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共生社会の実現となるためには何をすべきか

中野敏子

1 計画することの意味

 国際障害者年を契機に、施策が「計画」「実行」に移されていくという方向性が見えやすくなってきたと言えるだろう。その後にも引き継がれ、1993年(平成5年)、策定された「障害者対策に関する新長期計画」、そして、今回の新しい「障害者基本計画」の策定へと続く。計画内容を振り返り、対策の領域は広く関連省庁にまたがるものであり、この対策を具体化していくにあたっては、障害のある人に限定して考えられていくことではないことも明らかとなる。また、「数値目標」が設定されることにより、計画を実現に向かって推進していくことへの期待も抱く。
 しかし、一方で、「計画」が「計画」の域を出ないことの虚しさも覚える。介護保険、支援費導入に伴い、「ケアプラン」「個別支援計画」など「プラン」が注目される。計画とは、ある目当てに向かっての道筋を示すものと言える。計画はだれにとってのものか。さまざまな「想い」が錯綜するなかで、何のために増改築計画したのかが見えなくなり、少ない予算を苦労して使ってみたものの、結果として住み心地の悪い家に暮らさなくてはならないことだけは避けたいものである。
 「計画」が利用する人にとって有効なのかどうか、その問う作業は利用する人によって引き続き取り組まれなくてはならない課題である。

2 「理念」と生活感覚の距離

 障害者基本計画にとって、「理念」は、一つの方向性を明らかにしてくれるだろう。障害のある人たちの存在がどのように位置づけられるのか、その社会がいかなる社会を求めるのか、を示すものでもある。別の言い方をすると、その社会が障害のある人と向き合う場合の課題を語ることにもなる。
 今回の障害者基本計画では、その特色として「共生社会」という理念を掲げている。「ノーマライゼーション」「リハビリテーション」という従来の理念を継承した概念であるという1)。具体的には、「国民だれもが相互に人格と個性を尊重し支え合う」社会、「障害のある人が社会の対等な構成員として人権を尊重され、自己選択と自己決定の下に社会活動に参加、参画し、社会の一員として責任を分かち合う社会」を目指す。そのために、本計画は「障害のある人の活動を制限し、社会の参加を制約している諸要因を除去して」とある。
 ここには、2002年、新たに国連で採択されたWHO(世界保健機関)の『国際生活機能分類』2)の討議過程でも確認されてきた内容が組み込まれている。つまり、障害への認識の変化である。障害は社会によって規定されていくという社会モデルの考え方も視野に入れた内容とうかがわれる。
 気になる点、それらを具体的に展開するにあたって、四つの横断的視点と四つの重点課題という内容で十分かということである3)。「社会の対等な構成員として人権を尊重される」ために、「差別禁止法」など、法的な枠組みを明確にしている国々もある。これらの理念が日々の暮らしのなかで実感され、具体的に実現していく手立てが見えてこなくてならないだろう。ノーマライゼーションも、リハビリテーションも、「生活感覚」として、何をどうしていくかを、障害のある国民が、そして、障害のないとされる国民がどれだけ了解しているのだろうか。理念だけが先行し、生活のなかで出会う「活動を制限するもの」をその人の生活感覚で、自分の課題として見出し、その除去のあり方を探るエネルギーが見えにくくなることがあってはならないだろう。

3 いくつかの課題

 その他の課題として、何といっても生活支援内容であろう。支援費制度の導入をめぐって、地方自治体の力量格差、利用者とサービス提供者の立場の格差、共通の財源化の不確実性などを背景として、とくに、知的障害のある人にとり、入所施設機能が「真に必要な場合に限定」とされたことに注目しておきたい。経済的保障を含めて、生活支援全体像が今一つ把握しにくい状況であり、このことへの根本的論議が必要と言える。

(なかのとしこ 明治学院大学教授)

1) 内閣府政策統括官(総合企画調整担当)障害者施策担当「新しい『障害者基本計画』の策定について」ノーマライゼーション2月号 2003年 P10―13
2) WHO(世界保健機関)、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部『国際生活機能分類:国際障害分類改定版』2002年
3) 四つの横断的視点:社会のバリアフリー化、利用者本位の支援、障害の特性を踏まえた施策の展開、総合的かつ効果的な施策の推進
 四つの重点課題:活動し、参加する力の向上、活動し、参加する基盤の整備、精神障害者施策の総合的な取り組み、アジア太平洋地域における域内協力の強化

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年4月号(第23巻 通巻261号)