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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

お待ちどう様でした。新障害者基本法が成立します!

八代英太

大変長らくお待たせしましたが、待望の「新障害者基本法」が衆議院の内閣委員会で、5月14日に可決され、衆議院本会議でも、全会一致で可決されて参議院に送付されました。

このレポートを皆さんがお読みになるころは、参議院でも可決・成立されているかもしれません。この間、障害者団体の皆様や関係者の皆様のご支援に心から感謝申し上げます。

一昨年の10月に日本を舞台に開催されました障害者の国際フォーラムは、21世紀の障害者福祉のあり方をどうすべきかと、北海道で、大阪で、滋賀の大津で熱心に議論され、現行の障害者基本法も、その対応にギャップを感ずるようになり、改正への動きが私自身の心の中にも、議論の中にも、大きく湧き上がってきました。

思い起こしますと、1992年、アメリカの障害者自立運動の結果として、成立した「障害を持つアメリカ人法」いわゆるADA法の成立が日本の障害者に衝撃を与え、当時、このアメリカでの「ADA法」成立までのプロセスに関心を抱いていた1人として、日本版「ADA法」を、なんとか作り上げたいと考えていた経緯もあって、第一段階として日本の「心身障害者対策基本法」を大改正して、アメリカのADA法に追いつけるようにと頑張りもいたしましたが、でき上がった「障害者基本法」は評価としては及第点には遠く及ばないものでした。日本の障害者福祉を根底から覆して、ドラスティックな法律を一気呵成には、なかなか抵抗感もありましたし、国民の理解や国会での協力を得るには、いくつか高いハードルもありました。それでも、「心身障害者対策基本法」を「障害者基本法」とスリム化することによって、新しい時代に対応できる法案として大改正をすべく、必死に取り組んでもきました。

それは、ADA法の衝撃が日本の障害者問題への新たな始まりを予感し、まず第一段階としての、改正作業のコンセンサスを得るためのプロローグと割り切りも考え、1992年に、現行の「障害者基本法」改正案の成立となった次第です。もとより、法律は時代の変革とともに、その時代にふさわしい法律でなければなりません。この基本法から発信される諸問題が、やがて大きな政策転換となって、21世紀になれば、自(おの)ずと新たな対応、新たな法律改正へのうねりは、障害者自身から沸き起こるであろうと期待を込めての現行基本法でありました。

それから12年、その間、及第点ではないにしても、現行の基本法によって、日本の障害者福祉政策は大きく変わってきましたし、障害者の意識をも変化を遂げました。

施設からまちの中へ、自立への飽くなき欲求、就労への希望、不当な差別への闘い、人間としての権利への訴求などなど、国民の理解も、障害者自身の考えも行動も、新しい国際化のうねりも手伝って、驚くような変革期に差し掛かったと感じました。そんな時代、そんな世界の流れに、現行基本法は、明らかに再改正をすることが当然と言う、社会全体のコンセンサスを得るに至りました。その決定的きっかけが、一昨年の障害者団体が中心となって日本で開催された三つの国際フォーラム「DPI世界会議」であり、大阪での「RNNアジア太平洋最終年記念フォーラム」であり滋賀大津の「エスキャップ・ハイレベル政府間会合」だったと思います。私は、この国際会議の実行委員長を担当し、国の内外の障害者の意見を伺い、会議の熱論を聞き、さあ、今こそ新世紀の「新障害者基本法」大改正第二弾の思いを強くしました。

この国会で「新障害者基本法」が成立するまでのプロセスには、幾多の苦難もありましたが、「結果よければ、全てよし!」が私の性格ですので、今は、満足感に浸っている次第です。

この「新障害者基本法」の法案内容は、別途記載されていますが、重点に置いたのは「障害者を差別してはならない」を軸として、行政・国民・社会連帯を通じて、障害者が人間として、社会を構成する一員であることを謳い、「これからの障害者福祉は、当事者たる障害者自身が主役となって、問題提起をする」と法文化しました。

障害者問題は、奥深い人間社会の基本テーマでもありますから、テンポの速い時代の流れにあって、5年以内には、さらなる法律の見直しを国会での約束としました。ドッグイヤーと言われる時代感覚ですから、次の改正は、この「新障害者基本法」を一人ひとりの教材としていただき、5年後のさらなる改正への一里塚にしていただきたいと思います。

そこで、全文は皆さんのご努力で評価し、検証していただくとして、大改正のポイントをご紹介したいと思います。

第一として、改正の趣旨は、最近の障害者を取り巻く社会や経済情勢の変化等に対応し、障害者の自立と社会参加の一層の促進を図るため、基本的理念として、障害者に対して差別、その他の権利利益を侵害する行為をしてはならない旨を規定し、都道府県及び市町村に、障害者のための施策に関する基本的な計画の策定を義務付け、中央・地方障害者施策推進協議会を創設するなど、改正を行うものとすること。

つまり、障害者問題の基本は、障害者の声が生かされなければなりません。とかく、協議会は、政策決定機関でありながら、当事者抜きになりがちでした。しかし、今後は、中央であれ地方であれ、当事者をより多く、協議員とすることを、義務付けています。

第二として、何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別すること、その他の権利利益を侵害する行為をしてはならない、と付け加えること。

国連では、今、障害者の権利条約が、審議され大詰めを迎えています。まもなく国連で決議され、各国は批准の手続きに入ります。この障害者権利条約を見据えながら、特に、障害者差別を禁止する方向性を打ち出しました。

第三として、国と国民の責務として、国民は社会連帯の理念に基づき、障害者の人権が尊重され、障害者が差別されることがない社会の実現に努めること。今度の改正に当たって、多くの団体から「障害者差別禁止法」の導入をと声が寄せられました。したがって、繰り返し、人権と差別は、この基本法で述べることにしました。つまり、次へのステップでもあるからです。

第四として、障害者週間を設けて、12月3日から9日までの一週間として、すべての国民は、障害者問題の啓発に努めること。現行基本法は、12月9日だけを障害者の日としていましたが、この際、一週間として、障害者問題をみんなで考えることにしました。もとより、いつの日かこの週間が法文から消えることを願っていますが…。

第五として、障害者基本計画を、国も都道府県も、市区町村も策定しなければならないとすること。これが、大切な法文です。すべての市区町村まで、基本計画を策定するようにしてこそ「向こう三軒両隣り福祉」とつながるからです。

第六として、その障害者基本計画を策定する場合、障害者自身が協議会には、より多くメンバーとして参加しなければならないとすること。まさしく、障害者自身が自らの問題として、地域福祉の推進に参加することを意味しています。

第七として、障害のある子どもと障害のない子どもは、交流教育を積極的に進め、その相互理解を促進しなければならないこと。すべては教育だと思います。障害をもっていようがなかろうが、もっともっと障害児と健常児とが交流・共生教育を推進することが必要と考えます。

第八として、バリアフリー社会やIT時代にふさわしい政策を推進し、年次計画に沿って、実行するよう努めなければならないこと。私たちの社会は、歩ける人、目の見える人を標準としてきました。障害があるがために、いくつものバリアを越えなければなりません。真のノーマライゼーション社会を構築するために、バリフリー社会の実現は、すべての人の願いでなければなりません。

第九として、障害者に関する相談業務や、成年後見制度の活用、難病など治療に困難な障害者施策もきめ細かく推進すること。障害者の定義で、難病の皆さんからの強い要望が寄せられました。定義にすべての障害者を羅列的に組み入れるのは困難でした。そこで、特にピックアップした形で難病の施策をと条文化したのです。

第十として、この法律の施行後、障害者を取り巻く環境は変化しやすいことを考えれば、5年以内には、更なる見直しをすべきであること。そうです。時代は早いテンポで推移してゆきます。権利条約や差別禁止法などの制定への動きもあります。早い時期に次なる大改正の時期を迎えたいと思っています。

と、主だった改正点をご紹介しました。どうぞ、新たな始まりは、次へのプロローグです。皆さんのご健闘を祈念して筆を置きたいと思います。法案成立までのご協力、本当にありがとうございました。

(やしろえいた 衆議院議員)