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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

新春座談会 21世紀、障害分野をめぐる当面の課題と展望

石野富志三郎〈いしのふじさぶろう〉
全日本ろうあ連盟事務局長

太田修平〈おおたしゅうへい〉
日本障害者協議会政策委員長

三澤了〈みさわさとる〉
DPI日本会議事務局長

森祐司〈もりゆうじ〉
日本身体障害者団体連合会事務局長

司会:松尾武昌〈まつおたけまさ〉
日本障害者リハビリテーション協会副会長

障害者長期計画、新障害者プランをどう評価するか

松尾 新年あけましておめでとうございます。本日は障害者団体の実務担当者の方々にお集まりいただきました。障害者分野における当面の課題と展望についてお話しいただきたいと思います。

さて、一昨年のいちばん大きい出来事は障害者長期計画が策定され、次に障害者プランが策定されたことだと思います。昨年は、障害者プランや支援費制度が動きました。まずその辺りを振り返って話を進めたいと思います。

それでは、森さんから自己紹介を兼ねて、課題点をお話ください。

森 日本身体障害者団体連合会の事務局長の森と申します。戦後から今日までのわが国の障害者施策の実施システムは、三つの枠組みのもと行われてきました。

その第一は、施策を全国一律に行うために国から知事への事務を委託するという「機関委任事務」方式をとったこと、第二には実施主体を「国・地方公共団体と社会福祉法人」に限ったこと、第三には実施方法として「措置制度」をとったことです。この三つの枠組みは平成15年4月までに「団体委任事務」「NPO・民間会社の参入(規制緩和)」そして「支援費制度」へとすべて障害者本位に改善されたことを強調しておきたいと思います。

次に、障害者基本計画・障害者プランについてですが、そのキーワードは「施設から地域生活へ」であり、また支援費制度のキーワードは、「人間の尊厳・地域生活・自立」と考えております。

この理念を実質的に保証するためにも、廃案になってしまった「障害者差別禁止法」をめざす「障害者基本法の改正」と国連での「障害者権利条約」を成立させることが必要であると考えております。したがって、各障害者団体の連携と協調、そして国民の理解が、今日ほど、強く求められているときはないと考えております。

三澤 DPI日本会議の事務局長をしている三澤です。森さんとお話が重なる部分があると思いますが、一昨年の暮れに障害者プランが策定されて、今年度から動いたわけですが、その中で理念的に語られていることは、障害者が10年20年前から言い続けてきたことです。障害者プランの中にも、理念を実体化するための計画案が全面的とは言いませんが、盛り込まれました。施設から地域へという流れが、計画やプランの基本だと明確に打ち出していることは評価しています。

ただ、この1年を見て、施設から地域へという流れとは相反するような動きがあることも確かです。施設から地域へという流れを掛け声だけで終わらせないためにも、障害者差別禁止法の制定をはじめとする課題に障害者団体全体で取り組んでいくことが重要だと思います。

石野 私は、全日本ろうあ連盟の事務局長の石野と申します。昨年6月からですので、この中で一番の新顔でしょうか。今日はよろしくお願いいたします。さて、新しい障害者基本計画に情報・コミュニケーションがきちんと盛り込まれたことは、一定の前進と評価しています。私は滋賀県に住んでいますが、滋賀県でも障害者プランを議論するときでも、今回初めて手話通訳者、要約筆記者、盲ろう者通訳者などを養成することが具体的に数値目標に盛り込まれました。聴覚障害者は、手話通訳をつけて初めて社会参加ができ、今日のような座談会でも対等に話し合いができるわけですね。

アジア太平洋障害者の十年が終わり、いくつかの成果が出ています。聴覚障害者の情報提供施設が全国に27か所できました。CS放送による聴覚障害者専用放送もできています。政見放送にも手話通訳がつくようになり、民放番組の字幕も増えてきています。欠格条項の撤廃を求めて運動してきました。ろう重複障害者の施設も少しずつ増えています。まだ十分な成果が出ていない面は今後、障害者基本計画などとつなげてこれから考えなければならないと思います。

太田 日本障害者協議会(JD)の政策委員長の太田修平です。2002年から2003年は、障害者施策にとっての大きな転換期だったと思います。障害者基本計画で言えば、法整備の問題がきちんと位置づけられず、障害者差別禁止法の制定の問題、障害者総合福祉法という問題、あるいは扶養義務などの問題で、法制度のあり方がすっぽりと抜け落ちてしまったことは大きな問題です。

支援費制度については施設から地域へとどの程度進むかは疑問ですが、障害者プランの数値目標が障害当事者に知らされないで決定されたことの意味は重要であり、これは支援費の財源問題、地域生活支援問題等につながるのではないかと思います。

さらに支援費問題など、精神障害者の施策がいまだに別枠で議論され、社会的入院の解消に向けた社会整備が遅れていることも大きな問題です。

障害者基本計画は、政府の構造改革との関係でどう位置づけするかが明確ではありません。いまの構造改革では切り捨てられる一方ではないかと危惧しています。構造改革と障害者政策の関連性をきちんと検証していく必要があると思います。JDでは、政府の基本計画、障害者プランに対抗するためのカウンタープランを作成する準備作業を進めています。

障害者基本法の改正に向けて

松尾 来年度の予算の政府原案、またそれ以降の予算編成はたいへん厳しいと思います。障害者団体や関係団体がしっかり運動を展開していかないと、障害者プラン、障害者基本計画が構造改革の中に埋没する可能性があると思います。もう一つ、障害者基本法を早く成立させることも大きな課題です。障害者基本法について、今年はどんな取り組みを考えておられますか。

森 障害者基本法の改正は、絶対成立させなければいけないと思います。理念法だけではだめで、すぐに差別禁止法にすべきだという性急な意見もありますが、国民一般の理解やその基盤整備等も必要でしょう。日本の法律は「努力義務」から出発し「義務規定」に改正されることがよくあります。

たとえば、昭和35年の身体障害者雇用促進法(現・障害者の雇用促進等に関する法律)は、制定当初は、努力義務であり、昭和51年に義務化されました。

私は、障害者差別禁止法への一里塚として、まず障害者基本法を改正して、国民も納得する形にもっていくことが重要だと思います。日身連としては、障害者差別禁止法、国連障害者権利条約も含めて一日も早く制定されることを願っております。

三澤 前国会で障害者基本法の成立を阻んだ元凶はDPI日本会議だというようなことも言われていますが、私たちは障害者基本法に明確な差別禁止条項を入れていただきたいと要求してきました。改正するなら、いまの時代に合う形で、基本部分で新しい方向を出していただきたい。一つは、障害概念を国際的に合う形で、日本の基本的な考え方を示すべきだと思います。もう一つは、教育分野では世界と比べてインクルーシブな状況がつくりえていない状況がありますから、部厚い壁をこじ開けるような役割を果たしてほしいと思います。

もう一点は、障害者基本法の改正の中で、障害者差別禁止法が必要だという方向を打ち出してほしいと思っています。そういう視点で、各政党に働きかけをしてきましたが、次の通常国会では、障害者差別禁止法の位置づけを与野党間で十分論議をして、具体的な動きをつくっていただきたいし、障害者基本法を改正することで、障害者差別禁止法がより現実的な課題になっていくという状況をぜひつくっていただきたいと思います。

石野 戦後、日本国憲法公布後になっても、まだ、障害者への差別、偏見は続いていました。聴覚障害者が聞く権利、話す権利はもっていても、社会から認めてもらえなかったという時代がありましたが、障害者団体が努力したこともあり、当たり前でないことが、当たり前という権利意識が高まってきました。一昨年10月に滋賀で開かれた国連ESCAP「アジア太平洋障害者の十年」最終年ハイレベル会合では、びわこミレニアム・フレームワークが採択されました。政策決定過程に当事者の提言や意見が盛り込まれたのは画期的な出来事だったと思います。

障害者基本法改正は前国会で流れてしまいましたが、それぞれの団体のニーズをどう整理していくのか、それぞれがもっている権利をどう表していくのか、みんなの意識をどう目覚めさせていくのかが課題ですね。

森 障害者基本法は議員立法ですから、非常に重みがあることを押さえておかなければなりません。細かいことは議員立法ではなかなか難しい。その辺を含めたうえで、法改正に向けて各団体も努力していかなければならないと思います。

太田 JDとしましては、障害者基本法は早く改正をしてほしいと思います。中央障害者施策推進協議会をできるだけ早く復活させ、当事者参加の政策づくりのステージをつくってほしいと思います。障害者基本法が先に成立すると、障害者差別禁止法が遠のいてしまうのではないかという危惧は理解できないわけではないのですが、それは日本の法律に対して障害当事者が不信を抱いている証だと思います。実際に法律によって障害者が裁判を起こし勝ったことは少ないと思います。なぜかというと、実効性のある法律がなかったという実態があるからです。

私たちJDとしては、障害者差別禁止法を制定させるには、まずは障害者基本法を改正させることが早道だろうと考えています。ただ、理念的にせよ、しっかりとした障害を理由とする差別を禁止する条項は必要です。そして障害者基本法改正では、障害者差別禁止法の制定を目標とするというような内容の条文が入るべきだと思います。

松尾 私は心身障害者基本法の改正のときに担当していたのですが、当時、障害者施策は厚生省(現 厚生労働省)、労働省(現 厚生労働省)、文部省(現 文部科学省)の3省に任せればいいという状況でした。障害者基本法ではどの省庁にも関係するとして、各省を引っ張り出したのが大きな成果だと思います。障害者差別禁止法の話が出ましたが、まず土俵に上がっている障害者基本法を改正して国民の理解を得ることが必要だと思います。一気には障害者差別禁止法制定には無理があると思います。

障害者プランは、絵に描いた餅になっては困ります。国や地方公共団体の財政事情から相当厳しいと思うのですが、国がプランを策定したのだから、各団体が協力しあってプランがきちんと進行していくように力を合わせていきたいですね。

支援費制度の評価と課題

松尾 昨年4月から支援費制度が始まりました。一昨年暮れから昨年1月にかけては相当議論がありましたが、支援費制度の実施について各団体のご意見をお願いします。

太田 結果的には、ある程度評価できるのではないかと思います。支援費制度になって、措置時代には到底予想できなかったサービスが開始されたことは評価されていいのではないかと思います。ただ、今年度、在宅サービスのホームヘルプサービスなど、予算が不足してしまう状況なども生まれてしまい、いい面ばかりではないわけです。また施設で暮らす人にとっては施設訓練費しかありません。

施設から地域社会への段階的な自立支援政策があって初めて、地域生活に移行が可能です。施設にいて、いきなり地域で生活しようと言われても、自信がもてない人は多いだろうと思います。住宅、交通とか総合的な地域福祉政策の充実とともに、支援費の内容を柔軟にしていく中で、地域生活があるのだと思います。

たとえば、外出や簡単な身の回りの整理などは、施設に暮らしていても、利用者の希望に応じてホームヘルプサービスが受けられるといいと思います。少しずつホームヘルプサービスの量を増やしていくことにより、地域生活が現実のものとなっていくと思います。

施設の法人を守る制度では何もならない。障害者の地域生活を守るという視点で制度を改革していく必要があると思います。脱施設化については議論がされるところですが、きちんと注意深く見ていく必要があると思います。

石野 支援費制度は、自己決定・自己選択がキーワードです。聴覚障害者の場合は、支援費制度とのかかわりが少ないのですが、ろう重複障害者は支援費制度を利用している人が多くなっています。個人的には私の娘と息子は重複障害で、支援費制度を利用しています。ろう者は手話通訳をつければ通じる面もありますが、必ずしも100パーセントではありません。たとえばろう者が通所授産施設に入りたいという相談が出たのですが、説明しても本人はイメージがつかめず、実際に入所したら合わないので契約を解消したという例もあります。本人が納得して決めるのが基本原則ですが、居宅生活支援などの中身を理解させるのに十分な情報保障、コミュニケーション支援が必要です。

支援費制度は、市町村の格差と財源の限度があること、連盟としては、昨年3月に「聴覚障害者のための社会資源便利帖」を作りましたが、ろう重複障害者のニーズと実状をつかみながら、将来的に支援費や介護保険とのかかわりをどう持たせていくのかが大切な課題です。

三澤 介護保険は、利用の見込みやそのための体制整備など、ある程度のニーズの掘り起こしをしてから出発しました。支援費制度は一定の準備期間があったということですが、肝心な利用予測に関する調査はほとんどされずにスタートしました。予算的な見通しは準備不足でしたし、いまの時点では予算見込みが甘かったと言わざるを得ないと思います。

支援費制度の理念、基本的な考え方は、利用者の自己判断、自己決定で選択できるという、当事者がずっと言い続けてきた利用者主体になっています。現実問題として本当に選択ができるかの問題はありますが、利用する側からすれば、そういう方向でぜひ進めていくべきだと思います。ホームヘルプサービスにしても一定程度利用しやすくなり、いままでは無理だと思っていた人たちが、自分も利用して生活を組み立てていきたいと思えるようになったことは確かです。

今後は、障害者基本計画とのからみもありますが、施設から地域へということを支援費の中でどう具体的に進めていけるかが大きな課題です。支援費の予算比率が施設と地域で7対3、8対2とか、まだま施設に大きな比重がかかっている状態を、5対5ぐらいに変えていける仕掛けを早急につくっていかなければと思います。

もう一点は、介護保険との論議を拒否するわけではありませんが、支援費という形で組み込まれたのに、金がないので介護保険でという流れをつくられてしまうことには警戒感をもっています。支援費制度でうたわれている理念や、地域で暮らすことが、介護保険でどのくらい可能かの検証を十分行ったうえで、介護保険とのリンクのあり方を考えていく。拙速に介護保険との一体化はすべきではないと思います。

森 支援費制度は、良い面と悪い面があると思います。良い面は、人間の尊厳ということを基本として、地域生活における自立を支えるという基本理念です。ホームヘルプ制度もなかった市町村もあったと思いますが、支援費制度の発足により、このホームヘルプ制度がマイナーからメジャー、全国版になったことは、障害者の地域生活保障の足がかりになってきたと思います。知的障害者、障害児が多く利用するようになり、また、全身性障害者の介護ニーズも全国版になりました。昨年1月の厚労省の抗議活動も含めて、支援費制度についての国民の認知が深まったと思います。

しかし一方では、支援費制度の国経費が「施設は義務的経費」「在宅は裁量的経費」に分けられたこと、また日常生活用具は利用制度、補装具の給付は措置制度などサービス利用者(障害者)からみて利用システムが複雑であること、さらには障害者地域生活支援センターの一般財源化、小規模作業所の1割カット、年金もカットされるなど、「施設から地域生活へ」が「地域生活から施設へ」へとシフト替えしているよう思われてもしかたないように思われます。

そのうえ、制度出発して9か月で財源不足という大きな課題を残しています。以上の点にケアマネジャー制度、介護保険との問題等、今後早急に根本的に検討すべきだと思います。

支援費制度で市町村に望むこと

松尾 かつての福祉八法改正で市町村に実施責任を降ろして、市町村を中心としたのですが、市町村がサービスを増やすことになかなか手をつけなかった。支援費制度がサービスを必要としているニーズを掘り起こして、財源が足りないという話がどんどん出てきました。支援費制度になって、居宅での障害者へのサービスが必要だということが表面化したのは、ある意味では意義があると思います。今後は、居宅サービスの質、内容、種類などをどういう形で支援費制度の中に組み込んでいくかが大事でしょうし、そのときに財源をどうすべきかが迫られる問題ですね。

石野 介護保険と支援費制度の違いは、介護保険は応益負担という考え方で、財源も保険、税金、自己負担です。支援費は、応能負担で財源は税金と自己負担です。支援費制度では、相談・支援のシステムの基盤が弱いとされています。今後、ケアマネジメントをどうきちんとしていくかが、みなさんとの共通課題になるかと思います。

社会的資源もまだまだ少ないと思います。障害者基本計画や障害者プランで出された計画通りに5年、10年後に進むのかどうか。三位一体改革で4兆円の削減が出されましたが、それと関連して各省庁で削減されると、社会福祉施策関連事業も削減されていくのではないかという危機感があります。それをどう乗り越えていくかが大切ではないかと思います。

松尾 そのためにも、障害者団体が協力し合って、障害者問題を地域にきちんと根を下ろしていくことが大事ですね。三位一体の議論は、どちらかというと財源を地方に譲るという話です。事業のやり方を地方に任せることを裁量権と言っていますが、ある程度金をくれれば、知事や市町村長が自分たちで考えるということです。

福祉はそれでいいのかということをきちんと議論しておかないと、自治体間の格差が広がったり、その財源で道路をつくられたりしてはたまりません。三位一体の議論は大事ですね。みなさん方の運動の中できちんととらえて、障害者のサービスを確保することが必要です。

太田 ケアマネジャーは不足しているのが現状ですが、できれば障害をもっている人たちがケアマネジメントの仕事につけるような工夫をしてほしいと思います。また障害のない人がそういう専門職に就く場合は、障害のある人が自分の経験に基づいてプレゼンテーションして、障害当事者とケアマネジャーが協力できる新しい仕組みを考えていく必要があると思います。施設の入所者との対立関係が地域でも起きることは避けなければならないと思います。

松尾 今日の座談会には施設の方が入っていませんが、施設の方も地域に目を向けて、地域にサービスを提供していかないと孤立するだろうと思います。そういう意味では、相談員もそうですが。

森 市町村の窓口で障害の程度が決定されるのは問題ではないかと思います。担当者は慣れた頃に異動します。ケアマネジャーの制度不在も問題で、市町村の格差と個人個人の格差が相当あるのではないか気にかかります。

日身連としては従来から、身体障害者相談員の研修に力を入れています。支援費制度が出発するとき、国のほうから初めて相談機関として身体障害者相談員を使ってくださいという言葉がありました。全国で身体障害者相談員は1万2000人、知的障害者の相談員は、4000人います。期待に応えられるように勉強してもらわなければいけないと思って、支援費制度の勉強もしています。

松尾 障害者にどのようにケアプランが作られるのか、研究はされて素案はできていますが、実際の現場に生きるようにしていくのは月日がかかると思いますね。

森 ケアプランの作成者は、サービスを受ける主体は、障害者だという目線を持っていないと難しい。

三澤 生活支援事業はそういう役割を果たしていくはずだし、そういう位置づけをもたせるべきです。ケアマネジメントの手法を使ってのサービス、相談内容をつくっていく方向は一定程度示されているのですが、前回の障害者プランでは達成率がいちばん低い事業でした。最低でも各市町村に一つずつは作らなければならない状況にあるのに、肝心な財源が一般財源化されてしまいました。次のステップに移っていくためならまだわかるのですが、途上の段階で一般財源化されてしまったことは、言っていることとやっていることのギャップがあると思います。もう一つは、運営をどうしていくかです。また、支援費との関連で相談機能をいろいろな形でつくらないといけないと思います。

松尾 三澤さんの発言のとおりで、支援費制度は地域での相談機能がいちばん重要だと思います。私が住んでいる市が、障害者関係の相談窓口を一本化しました。いままで各部署をたらいまわししていたのが、そこに行けばいいようにしたのですが、だれが担当するかはたいへんな問題で、相当力量のある人がやらないとダメだろうと思います。今後に期待しているところです。

障害者差別禁止法、障害者の権利条約へ

松尾 障害者差別禁止法も含めて、障害者権利条約について、各団体ではどういう取り組みを考えられていますか。

石野 昨年の10月にバンコクで開かれた国連ESCAP専門家会合でバンコク草案が出され、手話は言語であると明記されましたが、それは世界的な流れになっています。今後、日本でも手話が言語であると法的に認められることが必要だと思います。情報コミュニケーションの権利を得られるように運動を進めていきたいと思います。

障害者差別禁止法も、制定までにはプロセスが必要です。第一ハードルは法案を出すときに、当事者全体の合意を得ること。第二ハードルは、行政の人たちの理解・協力を得ること。第三ハードルは、日本全体で共通の認識があれば、成功すると思います。そのためには我々は何をしたらいいのか。障害者差別禁止法はアメリカをはじめいくつかの国で進んでいますが、日本に合った法案を作らなければなりません。日弁連を中心に草案を作っていますが、当事者がもっと意見を盛り込まないと意味がないと思っています。同時に、国連「障害者権利条約」制定へとつなげることに期待しています。

三澤 障害者権利条約に関しては、DPI日本会議としては一昨年のニューヨークでの特別委員会の傍聴活動に参加して以来、継続的に国連やESCAPの会議に参加し、DPI日本会議としての基本的な考えをまとめ、昨年6月に開かれたバンコクの会議で論議してもらいました。バンコク・リコメンデーションの中に日本会議の理念や考え方を相当程度入れてもらいました。私たちは、日本の障害者全体のものにしていくために日本障害フォーラム(JDF)準備会として権利条約には取り組んでいます。

まず日本政府に権利条約の必要性、権利条約に盛り込むべき課題を理解してもらい、積極的な姿勢をとってほしいと思います。日本政府・外務省の姿勢も一昨年8月のニューヨークの会議と昨年の動きを見ていていると相当変わってきました。障害者関係のNGOがJDF準備会として一つにまとまって話し合いをしている意味は大きいので、この動きをもっと強めていく必要があると思います。

今年の1月にはニューヨークで草案作成のための作業部会が開かれますが、政府任せにしないで、日本の障害者が一つにまとまって取り組んでいく必要があると思います。今度のニューヨークの会議には、JDFの代表が政府代表団の中に入っていますが、3年4年と論議されて、5年後ぐらいに条約ができあがって、各国が批准できるのではないかと思っています。

それとあいまって、国内的には障害者基本法改正を引き継いだ形で障害者差別禁止法制定の運動を大きく広げ、国民にも理解してもらえるような動きをつくり、5年後くらいには障害者権利条約と障害者差別禁止法が日本の社会にできあがっていればよいなと考えています。そのためには、当事者側の運動が一つにまとまっていくことと、権利条約や差別禁止法は自分たちの生活に何の関係があるの? という障害者の人たちに、この法律の意味合いを理解し合えるように働きかけることが必要だと思います。

森 障害者基本法は国内の総論だと思います。差別禁止法がもう一つの柱で、両輪で動き出す。その上に権利条約がある。権利条約が差別禁止法の起爆剤になるような形で、障害者団体が力を合わせて団結して、国民の理解が得られるような形で進めていくことが必要です。障害者基本法の改正も、国会でどんどん議論をしてくれれば、国民も関心をもってくれると思います。私たちは、権利条約についても熱心に取り組んでいきたいと思います。

太田 みなさんの発言に同感です。権利条約って何?という障害者が実は多いのです。自分もその一人かもしれませんが、何か天上のことが話されているようで、つい自分の生活とは関係ないように思えてしまうのですね。でも実際は権利条約が策定されることにより、障害者たちの日々の生活への影響も非常に大きくなる問題ですね。

社会問題の中で、障害者問題がいちばん最後に残される問題だと思います。能力の違いという根本的な差別を受けた人たちの人権を保障していく。人間でありながら障害者が差別されている実態があるから、障害者権利条約が必要であり、障害者差別禁止法が必要になっていると思います。本来的には、そういう法律がなくなる世界になるべきです。

私たちは一市民として、アジア、アフリカの障害者の生活、病気の問題、環境衛生の問題、戦争の問題についてもきちんと向き合う必要があると思います。なぜ障害者が発生し、その人たちの権利を守る条約が必要なのかという根本的なところを考えるべきだと思います。

権利条約が国内法に影響があるという意味では、障害者差別禁止法も支援費も地域生活支援もというように、私たちの日常生活に影響するわけです。実は日常生活にとって重要なことだと認識し、それをきちんと障害者に伝えていく責任があります。障害者権利条約の実現をめざしていきたいと思います。

松尾 国連・障害者の十年の最終年を迎えるときに、世界閣僚会議を日本で開催してほしいという話があったのですが、各省庁とも熱心ではなく、結局カナダで開催しました。アジア太平洋障害者の十年を北京で開催したときは外務省がリーダーを務めましたが、障害者権利条約に外務省が積極的に取り組んでいるのは非常にいいことだと思います。ただ、理解し関心をもっているのが一部の省庁の人たちだけでほかは知らん振りではよくないので、各障害者施策担当省庁がもっと熱心に勉強するように時間をかけて働きかけていくことが必要だと思います。

各団体の今後の取り組み

松尾 各団体としては、この課題に対して今後、どういう取り組みをしていこうとお考えですか。

森 障害者権利条約と障害者基本法と障害者差別禁止法の根底にあるものは、障害者の基本的人権の実質的な保障だと思います。これらの法改正、制定が一日でも早く成立するように運動をしていく必要があります。

これから地域生活をするとすれば、先ほど太田さんが発言されましたが、扶養義務者の問題は避けて通れません。障害者差別禁止法もそうですが、人間としての尊厳を考えたら、本人を中心にしないといけないと思います。また在宅で、地域で生活するとき、一日をどのように過ごすか。多くの発言できない人たちのことも考えながら、日中活動をする場、住む場所、所得保障の問題などを解決していかなければならないと思います。ホームヘルパーなどは人の問題ですから、役所が与えた人でいいというわけにはいかないところにぶつかってくるだろうと思っています。また情報も含めて、もっとバリアフリーを進めていかなければならないと思います。

石野 私は、短期的な見通し、長期的な見通しに分けて整理をしたいと思います。

連盟は1977年頃に、国会に四本柱で請願などを展開してきました。1.手話通訳制度の確立、2.聴覚障害者総合センターの設立、3.道路交通法の改正(運転免許)、4.民法十一条の改正でした。あの時は、署名が7万人ぐらい集まりました。最近、欠格条項の撤廃運動では230万人の署名を集め、医療職などの欠格条項の見直しが進みました。国民の理解と支持があったのだと思います。

短期的見直しとしては、情報・コミュニケーション保障はもちろんですが、昨年9月に京都の嵐山に全国手話研修センターが設立されました。日本で初めて、世界でも例がないもので、今後の役割もいっそう大きくなると確信しています。またCS放送で、目で聴くテレビなどを使いながら、日常生活用具として、アイドラゴンも認められています。IT関係も普及しています。

長期的な展望については、ちょっとハードかもしれませんが、まず国家による手話の認知や手話通訳法のような法制化ですね。もう一つは、緊急災害のときの情報保障システム化です。緊急災害にどのように対応するかは、聞こえない者だけではなく、ほかの障害者にとっても魅力的な課題とともに必ず実現できるものと思います。

今年はサル年で、「見ざる・聞かざる・言わざる」ということわざがありますが、逆に「見る・聞く・言う」と考えたい。「見るサル」では、福祉施策関係の事業の全体的な点検をして、どこに問題があるのかを整理していく。「言うサル」は、運動ですね。支援費の問題も介護保険の問題も改正されていくでしょう。名実とともに利用者のものにする制度づくりへの運動をしていかなければなりません。「聞くサル」では、いまの制度の改定でみんなは何を求めているのか、ニーズを掘り起こしていく。この「三猿一体」のつもりで考えながらやっていきたいと思います。

太田 JDにはたくさんの団体が入っていますから、非常に難しい質問です。障害者基本法の改正、障害者差別禁止法の制定、あるいは支援費制度、地域生活の問題では、障害者から抜け落ちた自閉症とか高次脳機能障害の人たちのサービスについても法律や施策にきちんと位置づけてほしいと思います。法律的には、総合的な障害者福祉法になるでしょうが、いろいろな施策に抜け落ちた人たちを位置づけていくことは、私たちJDの重要な課題です。

当事者ばかりではなくて、専門家、事業者団体の方々と意見交換して、当事者の意見をベースにより豊かにして膨らませていく。政府の障害者プランに対抗するカウンタープランも、いろいろな方々の意見を聞いて作っていきたいと思っています。介護保険についても、現在のところ十分な介護システムとはなっていない。ただ、どんな障害があっても社会参加が可能な地域支援施策が重要です。介護保険であっても支援費制度であっても、必要に応じた必要なサービスを得られるような政策がほしいと思います。

施設から在宅へということがありますが、JDの立場としては、施設自体が厳しい状況に置かれていると考えていますので、単に施設を削って、在宅にまわすというのではなく、それなりの誘導的な施策が必要だと思います。施設に置かれた障害者の状況は厳しいものがあり、予算の削減は生活に直結することですので、慎重さが必要だと思います。

松尾 JDはさまざまな立場の団体が加入していることが特徴ですね。いろいろ議論ができることを大いに活用されれば、いろいろな活動ができるかもしれませんね。

三澤 昨年末に9回目の障害者施策研究集会が開かれました。大きな呼びかけをしなかったのですが、全国から400人くらいが集まりました。全体会で障害者権利条約を、2日目に7つの分科会で、生活支援、教育、労働、所得保障、精神障害などの課題をめぐって、当事者側の現状認識と今後のあるべき姿を検証しました。このような研究集会で培ったものを政策提言的にまとめて、運動課題としていく方向で取り組んでいきたいと思います。

いちばん大きな課題は、障害者権利条約と障害者差別禁止法を作ることです。具体的な課題では、障害者の所得保障を求める動きが1986年から停滞していますが、そこで止めていていい状況ではなくなっているので、全体の運動課題にしていくことが必要だと思います。

組織的には三つぐらい課題があります。DPIは障害の種別を超えた組織ですが、精神障害、知的障害の当事者の声はまだまだ社会に届きにくい状況にあるので、こうした仲間の声を社会に届けるようきちんと発信していきたいと考えています。また、DPI日本会議といっても、四国には加盟団体はありませんし、東北も弱いので、当事者の運動を一緒にやりましょうという働きかけを空白地域に強めていきたいと思います。もう一点は、一昨年の世界会議の成果でもありますが、当事者同士の国際協力、国際的な交流をもっと高めて、活発化したいと考えています。

共通の課題には連携を

松尾 団体間のこれからの連携のことが出ましたが、これについてコメントはありますか。

太田 連携は当然の話です。障害者施策を前進させていくには、大勢の人たちが協力し合っていきたいと思います。無理に一致させるのではなく、協議を重ねながらできることは一緒にやっていくべきでしょう。細かい政策問題は個別にやっていくとしても、障害者差別法禁止法、障害者権利条約など大きなテーマで一致しているものに関しては一緒にやっていきたいと思います。

石野 当事者団体と支援者団体、専門家集団に分かれていますから、難しい問題があります。当事者団体は自分たちで活動するのが基本で、支援者グループとは一緒に活動していると思います。専門家集団との連携をどのように積み上げていったらいいのかは、簡単ではありません。今後は、当事者、支援者、専門家という三つの団体の認識統一が必要になってきますから、どう動いていくか、今後の連携のあり方についてはこれから建設的に検討し、がんばっていかなければと思っています。

連盟は、50年以上の歴史がありますが、要求は一致できるものは障害者団体と一緒にやっていこうと共通認識はもっています。これからは良きパートナーとして支え合う時代です。

三澤 違いをことさらに言い立てるのではなく、まとまれるところは協力していきたいと思います。そういう中で、それぞれの団体が責任をもって役割を果たしていく必要があります。自分たちの果たすべき役割はきちんとつくっていきたいと考えています。

森 障害者共通の課題があるわけですから、その点についてはお互いに協力し合っていくことと、もう一つは障害によって特性がありますから、そういう問題については応援する形にしていくことがいちばんだと思います。同時に、団体ですから交流機能、相談機能、広報機能を強めて、そして絶対不可欠なことは政策機能の強化です。その辺をお互いに研鑚しながらいけばいいと思います。各団体がセミナー等開催していますが、お互いに講師になったりすることの積み重ねが、いい団結になっていくのではないかと思います。

松尾 これからは、地域、居宅での福祉活動や支援活動が主になると思います。地域では各障害者団体は小規模ですから、まとまらないと地域での大きな事業はできません。その意味では中央の団体が連携をしていれば、地方はやりやすいと思います。

各種の施策を障害者別に実施できない場合、共同で利用することにより、地域の生活を確保するために、中央の団体の連携が必要だと思います。中央の団体間で協力できることは協力していくことがこれからのポイントかと思います。

本日は長時間、ありがとうございました。