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ワールドナウ

カナダ
第14回世界ろう者会議

小椋武夫

 第14回世界ろう者会議が7月16日から26日まで、カナダ・モントリオールで開催された。私は世界ろう連盟地域事務局長として、高田英一世界ろう連盟理事と同行し、カナダに向かった。カナダ世界ろう者会議に参加した国は68か国、評議員は110人、一般参加は2000人以上であった。高田理事は12年間の世界ろう連盟理事を勇退し、国際連合から勲章1号を贈られた。また世界ろう連盟評議員会で特別に高田理事の名誉理事が選任された。

世界ろう連盟理事会(7/16~17)

 理事会は各理事報告・地域事務局報告、国連及び国連機関との協力、財政報告、活動方針、規約・内規改正、今後の展望等が話し合われた。

(1)世界ろう連盟から委託を受けて全日本ろうあ連盟が制作した「国名手話ガイドブック」1000部が世界ろう者会議で順調に売れた。この売上金を世界ろう連盟会計へ納める運動は、大きな成果をあげた。

(2)世界ろう連盟の4年間は国連機関の関係を強化した。提案されている「障害者の権利及び尊厳の促進及び保護に関する包括的かつ総合的国際条約」の実現に向けて、積極的な役割を果たした。またユネスコのEFAプログラム及び世界保健機関のCBR施策に対しても重要な提言をした。

(3)現在、124か国が世界ろう連盟(WFD)正会員として登録されている。正会員も地域事務局もWFD活動に関わり、国内や地域活動を頻繁に行う等事務局との連携を強めた。この連携が強化された背景には、インターネットやEメールの活動があった。

(4)各国の教育、発展途上国、人工内耳等の関連技術などに関する世界ろう連盟の活動方針書をまとめる際には、数人の専門家の援助を受けた実績がある。また専門的な内容に対する問い合わせや質問に答えるためにもその分野に詳しい専門家の援助を仰いだ。今後2003年から2007年に専門家ネットワークをさらに頻繁に、効果的に活用するシステムが必要と確認された。

世界ろう連盟評議員会(7/18~19)

 理事会に続き、評議員会が開かれた。前回評議員会の議事録の承認、WFD理事活動報告、WFD監査報告、行動計画、次回の世界ろう者会議開催決定、新理事選出、正会員からの動機等、多くの国から積極的発言が目立った。

(1)世界ろう連盟の任務、展望、目的は2020年までのすべてのろう者の完全平等と生活の質の向上を目標とし、強力な政治的・経済的・世界的な注目と信望、情報や政策の強力な発信源としての地位、全国協会と地域事務局の活発なネットワーク体制等を実現することが確認された。

(2)ほとんどの国が手話を認め、手話の研究を行う。教育の場、サービス提供の場、社会参加の場において、手話通訳の保障は当たり前のこととなり、法でも保障される必要がある。

(3)これまではろう教育が提供されなかった国では、ろう学校が設立され、ろう者のための教育は世界中の一般教育に急速に追いつく必要がある。今後はろう児の教育ばかりでなく、ろう成人の教育も同じく重要視されるべきである。ろう者は大学教育、成人教育を含んですべての高等教育に完全にアクセスできるようにすると確認された。

(4)これは私自身驚いたことであるが、インドからの提案は、WFD規則の評議員会に出席できるろう者という文章から、ろう者という文を省くというものである。インドの場合はろう者のため、政府、社会に対して訴えていく活動は非常に少ないし、ほとんどのろう者は生計を立てることが困難である。しかも、ろう者だけ出席することは健聴者との間に溝をつくりかねないという理由から修正を求められたが、評議員会で、「あくまでろう者でなければならない」と却下された。

(5)新理事長にフィンランド協会からマーック・ヨキネンさんが選ばれた。

(6)2007年の世界ろう者会議は、スペイン・マドリードに決定した。

第15回アジア太平洋地域代表者会議(7/23)

 16か国から代表者26人、オブザーバーとして12か国から40人の参加で開催された。5月の申し込み締め切りの時点では7か国にとどまって交流会を企画したが、世界ろう者会議前日になって参加申し込みが増えたため、正式会議に変更した。
 会議内容は、事務局長報告、次期運営委員選出、次回代表者会議開催決定、各国報告、国際的な動き・国際会議報告などであった。

(1)事務局長報告―大阪地域会議開催報告、今年3月のウズベキスタン派遣報告。ウズベキスタンは国連ESCAPのアジア太平洋地域に入っていることから、ウズベキろう協会の状況を説明した。

【ウズベキスタン状況報告】

○職業訓練、企業などへの職業斡旋、運動・文化施設の維持管理、手話コースの運営等公的機関が担うような役割の部分は、ろう者自身が主体的に取り組む活動が少ないように感じた。役員や職員もほとんどが健聴者であった。

○ウズベキろう協会が運営している事業体は資金難のため、施設の改修、機械の修理や更新、新しい機械の導入などでがきない課題がある。

○手話教育に参加した受講生の多くはろう家庭出身の健聴者が多かった。受講前にすでに手話コミュニケーション能力があるので、この能力のうえに、新しい手話の語彙を習得することはそれなりに意味があると思う。

○一般のろう者にとって、手話通訳者の利用はそれ程頻繁ではないようである。手話通訳が必要なときは家族によってなされることが多い。手話通訳はろう者の生活にとって、社会参加にとって不可欠のものという認識が希薄である。

○手話はろう者の重要なコミュニケーション手段だとの認識はあるが、手話がろう者の言語だとの認識は、手話通訳者、指導者、ろう学校関係者、大学の多くが希薄であった。手話の指導においては、もっとろう者自身が役割を果たす必要があるのではないかと感じた。現状は手話通訳者が指導しているが、ろう協会を中心として、ろう者の主体的な活動が必要と思う。

(2)2007年までの新運営委員選出を行った。8か国から応募があったが、イランは派遣費用の負担困難で辞退、フィリピンは他国の運営委員選出のため、無効となった。残り6か国で選出を行った結果、オーストラリア、日本、ネパール、タイ、バングラデシュの5人が選出された。

(3)次回代表者会議開催地についても討議された。その結果は、2004年開催はインドネシア。開催場所:ジョグジャカルタ、日時:12月9日~11日、ハイアット・リージェンシー・ホテルで行う。2005年開催は中国に決定。開催場所は上海で、2005年9月中旬の予定。

(4)その他国連障害者権利条約、新特別報告者の任命、WFD評議員会報告も討議された。

世界ろう者会議全体講演会・分科会(7/20~26)

 この間は私の個別会談が多いため、細かい報告はできないが、カナダ会議は「21世紀における可能性と挑戦」のスローガンの下に、ろう者固有のテーマを幅広く取り上げた。つまり、地域的、言語的、文化的境界線を超え、コミュニケーションを持ち、経験を共有することを目的とし、世界から参加するろう者の成功談、挑戦、世界観等を講じた。「世界人権宣言の言語権にはろう者の手話に関する権利がある」「グローバル化された世界における言語権」「英語バイリンガルプロジェクト」「手話とろう文化の今後」「生命倫理学的観点から未来テクノロジー」「グローバルなろう者村の統一された世界・分断されたままの世界」「全てのろう者のための保健ケア」等多くの分科会がもたれた。

(おぐらたけお 世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局長、全日本ろうあ連盟理事)