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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

1000字提言

自閉脳の感覚の設定値は

ニキリンコ

自閉が脳に起因する障害であることは、不十分ではあるにせよ、少しずつ知られるようになりつつあります。この知識が広まれば、自閉の子を育てる立場の方々は、いわれなき中傷から救われることになるでしょう。精神的なショックを受けたからでもなければ、愛情が足りなかったためでもないとわかってもらえるからです。

でも、もう一歩、考えてみてください。高熱や卒中や外傷などで脳がいたんだら、いろんな不具合が起きますよね? ことばが話せなくなる人、ついさっきあったことを思い出せなくなる人だけじゃなく、手が動かなくなる人もいれば、片方の口角が下がって、口が閉まらなくなる人もいます。耳が聞こえなくなる人もいます。脳の仕事は、知力や情緒の分野だけじゃありません。感覚にも運動にも、もっと基本的な生命の維持にも、脳がかかわっています。

自閉の人々の手になる手記を読んだことのある方ならご存じかと思いますが、私たちの仲間には、感覚の設定値が非自閉のみなさんとかなりちがっている人が珍しくありません。みなさんには何でもないと聞こえる音が耐え難く聞こえる人がいるかと思えば、大きな音が大好きで周囲に迷惑をかける人もいます。服の繊維の肌ざわりにやかましい者、締めつけをきらう者、逆に締めつけられる感覚を好む者、いろいろです。

でも、もっと目に見えにくい特徴もあります。たとえば私など、「水が飲みたい」という感覚がかなり鈍く、脱水がかなり進むまで喉が渇いていることに気づかないことがあります。もっと早く気づけばこまめに飲めて便利なのになあと思います。

体温の調節がうまくできない人も意外に多いかもしれません。私は身体が冬向きから夏向きに切り変わるのに日数がかかるのか、晩春から初夏は、身体に熱がこもってずっと微熱が続きます。右半身だけ、左半身だけが冷えたり、のぼせたりということもよくあります。ところが、どうも私は、「温度」と「重さ」の感覚が混線しているらしく、冷たい部分を軽く、熱い部分を重く感じ誤ってしまうため、のぼせている側の半身を重いと思いこみ、持ち上げるようにして歩こうとするため、どんどん身体が傾いてしまいます。

体温調節については、おもしろいネタがいっぱいあるので、たぶんまた書きます。

(翻訳家)