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風と力と歓声と

鈴木範夫

 寒風すさぶ中、鍛え上げられた肉体同士が楕円を求めて骨が軋むほどにぶつかり合う…。
 そんなラグビーに興味を持ち始めたのはいつのことでしょうか。これだという確かな記憶はありませんが20年近く前、同志社大学や新日鉄釜石がとても強かった頃、今よりも話題性があったためテレビでの中継が多くありました。そのため好奇心がモクっとあおられて見ていた頃からのように思います。
 当初は当然ルールなど分かりませんでしたが、見ることを重ねるうちにだんだんと覚えていきました。「ラグビーはルールが難しいから…」という声をよく聞きます。しかし「原則的」なことはとても簡単で、迫力あるボディーコンタクトやスピードある球回しを見ているだけでも独特のルールへの興味も相まって十分最初から楽しめていたように記憶しています。
 そのころ私は電動車いすでよく街を徘徊(?)していましたが、親元で暮らしていたため介助者をあまり入れられなかったこともあり、実際に試合を「ナマ」で見る機会はあまりなくテレビ観戦が主でした。しかし「自立生活」を始め、日常的に介助者を入れるようになってから「ナマ」で見ることが多くなり、こう思うようになりました。
 やっぱり「ナマ」はいい!…と。
 サッカー等とは違う組織だたない観衆の一人ひとりによる感情一杯の津波のような歓声。防具を纏(まと)わず容赦なくぶつかり合う時の鈍い音とともに感じる身体の力強さ。ステップ踏み相手をかわす機敏さ。選手の肩を揺らしての息遣い。緊張感あふれる中、蹴りあげるボールの乾いた音。それらはやはり映像で見るものとは「しびれ具合」がやはり違います。
 また、観戦する側にもちょっとした「たたかい」があります。それは寒さ。日差しがあればまだよいのですが、雨など降ろうものなら「何もかも」が縮み上がりそうになります。しかしこれもウインタースポーツの定め。私は大いに受け入れています。
 障害者としての反骨魂とでも申しましょうか、「保護される立場」として言われつづけてきた過度の「身体への心配」。それへの反発心もどんなに寒くても競技場へ足を運ばせている要因の一つになっているのでしょう。
 「スタイル」にしても、寒さに耐えカップラーメンをすすり、いちゃもんつけながらホットウイスキーを飲む…というダーティーさ剥(む)き出しでワイルドに観戦する。そんな自分になれることも気に入っています(笑)。
 なにはともあれラグビーを競技場で体感することをお勧めします。
 「すんげーぞこれは」という思いをあなたにも…。

(すずきのりお HANDS世田谷)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年2月号(第23巻 通巻259号)