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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

列島縦断ネットワーキング

東京 環太平洋社会福祉セミナー:新世紀における障害者福祉の展開

植村英晴

アジア太平洋障害者の十年(第1期:1993年~2002年)は、アジア太平洋地域の障害者福祉に大きな足跡を残して、2002年に最終年を迎えました。そして、2003年から新アジア太平洋障害者の十年(第2期:2003年~2012年)へと展開してきています。このアジア太平洋障害者の十年(第1期)の間、アジア太平洋域内の国際機関をはじめさまざまな機関団体が障害者問題に取り組み、施策においても支援プログラムにおいても大きな成果を挙げてきました。アジア太平洋障害者の十年(第1期)の最終年を記念して、日本社会事業大学は、この10年におけるアジア太平洋諸国における障害者福祉の充実への取り組みを踏まえて、その現状を分析し、今後を展望するために、2001年から2003年までの3年間、障害者福祉をテーマに環太平洋社会福祉セミナーを開催してきました。

本年の環太平洋社会福祉セミナーは、2003年11月13日と14日の2日間にわたって国連大学で開催されました。セミナーのプログラム概要は、次に示すとおりです。

◆1日目(11月13日、木曜日)

  1. 高嶺豊(琉球大学教授、前ESCAP社会問題担当官):UNESCAPの障害者政策の過去・現在・未来
  2. ビーナス・イラガン(DPI議長):障害者解放のための新十年の実施課題
  3. パドマニ・メンデス(障害とリハビリテーションコンサルタント、前ケラニア大学教授):CBR(コミュニティー・べイスト・リハビリテーション)の過去・現在・未来
  4. ベンジャ・チョンラタノン(タイ教育省):アジア太平洋障害センター(APCD)の展開
  5. ジョン・ブリコット(ワシントン大学GWB大学院助教授):米国の障害者政策の歴史と最近の動向
  6. 佐藤久夫(日本社会事業大学教授):第1期のアジア太平洋障害者の十年と障害統計

◆2日目(11月14日、金曜日)

  1. ニー・サン(カンボジア障害者協議会):カンボジア障害者のニーズ表明のための政策の展開
  2. ロメオ・キエタ(フィリピン大学教授):フィリピンの障害者、特別プログラムの成果分析
  3. デチャ・サングクワン(タイ・タマサート大学教授):タイ障害者のための情報アクセスと適応技術改善のための戦略プラン
  4. ジョセフ・クォック(香港市立大学準教授):障害に関する法制度、香港における法の実施と今後の展開
  5. オチルジャブ・ミャグマー(モンゴル国立教育大学心理学部長):モンゴルの障害分野におけるNGOの活動状況
  6. サンディアーノ・セバスチアン(マラヤ大学教育学部講師):マレーシアの障害者を支援する政府とボランティア団体のパートナーシップの強化

この環太平洋社会福祉セミナーにおいては、日本社会事業大学と姉妹校(研究交流協定)であるワシントン大学、タマサート大学からの招聘を含めて、アジア太平洋地域で障害者施策の推進や研究に携わっている研究者・実践家が理論的にも実践的にも興味深い報告を行いました。

まず、本年の3月までESCAP社会問題担当官であった高嶺さんが、ESCAPが障害者施策に取り組み始めた時期、アジア太平洋障害者の十年が決議され、障害者施策に本格的に取り組み成果を挙げた時期、そして、第2期のアジア太平洋障害者の十年が決議されるに至る時期に分け、歴史的過程を総合的に報告しています。そして、今後取り組むべき施策の方向として、チャリティとしてではなく権利としての障害者施策の展開、障害は貧困と密接に関係しているので、貧困問題との関連で障害者施策を推進する必要があると指摘しています。

ビーナス・イラガンさんは、昨年10月に札幌で開催された第6回DPI(障害者インターナショナル)世界会議でDPIの歴史上、初めて女性の議長として選出されました。イラガンさんは、DPIが組織された経過や使命、札幌で採択された宣言の意義と役割について報告しました。そして、今後のDPIの運動の方向として、障害者の権利条約、障害者、特に若年の障害者や女性障害者の参加、啓発広報の推進を提唱しています。

パドマニー・メンデスさんは、CBR研究や実践の第一人者としてCBRの誕生、さまざまな国での実践、そしてCBRの現状と課題について報告しました。そして、CBRと自立生活運動(IL)との関連の中で、自立生活はさまざまなサービスが利用可能な先進工業国において障害当事者の先導によって行われ、CBRは発展途上国で障害当事者、家族、地域社会とリハビリテーションの専門家の連携の中で実施されていると述べています。

ベンジャ・チョンラタノンさんは、日本政府とタイ政府の支援によりアジア太平洋障害者の十年(第1期)を記念してバンコクに開設されたアジア太平洋障害センター(APCD)について報告しました。アジア太平洋障害センターでは、障害者のエンパワーメント、バリアフリー社会の推進、障害に関する情報のネットワークの形成、各所研修や研究が行われています。

このほかにも、障害者政策の研究や実践を行っている多くの方々の報告があり、100名以上が参加し、成功裏に2日のセミナーを終了しました。

(うえむらひではる 日本社会事業大学社会事業研究所)