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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年2月号

1000字提言

公共輸送と障害者
―ノンステップ方式の路面電車・バスの活用を―

齊場三十四

昭和40年頃から、わが国は高速幹線等道路を中心に予算が投下され、基本的には、自動車中心の方向を推進してきた。この中で、主要な都市に走っていた路面電車は、自動車通行を妨げるやっかいなものとして認識されることで姿を消してきた。

車の持つdoor to doorの便利さは捨てがたい機能であり、障害者も自動車を駆使し、社会にアクセスしている者も多い。しかし、この自動車中心の世界は、その便利さの反面、公害問題や騒音、交通事故など多くの社会問題も招来すると同時に、自動車免許を持たない(持てない人)には、使用している身近な移動手段が機能低下または廃止になることは大変生活上困ることになる。

マイカーの増加は、路面電車、路線バスの経営を圧迫する結果を招き、路線縮小・廃止が進められている。大都市部のように、バスばかりでなく、JR・私鉄等の鉄道・地下鉄、モノレール・ニュートラムなどの多種の移動手段が存在し、各駅のバリアフリー化も整備されているならよいが、多くの地方都市では、他に適当な手段がないだけに、公共交通機関としてのバスは大変重要なのであるが、利用乗客が少ないことを理由に、経営が困難と路線の縮小・廃止が急速に進んでいる。

しかも、免許取得にハンディのある高齢者や障害者が利用しようとしても、ステップのあるバスに乗るには相当な覚悟がいることになる。全国路線バス6万台のバスのうち、写真2のようなノンステップバスは、増加してきたとはいえ6%程でしかない。写真1はもっとも平面である羽田・成田空港のみを走る専用バスでありながら、もっとも床面高の高い3ステップが大きな顔をしている。

高齢者・障害者にも乗降しやすいノンステップ方式のバスは当然であるが、高齢社会が到来しているだけに、移動手段として、地面を平面に利用するというリスクの少ない写真3のノンステップ路面電車(グルノーブルでは10年程前住民投票で復活)も含め、建設工費の低コスト性、エコロジー性からも欧州では重視されているのに、なぜわが国はこの二つのシステムを見捨てているのであろうか。

欧州では、住民意見重視の中でノンステップ方式のシステムが基本となる町づくりが進んでいる。わが国も、だれにも優しい移動手段として、この方式の導入を早急に検討すべきであり、この分野に関わる関係者は、今まで通りの漫然と連携もなく、バリアフリー化もいい加減な交通機関整備は進めてほしくはない。関係者は認識を改め、努力してほしいものである。

写真1 3ステップ(空港バス) 2ステップバス
写真1

写真2 ノンステップバス(佐賀市営バス)
写真2

写真3 ノンステップ路面電車(グルノーブル)
写真3

(さいばみとし 佐賀大学医学部地域医療科学教育研究センター福祉健康科学(社会生活行動支援)部門)