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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年1月号

列島縦断ネットワーキング

滋賀 「暮らしバッチリ 主役はわたし!」
~支援費を上手に使う勉強会~

山吉順子

はじめに

“自分のやりたいことを話してみよう”“自分のやりたいことをやってみよう”

話しやすい場のひとつ、やってみたいことを実現する場のひとつとして知的に障害をもつ人たちの自分たちの会「信楽すみれ会」は平成13年6月に発足しました。“自分たちで考え、話し合い、企画し、動く”をルールに2年半、月2回の定例会と新年会や忘年会、旅行、卓球・ゲートボールなどの楽しい企画をしながら活動を進めてきました。

今年4月、支援費制度の開始に伴い、「支援費って何?」「暮らしがどう変わるの?」という質問が多く出てきました。支援費制度は、自分で福祉サービスを選び、契約しなくてはなりません。そこで、全日本手をつなぐ育成会が募集した全国7か所の「本人向け支援費研修会」に申し込み、11月16日、信楽の地で開催されることになりました。

この勉強会に至るまでのプロセスを大事にし、「考える」「選び取る」力を築いていくひとつのきっかけになり、そして支援費が地域生活をする人の「あんしん」へと繋がっていくものであるなら…と、支援者として最初に思ったことです。

支援費勉強会に至るまで

「勉強会」開催を1か月後に控え、支援スタッフのひとりが会長に「進んでる?」と声をかけたところ、翌日から闇雲に3日間召集をかけたものの“何を話し合うのか?”“どうするのか?”と初めから支援スタッフに助けを求めるような状態でした。「どうしよう…どうしよう…」からのスタートでした。“わからんけれど なにかをせんとあかん”と「近畿通勤寮本人部会」の役員経験のある人の呼びかけで「まず、実行委員と支援者や!」と「信楽すみれ会」で実行委員を募り、支援者に依頼し、ようやく支援費勉強会に向けての軸ができました。

経験から、「勉強会と交流会の2本柱で行こう」とプログラムは決まったのですが、自分たちで大人数を集めての勉強会はだれもが初めてで当日までどのように動けばよいのか、「どうしよう…」と繰り返す実行委員長を励まし支えたのは、実行委員の4人でした。“自分の暮らしは自分のもの”。この勉強会が自分たちだけでなく、できるだけ多くの仲間に知ってもらいたい、来てもらいたいとの思いから120人を目標に郡内460部の案内を配り、電話や訪問など直接の呼びかけを50件以上しました。とはいっても目標参加者数120人の不安は大きく、他の本人の会に呼びかけ、交流会で活動報告をしてもらう案も出てきました。ようやく動きが見えてきました。

支援者しての姿勢

開催当日まで何度も実行委員長から発せられた「どうしよう…」を聞くたび支援者は、本人に、そして実行委員に、「何を困っているのか、困っているのはだれなのか」を問い返していきました。そして「しんどいよー」「できないよー」との泣き言のたびに、「何ができないのか、できる方法を探れないのか、やるのか、やらないのか」を問い返しました。

開催日を明日に控えた前夜、「役員・係員動き確認会」で質問を浴びせられ思うように答えられず、自信をなくしていた実行委員は最終確認をしていました。夜も12時近く、疲れや不安から「もうやめる…」と実行委員長の口から出ました。「もうイヤだー! S君がしたらよいのに…」と仰向けになり泣き出してしまったのです。「そんなにイヤならやめたらいい。けど、今泣くな!」。“本当にこんなことで大丈夫なのだろうか”支援者自身も殺気だっていました。実行委員長の姿にも支援者の言葉にも吃驚してしまった他のメンバーですが、その中から間髪入れずに出てきたのが「達成感やで…。最後まで5人でやらんと意味ないやんか…」「そや!がんばろに!」という言葉でした。

常に「どうしよう」の質問と「どうしよう」との不安感の中での準備。しかし、いつからか“達成感”を合言葉に、それは、最後まで変わらず、自分たちでつくっていくことを持ち続けました。

「自分で伝える(聞く・話す・動く)」「自分で考える」「自分で感じる」を大事にしていきたい。そこには支援者が「がんばれ」という応援と「だいじょうぶ」という安心感を持った受け止めがなくてはなりません。そして「何のためにこの役を引き受けたのか?」支援者自身も実行委員もそれぞれが自分自身に問いかけ、その役割を「自分が知る」ということ。丁寧にその作業を繰り返すことで時間はかかりますが、「自分たちでつくった」と実感できていくのだと思います。

支援費勉強会を通して

勉強会当日、138名の参加がありました。そのほとんどが、「信楽すみれ会」の本人たちが集めた数です。そしてその中身は、それは「支援者に言われたから仕方なく」の参加ではなく、義理と人情も含む彼らの付き合いの中で、本人たちが「支援費」を知っておくことの必要性を話し、人から人へと寄せた数なのです。

スーツ姿に身を包んだ姿の係員、「案内役」の腕章をつけて駅に立つ係員、首から「実行委員長」の札を下げたNさん。そして「ご苦労さんやなぁ…」と参加する人たち。それぞれがそれぞれに『自分が主役』を演じた1日でした。

当日、参加者に配布したアンケート。「今日の勉強は役に立ちましたか?」に「わかりにくいところもありましたがもっと詳しく知りたいと思いました」や「車の手続きどうするの?」と個人に則したもの。「今後は?」の問いに「自分の生活に役に立つことをもっと具体的に知っていきたい」との回答。そしていくつも見られたのが「交流会が楽しかった」との感想と「出会いの場をしてほしい」でした。

2日後の「実行委員反省会・達成会」の場で、「自分は何点?」の問いに、こんな言葉が聞かれました。「95点や。やればできるんや。でも今度やるときは、声を大きいせんとあかんなぁ」、「98点。よう頑張ったけど、100点と違うのは、支援費がようわからんかった」。

おわりに

本人たちの会の主役は、あくまでも“本人たちにある”のです。会の成功は、支援者が思う会の成功なのではなく、本人たちが自分を通して困り、悩み、考え、動くことで初めて得られる「やった!」という達成感であり、それが「成功」なのだと思います。

支援者は、本人の会に対して、どれだけ本人たちの自己決定を促すかではなく、本人たちの思いを拾いきれるのか、そのことで彼らは自ら考え、動き、決めていけるのです。その結果が、138名を集め、また集まったのだと思います。

(やまよしじゅんこ 本人活動(ほんにんかつどう)の会(かい)『信楽(しがらき)すみれ会(かい)』支援(しえん)スタッフ)