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列島縦断ネットワーキング

東京
「全国盲ろう教育研究会」の設立

中澤恵江

設立の目的

 「全国盲ろう教育研究会」が、2003年7月25日、筑波大学付属盲学校を会場に、全国から約100名の参加者を得て設立総会を開催し、発足した。
 「盲ろう児者」への教育・福祉にかかわる全国的な研究会として、わが国では初めてのものである。初代会長には、独立行政法人国立特殊教育総合研究所室長の中澤恵江が選出された。会員は、盲ろう教育にかかわる学校教員だけでなく、盲ろう当事者、盲ろう児者の家族、盲ろうの療育・リハ・医療・通訳介助等にかかわる専門家および研究者等、盲ろう児者の教育と福祉に貢献し、情報を分かち合う意欲のある人々を対象としている。複雑なニーズを呈する、盲ろうという分かりにくい障害をより良く理解し、より適切な支援を研究・展開していくためには、当事者、家族、そして専門家という会員の構成は、不可欠な条件である。
 設立総会に寄せられた祝辞の中で、ご自身が盲ろうである福島智東京大学助教授は、盲ろう教育研究には二つの「そうぞうりょく」が鍵となることを述べられた。より深く盲ろうという障害を理解するための鍵としての「想像力」と、既成の考えにとらわれずに新たな支援を実現していく「創造力」である。
 目と耳の両方に障害を併せもつ「盲ろう者」は、2001年厚生労働省身体障害者実態調査によれば、全国で1万3000人いると推定されている。盲・聾・養護学校等に在籍している盲ろうの幼児・児童・生徒に限定すると、338人が1998年の国立特殊教育総合研究所の実態調査によって特定されている。重度の情報・コミュニケーション障害をもたらす盲ろうは、特有なニーズがあり、特有の配慮が求められる。しかしながら、「盲ろう」という障害が、わが国では独自の障害として定義されず、「重複障害」という大まかな枠の中に含められているため、教育に関して言うと、カリキュラムが確立されておらず、盲ろう児を担当する教員への研修プログラムもまったくないのが現状である。
 全国盲ろう教育研究会は、全国各地で積み重ねられつつある盲ろう支援の実践や研究を草の根レベルで結集し、有用な情報を分かち合い、新しい試みを刺激し合い、盲ろう児者の教育と福祉に貢献しようとするものである。

設立の背景

 日本で盲ろう児教育が開始されたのは54年前の1949年、山梨県立盲学校においてであった。心理学者梅津八三を中心とした研究者との連携のもと、先駆的な実践が20年間続けられた。1970年代には、教師・研究者らによって「日本盲聾児を育てる会」が結成され、全国各地の盲ろう児やその家族、教師らの結束を図る試みがなされた。また、国立特殊教育総合研究所においては、盲ろう教育の事例研究が開始された。しかし、盲ろうという障害の希少性もあり、全国的な連帯の輪が広がるには、いくつかの社会的な変化、各地での実践の積み重ね、そしてインターネットの普及等、さらに30年の歳月を待つ必要があった。
 社会的な変化としてもっとも大きなものは、1991年に社会福祉法人全国盲ろう者協会が設立されたことがあげられる。これによって、日本でも、行政レベルによる盲ろう重複障害者に対する施策が、ようやくスタートすることになった。盲ろう者の教育、生活、社会参加に不可欠な通訳・介助者の派遣サービスが徐々に整備されつつあり、その養成研修会も多くの県で開かれるようになっている。
 日本の各都道府県には、盲ろう者とその支援者の活動拠点となる盲ろう者友の会が一つまた一つとつくられ、現在は33の友の会(準備会も含む)を数える。盲ろう当事者の全国的な組織づくりも、設立に向けて昨年から動き始めている。各地で孤立しがちであった盲ろう児の家族にとっても、全国盲ろう者協会や友の会が開催する全国あるいは地域交流会が、重要な出会いの場となってきた。
 教育においては、盲学校だけでなく、聾学校や難聴幼児通園施設でも優れた盲ろう児教育が実践され、異なる文化をもつ異なる学校種での取り組みから、互いに学び合える成果が積み上げられてきている。
 国立特殊教育総合研究所では、過去10年の間に、日本各地に住む盲ろう児の教育相談を積極的に実施し、実態調査と併せて全国の盲ろう教育の現状を把握してきた。また、電子掲示板によって、各地の盲ろう児の家族や支援者に、出会いの場を提供してきた。このような中で、全国的な盲ろう児の親の会「ふうわ」も、今年8月に発足した。なお、文部科学省がこれからの特別支援教育の方向性を示すために2001年に公表した「21世紀の特殊教育の在り方について」では、盲ろうが、「特別なコミュニケーション手段」や「障害の状態に配慮しながら指導する必要がある」障害であることを認識していることが明記された。
 リハビリテーションにおいては、中途盲ろう者の新たなコミュニケーション手段の獲得、生活や歩行訓練、社会参加の促進の実践が進められ、新しい知見が積み上げられてきている。盲ろう者のための作業所や生活の場づくり、あるいは余暇活動についても各地で新しい試みが行われている。盲ろう者の自立と社会参加を支える機器の開発に取り組む研究者も出てきている。これらの実践は、すべて盲ろう児の教育にも密接につながってくるものである。
 時代の大きなうねりと実践の積み重ねに後押しされて、「全国盲ろう教育研究会」は設立されるに至った。

活動の内容

 研究会の活動は3つの柱からなっている。(1)各地の情報と実践や研究の分かち合い、(2)海外の研究を含めた新しい情報の提供、(3)会員の学びの機会としての研究協議会および研修会。年1回の会報の発行、ウェブサイト(準備中)を通して情報の提供、研究紀要の発行、総会と同期して行われる研究協議会および研修会の開催を通して、これらの柱の実現をめざしている。研究会に関心のある方は、事務局までご連絡をお願いいたします。

(なかざわめぐえ 国立特殊教育総合研究所重複障害教育第2研究室長)

【事務局】
〒112―8684 東京都文京区目白台3―27―6
筑波大学附属盲学校内・全国盲ろう教育研究会事務局 星祐子
電話:03―3943―5422
FAX:03―3943―5410
e-mail:mourou@mbm.nifty.com