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視覚障害者用の検索サイト運営・管理者として

東秀樹

 私は全盲の視覚障害者です。中学時代より視力が低下し、21歳で完全に失明しました。失明後は一旦鍼灸マッサージの道に進みましたが、現在は株式会社アンウィーブで、視覚障害者のための情報検索サイト・アイリンクの管理業務をしています。
 パソコンを始めたのは今から14年前、1989年のことでした。当初は音声ワープロ専用機として使用していたパソコンですが、90年代半ばあたりから辞書検索や表計算、インターネットなどにも使うようになりました。使い込んでいくうちに、パソコンを活かした就労の道はないものか、という思いが私の中で大きく膨らむようになりました。
 そんな思いを実現させようと、2002年の春、大阪障害者職業能力開発校OAビジネス科に入校しました。入校後は担当の阿部稔先生はじめ諸先生方と共に、パソコンを活かした視覚障害者の就労の道を模索しました。就職面接会にも何度も足を運びました(その数20数社)。しかし、結果は全滅。視覚障害者に何ができるのかを理解してもらえず、また企業にとっては前例のないことでもあり、実際に雇用に結びつけるのは難しいという現実を目の当たりにしました。
 現状を打破する糸口が見つからないなか、あることを思いつきました。前例がないのなら前例を作ってしまえばいいのではないか。いっそのこと、視覚障害者雇用のビジネスモデルのようなものを作って、それを企業に見てもらおう。そのような思いが私の中によぎるようになったのです。具体的には、インターネット上でのネットショップを考えました。
 そのことを阿部先生に相談したところ、ある人を紹介してくださいました。株式会社イノセンスの牧文彦社長です。昨年(2002年)8月のことでした。牧社長が視覚障害者のための検索エンジンを作ってはどうか、というアイディアを出してくれました。牧社長には以前から、インターネット回線を利用した在宅就労システムの構想があったそうです。しかし、当時インターネットの常時接続回線は高額で、実現には至りませんでした。その後、その構想は眠ったままになっていたのですが、低価格ブロードバンド回線が普及した2002年、たまたま私が相談に行ったことがきっかけで復活したのです。こうして検索エンジン・アイリンクと在宅就労のプロジェクトがスタートし、株式会社アンウィーブが誕生しました。
 アイリンクは、インターネット上にあふれる情報を分類整理し、音声ブラウザ利用者が素早く目的の情報にたどり着けるようにする、ということをめざして作ることになりました。視覚障害者や視覚障害にかかわる人たちの必要な情報を掲載し、使いやすさと情報の質にこだわった検索エンジンです。
 さて、実際の私の業務内容ですが、検索エンジンへの登録作業、ホームページ作成や広告掲載などのオプションサービスの処理、問い合わせメールへの対応などが主です。労働場所はほとんどが自宅です。毎日の業務は当社で開発したバックオフィスシステムにアクセスして行います。アクセスすると、まず最初に始業ボタンが出てきます。これはタイムカードに相当するボタンで、これを押すと1日の業務の開始です。昼休みには休憩ボタン、外出時には外出ボタン、業務終了時には終業ボタンを押します。これにより会社側で勤怠管理ができるようになっています。その他、サイト管理に必要な機能、社内業務や社内連絡のための機能などが用意されています。すべて音声ブラウザ上での操作ですので、視覚障害者の私にも何の問題もなく業務を遂行することができます。
 このバックオフィスシステムはアイリンクだけでなく、他のサイト管理運営にも応用できます。また、重度障害者であってもパソコンのスキルを身につければ働くことができる、という点で画期的と言えます。このシステムがこれまで見通しの暗かった重度障害者の雇用状況を一変させる起爆剤になれば、と私は思っています。
 視覚障害者を含め、重度障害者の職業はまだまだ未開拓な部分が多く、これからレールをどんどん敷いていかなければなりません。私の行っているサイト管理業務は数少ないレールのうちの1本ですが、これから走行距離を伸ばし、支線を増やしていけるよう頑張りたいと思います。

(あずまひでき 株式会社アンウィーブ)