちの住む箕面市内では約20か所を考えています。生活支援センターのミニサテライトといえるかもしれません。また、障害の種別を越え、高齢者・子どもも含めた総合的なバリアフリーをめざします。まだ構想段階ですが、作成中の次期箕面市長期福祉計画に組み込めるようにと思っています。

(たなかまさのり もみじの家)