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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年2月号

ほんの森

中西正司・上野千鶴子著 『当事者主権』(岩波新書新赤版860)

評者 立岩真也

まず二つこの本の意義がある。一つに知らせること。障害者の運動、その中の自立生活センターを作り活動してきた活動は、その主張と実績を見たとき、知られてよいより、ずっと知られてこなかった。もっと知られるべきだ。そのためには、私たちの『生の技法』(藤原書店)のような読みづらい本ではなく、明解で手頃な長さの読みやすく人目を引く本が必要だ。この本が新書で出たことや、筆者の一人が上野千鶴子であることはそのためにもよかった。もう一人の著者の中西はヒューマンケア協会の設立・運営に関わり、またDPI日本会議、全国自立生活センター協議会(JIL)等々で中心的な役割を果たしてきた。彼には政策を評価し運動の方向を示す多くの書き物がある。またほとんど寸分違わぬ内容の講演等を全国各地で繰り返してきた(運動とはそういうものだ)。ただその多くはその時々に主張すべきことの骨子、緊急提言の類で、分量も限られていた。

今回、新書という制約はあるが、その主張の全容が示された。強烈に肯定的なトーンにくらくらする人がいるかもしれないが、しかしそれだけのことをやってきたと私は思う。長い付き合いで彼の代わりに同じことをしゃべれる人以外は得るものがある。いや、耳にタコという人も、新しい情報があったりするから読む価値はある。二人の著者の間の微妙な(ときに言い切れない)差異や、全体的にうまく運んでいる議論のあらを探したい人はご自由にどうぞ。

一つにこれからのこと。知らない人はまったく知らないと述べたが、この運動には知られないようにやってきた部分がある。たとえば介助制度なら、大きな制度を作るのでなく―作りたくても作れなかった─行政に直接に働きかけできるところから実現してきた。また議論の場としても専門的な委員会等で発言力を強めてきた。しかし、そうして獲得したものが一定の大きさになった時、とくに財政側から問題にされる。より「普通」の制度、たとえば介護保険制度との差異が問題にされ、そちらの側に吸収しようという動きが現れる。この時点で議論は表立ったものにならざるをえない。運動側も主張を組み立て、その正当性を広く社会に訴えて支持を得る必要が出てくる。

この本では介護保険のことがかなり大きく扱われている。基本的な論点を知るためにも読んでもらいたい。(こうして肝心の「当事者主権」について等、何も書けない。この分量では無理です。乞御容赦。)

(たていわしんや 立命館大学大学院先端総合学術研究科助教授)