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知的障害者のホームヘルパー養成と就労支援

坂口美和子

1 はじめに

 当方は、平成7年より日本障害者雇用促進協会の助成金を受けて設置・運営される知的障害者を対象とする「障害者職業能力開発施設」である(開講科目:紙器加工科、グリーン農園科、利用期限:2年間、定員:15名)。職業訓練科目として、作業工程が理解しやすく、また、雇用されやすい製造業中心の訓練を行ってきたが、近年では、その分野での就業率も減少して、その対応に苦慮している。
 一方、少子高齢化が進むわが国では、2000年4月から介護保険法が導入されたことにより、措置制度であった高齢者の介護サービスは、利用者と事業者との契約によるものとなり、民間事業者が介護サービス分野に参入することを可能にした。これによって高齢者福祉の現場ではサービスの担い手となる人材の養成・確保が重要になった。
 「意識」「知識」「技能」をきちんと備えた人材であれば参入できる新たな職種であると考え、介護現場で活躍できる人材育成を図ることとして、「ホームヘルパー3級養成研修」を実施し、現在では、2級の養成講座の開講に向けた準備を行っている。

2 研修の実施概要

 研修を実施するに当たっては、滋賀県社会就労事業振興センター、宮崎県にある日章学園宮崎医療福祉専門学校、大阪知的障害者育成会などの先進的な取り組みを学ばせていただいた。感謝を込めてご報告したい。
 事業開始に当たっては、認可を受ける行政機関、高齢者福祉や障害者福祉の専門家の協力を得て運営委員会を発足し、円滑な事業運営を図ることとした。また、予算は、当方の単独事業として実施し、当方の利用者に限らず市内在住の知的障害のある人を対象として、1クールの定員を10名とした。
 実施上の工夫として、カリキュラムの指定時間数は52時間に加えて演習や実習などの独自科目を取り入れて75時間とし、受講生の理解が深まるよう工夫した。また、知的障害のある人について経験や理解がある経験者中心の講師陣を構成し、講義録の作成も依頼し、受講生と一体感を持った研修ができるようにした。
 初回は、平成14年10月16日~12月20日にかけて、受講生9名で実施した。講義は対話形式で行われ、ロールプレイも多く取り入れられていたため、受講生が熱心にメモを取り、質問をしていたのが印象的だった。演習では、「介護し」「介護される」立場を経験したことで、相手の立場に立つことの重要性を感じ取っていたようである。
 所定の時間数の倍の時間を設定した現場実習では、食事準備や配膳、移動・歩行の介助、レクリエーションの補助や話し相手といった補助業務、掃除や洗濯といった周辺業務まで幅広く経験し、「指示された業務をきっちりできていた」「自ら進んで仕事に取り組んでいた」という評価をいただいた。
 今年度は、5月12日~7月31日の期間で8名に対して実施した。受講生の中には、すでに高齢者福祉施設や障害者福祉施設に就職しており、スキルアップをめざしたいという人も数人参加した。今年度は、新たな独自科目として「レクリエーション」を取り入れ、指定時間数を33時間上回る85時間のカリキュラムを設定し、さらなる内容の充実に努めた。また、実際の就労現場で知的障害のある人が従事している「リネン交換」「配茶・配膳」「洗濯物の仕分け」「誘導」「掃除」についてもカリキュラム以外に特別枠で練習時間を設け、さまざまな業務に対応できる人材を育成することにした。より現場に近い業務内容を研修に取り入れることにより、「資格を取ること」だけでなく、高齢者福祉の現場から望まれて「就労すること」を目標にした研修になるよう工夫した。

3 就労支援

 平成14年度修了生のうち、高齢者福祉の現場で就労を希望する7名については南西部地域就労支援センターなどの協力により、4名が特別養護老人ホームに就職した。平成15年度修了生のうち就労支援が必要な4名は、現在、現場実習や就職面接を進めながら職場開拓を進めている。
 就労先での業務内容は、車いすでの移動介助、トイレへの誘導、歩行介助、レクリエーション、話し相手、ドライヤーかけなどの直接介護業務から、お茶配りや片付け、居室からの急須集めと配茶、食事の配膳及び下膳、食器の片付け、おしぼり準備と配りなどの介護と周辺業務の中間的な業務、シーツはがし、汚れたシーツの分類とまとめ、施設内の清掃、衣類の洗濯と分類、ゴミのまとめとゴミ捨て、車いすの洗浄などの周辺業務まで実にさまざまであり、雇用していただいた現場の工夫がうかがえる。
 採用を決定された理由として、現場実習で本人の仕事ぶりを見て判断され、本人の就労意欲・人間性に加えて、当方のフォローアップ体制をあげられている。われわれサイドからは、まず、本人の頑張りがあったこと、そして、現場が人員配置などで工夫されたことや適切な指導があったからだと思っている。

4 今後の課題

 定員10名に対して、それを上回る応募者や問い合わせがあるが、自分自身が介護サービス分野での就労を希望して応募する以外に、周囲から薦められたりすることも多いようである。自分の可能性を感じて応募される場合には、強い動機づけとなり、研修を最後まで頑張りぬいて就労意欲を高めていけるが、そうでない場合には、無意味な期間をただ過ごすだけになってしまう。そうならないためにも、事前に十分な情報提供をして研修内容を周知するなど関係各機関との連携が必要である。
 実習先や就労先の確保については、修了生の就職状況を参考にしながら、「できること」に重点をおきながら、また、当方から就労現場に対して「雇用の利点」「働いている事例や指導方法」や「雇用制度」などについて提案し、ハローワークや福祉人材センターの協力を得ながら、現場実習を重視した積極的な職場開拓をしていくことが重要である。

5 まとめ

 「知的障害者ホームヘルパー3級養成研修」を実施した実感として、就労場所や職員配置などを工夫することによって、知的障害のある人の業務の幅はどんどん広がっていくと実感している。就労現場では、業務の広がりを考え、また、時には本人に任せるなどして工夫をしていただき、さまざまなことに挑戦をさせていただいている。
 現場実習や就労場面で、本人や福祉施設サイドが「従事できる業務」の広がりを模索されるのを傍観するのではなく、われわれがさらに現場の特徴をよく把握し、高度な研修を実施することが知的障害のある人の就業の可能性を広げることができると考え、これまでの受講生に対して、さらに上級の「ホームヘルパー2級養成研修」実施に向けた準備をしている。
 研修を通して、福祉を「受ける立場」から「担う立場」となりうることが証明されたと信じている。知的障害というラベルではなく、あくまでもその人らしく、もてる力を発揮して可能性が広がるよう、積極的な支援をめざして事業の充実を図っていきたい。

(さかぐちみわこ 大阪市職業指導センター指導員)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年9月号(第23巻 通巻266号)