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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

障害者権利条約への道

タイ視覚障害者協会第一副会長
モンティアン・ブンタン氏に聞く

聞き手:藤井克徳
(本誌編集委員)

去る2月26日(木)、東京都・中野サンプラザにおいて、国際セミナー「権利条約制定への世界の動き」―国連特別委員会作業部会の報告(主催:日本障害者リハビリテーション協会)が開催されました。このセミナーにパネリストとして参加されたモンティアン・ブンタン氏にお話を伺いました。ブンタン氏は世界盲人連合執行委員を務め、国連・障害者権利条約特別委員会作業部会タイ政府代表として、これまでの特別委員会にも出席して、積極的で活発な活動をされてきました。今後の特別委員会の方向などを含め、障害者権利条約採択に向けた新たな動きをお聞きしたいと思います。

▼さっそくですが、障害者権利条約(以下、権利条約)について伺いたいと思います。2001年にメキシコ大統領の発案以降の経緯と本年1月5日から16日までニューヨークで開かれた草案作成のためのワーキンググループ(以下、作業部会)での特徴をどのように評価されていらっしゃいますか。

作業部会は、大きく言って大変フレンドリーな雰囲気の中で開かれました。政府代表団の間での対立はあまり見られなかったように思います。ただ少し心配なのは、いくつかの問題については結論に至らず、一部の政府代表団が賛否を留保したことです。

もう少し詳しく言いますと、全体的な印象として意見の隔たりが縮まったように思います。しかし、重要な部分で課題というか難題があり、これらは今後の論議に移されることになりました。

▼今後に残された課題をどのように見ておられますか。

まず一つ目は、多くの補足説明が付けられたことです。たとえば国際協力、生存権、拷問からの自由権など、話し合うべき課題が残されていると思います。多くの代表団がこれらについてはっきりとした意見を言っていませんし、モニタリング機構などについても、話し合うための時間が足りませんでした。二つ目は定義の問題です。たとえば障害、差別、合理的配慮(reasonable accomodation)の定義について、共通の認識を持つほどの十分な話し合いが行われませんでした。

▼ESCAP(国連・アジア太平洋経済社会委員会)の会議によって昨年12月に出されたバンコク草案は、作業部会にどのような影響を与えましたか。

バンコク草案はかなりの部分で議長案に盛り込まれました。自分たちの目の前にほぼバンコク草案と同じものがあったわけですからそれは評価できると思いますが、修正が必要なところもありました。

▼いよいよ議論の舞台は、5月の第3回特別委員会、8月の第4回特別委員会に移されますが、ブンタンさんは、第3回、第4回の委員会の見通しをどのようにとらえておられますか。

まずは1月の作業部会で出された草案は最終案ではないということを強調しておきます。さらに課題や反対意見が出てくるでしょう。

さて、これまでの審議のペースについてですが、これは通常のやり方ではありません。今年中に特別委員会が2回も開かれるということをもってしてもお分かりいただけると思います。このペースでいけば今年中に採択されることも不可能ではありません。政府側に採択を阻止する動きは見られませんので、これまでより困難な状況にはないのではないかと思います。

採択そのものについては私も楽観しています。問題は内容です。多くの妥協がなされ、結果的にレベルを落としたものになってしまうことを危惧します。そうなれば自分たちが希望しているようなものではなくなります。

▼それは私も同感です。高い水準で採択されることが後々加盟各国に好影響を及ぼすと思います。ところで、気になるのはアメリカやEUの動きです。やや消極的な感じを受けるのですが、その辺りをどのように感じておられますか。

まずアメリカですが、どちらかというと反対でも賛成でもない、ただ静観しているというように私には見受けられます。作業部会設置時において興味を示さなかったわけではありませんが、特に反対したり支持したりということも見られませんでした。

他方、EUのスタンスは、これまで採択された人権条約を障害という文脈のなかでもう一度議論する、あるいは明確にしようという感じです。たとえば財政支援を伴う社会開発(途上国への支援など)についてどちらかというと警戒していますし、新しい条約には確かに消極的な面が伺えます。

▼最後の質問になりますが、日本政府もようやく前向きになってきました。日本のNGOも少しずつ活動が活発になってきています。日本の政府ならびにNGOへの期待をお話しください。

日本は世界第2位の経済大国ですので、障害分野においても、たとえば今回の条約について賛否いずれの立場をとろうとも大きく影響します。日本政府やNGOが権利条約について積極的に関わってほしいし、条約採択に向けてリーダーシップをとることを期待しております。

アジア以外では地域ごとにまとまって意見を述べており、これが大きな力となっております。それに反して、アジアは個別バラバラな印象を受けます。まずはアジア域内でNGO同士がまとまることであり、また政府間においても連携が求められます。これら両方の面で日本の役割を発揮してほしいと思います。

また、国際協力の面で積極的な立場をとってほしいと思います。国際協力というとつい経済支援となりがちですが、それだけではないのです。今後、障害のある人々を支援していくための理念の一つに「ディスアビリティインクルーシブ」というものが掲げられますが、この視点でもっと創造的な交流や支援があってもいいのではないでしょうか。

最後に、国連での条約採択のプロセスに、アジアやアフリカといった開発途上国からの当事者が参加できるようサポートしてほしいと思います。そうしないと、限られた国々による検討、すなわち北半球の豊かな国々の主導による議論となり、貧しい国々の意見が反映されなくなります。世界的に通用する条約とするためには、この点に注意を払わなければなりません。

▼アジアの障害当事者運動のリーダーでもあるブンタンさんにはこれからもますますのご活躍を期待します。今日はお忙しい中ありがとうございました。