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フォーラム2002

「障害者雇用促進法」の改正について

舘暁夫

 「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「雇用促進法」)の改正案が本年4月14日に成立し、5月7日に公布された。今回の改正は、就業・生活支援センターやジョブコーチなど、今後の就業促進・就業支援にとり極めて重要な内容を多く含んでいる。本稿では改正の概要を中心に、さらに改正にあたり議論になった精神障害者の雇用義務化問題についても簡単に紹介する。
 今回の改正の主な内容は、1.障害者雇用率制度の改善、2.総合的支援策の充実、3.精神障害者の雇用促進の三点であった。

1 障害者雇用率制度の改善

1.企業グループによる雇用率の見直し

 わが国の障害者雇用支援施策の根幹をなすのは雇用率制度である。同制度では、障害者の雇用義務は原則として事業主ごとに課せられるが、事業主が障害者雇用に特別の配慮をした子会社を持つ場合、一定要件のもと子会社の労働者も親会社の労働者と合算して実雇用率を算定できるという特例がある。そのような子会社を特例子会社と呼び、昭和62年の雇用促進法改正で制度化された。当初、隔離を促進し、ノーマライゼーションの原則に反する等の意見もあったが、重度障害者、特に知的障害者の雇用の場の創出に困難を感じていた大企業を中心に、受け皿作りの切り札として設立が促進され、平成14年3月現在、115社を数えるまでになった。
 今回の改正では、従来の実績を評価し、その拡大は企業、障害者双方にとって雇用拡大上のメリットが大きいとの観点、そして、企業の分社化、持ち株会社制度の導入による企業合併、企業グループの再編、国際会計基準による企業グループの連結決算の導入等、経営環境の変化への対応という観点から、特例子会社を持つ親会社については、関係する子会社を含め、企業グループ全体で実雇用率を算定できるよう改正された。なお、グループ企業による雇用率の算定は、平成14年10月1日から施行される。

2.除外率の見直し

 除外率とは事業所の雇用義務数を算定する場合に、専門性を要するあるいは危険である等の理由から障害者が就業困難と考えられる業種については、その労働者数から除外率に相当する労働者数を控除することで、雇用義務を軽減する制度である。技術革新により職場環境整備が進むなか、従来就業困難と考えられた職種においても就業可能性が高まっており、逆に除外率の存在により新たな職域開発が制限されるといった理由から、昭和51年の旧身体障害者雇用審議会意見書以来、関係者の間でも除外率の再検討を望む声が強かった。
 今回、廃止に向けて段階的に縮小するとされた。具体的には、職場環境の整備をさらに進めつつ、周知・啓発を行いながら、2年間の準備期間をおいた後、平成16年4月1日から一定期間(新障害者基本計画の期間、即ち平成15年度から24年度)をかけて、段階的に除外率の縮小を進め、廃止をめざす計画である。下げ幅は、各業種ともまず10%を下げる予定で、厚生労働省の試算では、その縮小により、約9000人の新たな雇用が生まれるという。除外率の縮小については、平成16年4月1日から施行される。

2 総合的支援策の充実

1.障害者就業・生活支援センターにおける支援事業の創設

 障害者、特に知的障害者や精神障害者への就業支援の実を挙げるためには、地域就労支援のシステムと就業面と生活面との一体的支援が必要である。そのため、平成6年の雇用促進法改正では障害者雇用支援センターが、平成9年の改正では地域の社会福祉資源が実施主体となるいわゆるあっせん型雇用支援センターが制度化された。今回制度化された就業・生活支援センターは、あっせん型雇用支援センターが平成11年度から試行された「障害者就業・生活支援の拠点作り施行事業」を経て、転換されたものである。具体的には、都道府県知事から指定された社会福祉法人、NPO法人等が雇用・福祉・教育・保健等地域の関係機関と連携しながら、障害者の就業と生活の一体的支援を行う。近い将来、就業・生活支援センターは、障害者就業支援システムの中核機関となることが期待されるが、ノウハウの蓄積とともに、当面は数の確保(最低限障害保健福祉圏域ごとの設置)が必要となるだろう。

2.職場適応援助者(ジョブコーチ)事業の創設

 ジョブコーチは、米国の援助つき雇用から発展した就業支援の技法あるいは役割であり、特に知的障害者や精神障害者の職場への導入、訓練、定着指導に効果があると言われる。
 わが国でも、平成12、13の両年、一部の地域障害者職業センターで「ジョブコーチによる人的支援事業」の試行が行われ、その効果が検証されて、今回制度化されることになった。今回の制度化により、各地域障害者職業センターにおいて、センター職員である配置型ジョブコーチと社会福祉法人、NPO法人等の職員である協力機関型ジョブコーチが支援を行うことになる。ジョブコーチングは就業支援のなかの中核的な業務であり、その意味で今回の制度化は評価されるが、ジョブコーチの配置は地域の就業支援機関にこそ相応しく、その利用が地域障害者職業センターのみならず、就業・生活支援センターをはじめ地域の就業支援機関に拡大することを望みたい。
 なお、就業・生活支援センターと職場適応援助者事業については、平成14年5月7日より施行された。

3 精神障害者の雇用促進

 今回の改正では、精神障害者を雇用支援の対象として明確にするために、以下のような精神障害者の定義規定を置いた(施行は平成14年5月7日)。
■「障害者」とは、身体障害、知的障害又は精神障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難なものをいう(第2条第1号)。
■「精神障害者」とは、障害者のうち、精神障害がある者であって厚生労働省令で定めるものをいう(第2条第6号)。
 「厚生労働省令で定めるもの」とは、「精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者」と「精神分裂病、そううつ病及びてんかんにかかっている者」である。
 今回の法改正における懸案の一つが精神障害者の雇用義務化問題であった。結果的には、時期尚早ということで、今回も見送られた。労働政策審議会障害者雇用分科会意見書(会長:保原喜志夫天使大学教授)では「今後雇用義務制度の対象とする方向で取り組むことが適当と考えられる」とし、実現のためには、精神障害者雇用支援施策の積極的展開、実績の周知と関係者の啓発、雇用率制度適用のために対象者の把握・確認方法の確立や精神障害者の実態把等が必要であると指摘し、そのために関係者からなる調査研究の場を設け、検討を進めるべきであるとした。
 また、改正案の審議に当たり衆議院厚生労働委員会では「精神障害者に対する障害者雇用率制度の適用については、雇用支援策の展開を図り、関係者の理解を得るとともに、人権に配慮した対象者の把握・確認方法の確立等の課題を早期に解決し、実施されるように努めること」との付帯決議がなされた。
 厚生労働省はこれらの要請に応え、本年7月から「精神障害者の雇用の促進等に関する研究会」(座長:高橋清久国立精神・神経センター総長)を発足させ、精神障害者の雇用義務化に向け、労働政策審議会意見書と付帯決議で提起された諸課題を解決すべく取り組みを始めた。同委員会の動向に注目したい。

(たちあきお 西南学院大学)