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会議

講演会
「スウェーデンにおける
DAISYの認知・知的障害者への応用」

井上芳郎

はじめに

 11月1日、日本障害者リハビリテーション協会主催によりスウェーデン・ハンディキャップ・インスティテュート/テクノロジー・アクセシビリティ部門プロジェクトマネージャーであるハンス・ハンマルンド氏をお迎えし、講演会が開催されました。氏ご自身もディスレクシア(読み障害)の困難をもっており、現在スウェーデン・ディスレクシア協会の副会長をされています。以下は、当日の講演内容の概要と感想です。

スウェーデン・ディスレクシア協会

 1979年、自らのディスレクシアの問題に気づいた成人学校の生徒たちが集い、これをきっかけとしてスウェーデン各地に支部が作られ、1986年には助成金を得て「情報提供センター」が設立されました。このセンターではディスレクシアをもつお子さんたちや、そのご両親、そして教師たちに対し、教育支援などに関する助言をしたり情報提供をしてきました。ディスレクシア協会は1999年に、当事者たちを主体とした正式の障害者団体としても認められ、政府からの助成金を受け活動できるようになりました。

ディスレクシア・キャンペーン

 協会では1996年から翌年にかけて全国的なキャンペーンを企画し、各種プレス発表、会議、啓発のための演劇上演、ポスターの制作等をしました。この期間中、各界で活躍中の著名人にもお願いし、ディスレクシアによる困難の実態や支援の必要性についてアピールしていただきました。このキャンペーンには、スウェーデン国王ご自身にも参加していただけたことで、国民の関心が大いに高められました。実は、国王ご自身やご家族もディスレクシアの困難をおもちなのです。

DAISYによる情報保障と今後の課題

 スウェーデンでは、児童生徒の4~8%がディスレクシアによる困難を抱えています。私は協会のなかで、このようなディスレクシアの方たちのためのIT戦略関係の業務に携わっております。協会のウェブサイトを立ち上げたり、ディスレクシアをもつ人たちはもちろん、すべての人にとってアクセスしやすい情報提供のための調査・研究や技術開発も行っております。
 今までスウェーデンでは音声だけのDAISYの利用が主でありました。今後は、テキストや画像とも同期して表示される、マルチメディアDAISYの普及と活用が急がれます。
 今後の課題としては、すべての公的情報がDAISYでフォーマットされることで、だれもが情報にアクセス可能になることです。すでに技術的には十分可能になってきています。
 昨年度EU諸国間で策定された「EUプラン」の中でも、ディスレクシアに関する計画が盛り込まれました。ここでも情報保障の問題は、重要な課題として取り上げられていることを強調しておきます。そして、民主主義あるいは基本的人権の問題であるという視点からも、取り組むべき重要課題であるということも重ねて強調しておきます。

感想など

 DAISYは視覚障害の方たちだけでなく、ディスレクシア(読みの学習障害)や知的障害の方たちにも有効であることが知られてきました。日本でも親の会や各支援団体等を中心にして、普及活動が進められつつあります。その際には、スウェーデンで展開されてきた「ディスレクシア・キャンペーン」は、大いに参考とすべきものと思いました。
 日本では「ディスレクシア」という言葉は、残念ながらまだ一般的ではありませんが、1999年に文部省が公表した「学習障害=LD」の定義の中に含まれているものとされています。ご参考までに、その定義を以下に示しておきます。

「学習障害の定義」文部省調査研究協力者会議 1999.7.2

 学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
 学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

(いのうえよしろう 障害者放送協議会・委員/全国LD親の会)