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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年2月号

列島縦断ネットワーキング

京都 「コミュニティ嵯峨野」にどうぞ

高田英一

ろう者、手話通訳者の夢が実現

京都の嵯峨嵐山に新しく社会福祉法人全国手話研修センター「コミュニティ嵯峨野」が開設されました。これはろう者、手話通訳者と手話サークル会員の長年の夢の実現でした。

ろう者、手話通訳者にとって手話通訳者を養成し、手話の普及を図ることは非常に大切な課題でした。そのため、財団法人全日本ろうあ連盟、全国手話通訳問題研究会、日本手話通訳士協会が協力、共同出資する形で全国手話研修センターを結成、2002年1月に厚生労働省により社会福祉法人の認可を受けました。しかし、法人事務所を京都市内に設置したものの、集団で研修を受け宿泊も可能な施設はなく、その時々の研修は場所を借りるしかないやどかりで事業を実施する状態でした。

そこで、長期的な計画として取りあえず土地を確保しようということで候補地の一つとして京都府に土地の斡旋を要請したところ、思いもかけず土地を含めて「コミュニティ嵯峨野」施設そのものを譲渡(土地は無償貸与)したいという回答がありました。そのときは荒巻禎一知事の時代で知事の思いきった決断いや英断でした。私たちがこの提案をどのように喜び迎えたかはいうまでもなく理事会、評議員会共に全会一致で受け入れを決定しました。この背景に第三セクター事業の行き詰まりがあったかもしれませんが、知事にはこの名所旧跡に恵まれた嵯峨嵐山を障害者に開かれた観光地として、かつバリアフリー施設として地域の発展に供したいという思いがあったことでしょう。荒巻知事の志はこの1月に就任された山田啓二知事に引き継がれ、昨年(2003年)の3月に京都府議会は「コミュニティ嵯峨野」譲渡を正式に承認、かくて私たちの手に譲られました。私たちは二代にわたる知事の期待に応えたいと思います。

名所・嵯峨嵐山

嵯峨嵐山といえば全国の皆さんはほとんどご存じでしょう。思い浮かべるだけでも渡月橋、天竜寺、大覚寺、大沢池、二尊院など数多くの名所旧跡に恵まれ、京都きっての観光地、年間500万という内外の観光客を迎える京都というより日本の誇る観光地でもあります。しかも名所旧跡は嵯峨嵐山という比較的広い地域に適宜配置され、山、川などでそれぞれが隔てられているので中心地以外は桜の春、紅葉の秋の観光シーズンといえども雑踏を感じさせません。さらに京都市内から20分程度の時間でJR、阪急電車、嵐山電車(京福電鉄)、京都市バス、京都バスと五つの公共交通のアプローチがあり往来にも恵まれています。

「コミュニティ嵯峨野」は嵐山の中心地を少し離れた住宅街にあって、JR嵯峨嵐山駅のそば、雨が降っていても濡れない距離といえるまことに便利なところにあります。目の前に嵯峨トロッコ列車の乗り場、近くの渡月橋は遊船・保津峡下りの着陸地になっています。

そういうわけで「コミュニティ嵯峨野」は観光地といいながらも静寂さを保ち(といってもろう者に関する限りはいつでも、どこでも静寂は保障されているのですが)、研修にも好適、疲れた頭は静かな嵯峨野散策で癒すこともできます。

バリアフリー施設「コミュニティ嵯峨野」

「コミュニティ嵯峨野」の土地面積は4400平方メートル、建物は地下1階、地上3階建、延べ床面積は5500平方メートル、客室は和洋含めて28室で最大80人の宿泊客を収容できます。研修室はIT学習室、多目的室を含め9室あり、大きい研修室は150人の研修が可能です。他にレストラン、宴会場、広々としたラウンジ、各階にロビー、さらに随時絵画を展示するギャラリーを備え、研修宿泊施設として十分な大きさと設備を備えています。

そして、障害者にバリアフリー、特に聴覚障害者を対象にバリアフリーとなっているところが特徴です。あまりにも聴覚障害者に対して設備が整っているので、冗談に健聴者にももっと音声の配慮をしろ、という苦情が出るほどです。

「コミュニティ嵯峨野」は譲渡を受けた段階で建設後15年を経過していたので、設備面で一部機材が老朽化していました。また、障害者バリアフリーとしても不十分でしたので改修の必要がありました。それは厚生労働省の協力もあって自転車振興会からの補助2億4千万円を受けることができましたので、自己負担を一部カンパ、一部基金を充てて合計3億3千万円で改修工事を行いました。

改修によって客室にドアライト(ドアのノックが聞こえない場合にベルを押して内部のフラッシュライトを点滅させる)、アイ・ドラゴンⅡ(CSによる緊急災害放送、「目で聴くテレビ」、クローズドキャプションの字幕・文字放送の視聴が可能)、ファックス(フロント、外部に送信可能)、振動式目覚まし時計、浴室にナースコール、廊下及び研修室に電光掲示板、フロントには部屋の使用が一目で分かり、必要な場合はビデオ映像も含めテレビともなるプラズマテレビ等を設けました。また上下の移動がスムーズに行えるよう内外の段差部分はすべてスロープに改修、エレベーターにものぞき窓を設け、車いす使用の客室も設置しました。ラウンジ、レストランにはお客と共に従業員のろう者にも呼びやすい、気づきやすいようフラッシュベルを備えました。ここはまたろう者、障害者にとっても働きやすい職場になるでしょう。

新しい試練

私たちの喜びは大きなものがありますが、喜んでばかりもおられません。この新しい事業を成功させることは大きな、難しい課題です。

この「コミュニティ嵯峨野」の事業は手話通訳者研修、指導者養成及び手話普及という公益事業と貸室、宿泊、レストランなどのホテル経営という商業事業に大きく分かれます。そして今のところ両面の事業に公的助成はなく、しかも経済不況が継続する状況のうちにこの二つの事業を両立させ、社会福祉法人という枠内で経済的にも安定的に経営しなければならないのです。

公益事業の部分はこれまでの経験が蓄積されていますので、この部分は拡充が課題になりますが、ホテル経営というのは初めての経験です。幸いなことは以前からの「コミュニティ嵯峨野」のホテル部門従業員を引き継いだので、この人たちの経験をうまく活用、営業を改善向上させたいと思います。たとえば、料理なども工夫していろいろなお客様に本当においしいと言える京料理を提供できるように心がけたいと思います。

新装開館して4か月を経た今、思うことは、私たちが「日本聴力障害新聞」や「目で聴くテレビ」で報道し、全日本ろうあ連盟、全国手話通訳問題研究会、日本手話通訳士協会の組織を通じてさんざん報告し、通知を流したと思っているにもかかわらず、それらの関係者が案外「コミュニティ嵯峨野」の事業内容についてご存じないことです。視察には大勢の関係者がお出でになりますが、それらの人たちは宿泊ができるとは知らなかった、食事ができるとは知らなかった、レストランがあるとは知らなかった、などとおっしゃる方が多いのです。まさに百聞は一見にしかずという諺(ことわざ)を実感して、宣伝が、工夫した宣伝がまだまだ足りないということを痛感しています。

「コミュニティ嵯峨野」は全国手話研修センターの経営だからといって、ろう者や手話通訳者だけを対象としてホテル事業を経営してはそれは成り立たないでしょう。本命としての手話通訳者研修、指導者養成及び手話普及事業を大切にしながら、ホテル事業に成功するためには、国内といわず世界から障害者とその関係者、地域の方々、さらに一般の観光客などの方々に気持ちよく利用できる施設にしなければなりません。さらに従業員には聴覚障害者を含む障害者を多数採用して、それらの人たちがあらゆるお客様に奉仕する「完全参加と平等」のモデル施設としたいと思っています。

(たかだえいいち 全日本ろうあ連盟常任理事)

●コミュニティ嵯峨野

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 〈宿泊等の予約〉
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