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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

フォーラム2004

障害者(児)の地域生活支援のあり方に関する検討会の報告

安藤豊喜

2003年5月26日に「障害者(児)の地域生活支援のあり方に関する検討会(以下検討会)」の第1回検討会が始まってから、先の5月31日に開かれた検討会で17回を数え、今後、3回開催し、報告の取りまとめを行いたいとの事務局案が提示されました。これによって、ホームヘルプサービスの国庫補助基準を事実上の上限制定と受けとめ、2003年1月16日に約1000人の重度障害者が厚生労働省前で抗議集会を行ったことがきっかけとなった検討会に終止符が打たれます。「ホームヘルプサービス利用の上限問題」が、検討会の基本的な課題ですから、端的に言えば、国庫補助基準を設ける必要のない財源を確保すればすむことですが、政府の逼迫した財政状況の理解やサービス利用者の地域格差の解消などの論議が必要との認識で、延々と論議が続きました。

その内容は、障害者福祉の理念や先進諸国の事例にまで踏み込んだものでしたが、前回の検討会に出されたものは、「国庫基準の検討にあたってと題し、国庫基準とは予算の範囲内で市町村に補助金を交付するための算定基準であり、予算配分の方法である。利用者の支給決定の基準を定めるものではない」とした「国庫補助基準の容認」を求める提案でした。これは、ゴールどころか、1年前のスタート点に戻ったことを意味します。

私は、聴覚障害者を代表する立場で出席してきましたし、在宅の聴覚障害者の自立支援と言える手話通訳事業や要約筆記関係事業などが支援費制度の対象外であることもあって、ホームヘルプ利用の上限問題が、知的障害者や全身性障害者の皆さんのように直接的に関係する立場にありません。平たく言えば、私たちがめざしている「手話言語と手話通訳制度の法的な位置づけ」と同様の問題として意識できなかったということです。

また、開始当初の検討会では、障害者福祉や社会保障の理念が出ましたが、これは、障害者基本法や社会福祉基礎構造改革、新障害者基本計画・障害者プランなどで論議が尽くされていますし、国庫補助基準などは、この理念に沿った施策実施を政府方針とすればよいのであって、理念の蒸し返しなど時間の浪費と感じていました。私は、検討会で、「論議の行き着くところが見えない検討会」と批判したこともあります。それがなぜかを考えてみますと、「三位一体の改革による国庫補助負担金の削減」の方向があるため、厚生労働省がいかに努力しても、理念を具現するための財源確保は不可能であり、結論を先延ばしにした論議を繰り返さねばならなかったと言えます。

脱施設化による地域生活環境の整備が論点に上がりましたが、この脱施設化は、今の施設に要する費用を削減して地域の生活環境整備に回せばすむというような単純なものでなく、施設運営を相当期間維持しながらグループホームなどの地域社会での環境整備を行わねばならず、莫大な先行投資の予算を必要とするのですが、このような建設的な予算計画案は出てこなく、三位一体の改革、平成16年から3年間で4兆円の国庫補助負担金の削減など、予算に関しては悲観的な材料が出るばかりでした。

一方、障害者の自立を基調とする論議では、支援費制度にはケアマネジメントの制度がないとか、資源が不足しているとか、単価が低いのでサービス業者が敬遠するとかの制度の発展を期待する論議に始終しました。これでは、堂々巡りで展望のもてる方向に向かうはずがありません。また、この検討会の審議を終えないままに、社会保障審議会・障害者部会が開催され、介護保険と支援費の統合の可否を論議することになりました。私は、この障害者部会のメンバーでもありますが、この事態は支援費制度の存続とサービスの拡充を願って検討会に参加してきた障害者団体の代表や障害者の願いに背を向ける行為であると言えます。私は、この事態を憂い、「障害者部会と検討会の関係」を質問しました。その回答は、「障害者部会は基本的な方向を審議するもので、検討会は、具体的な問題を検討するもの」ということでした。ということは、平行して論議が重ねられ、支援費制度が介護保険に統合となるようなことになったとしても、検討会の結論が活かされると理解したのですが、5月31日の検討会では、前述のように、あと3回の審議で終了ということです。

5月31日の検討会で提起された「国庫補助基準の検討」は、平成16年度の支援費関係予算を予算内で処理するためのものであり、介護保険と支援費制度の統合問題が、検討会とは別の土俵で論議され、方向付けられるとすれば、この1年を費やした検討会は何だったのかというのが率直な疑問です。ただ、私個人としては、知的、全身性障害者のように24時間介護を要する重度障害者の生活実態と十分なサポートの必要性を学ばせてもらいましたし、すべての障害者のニーズを大事にした福祉を、すべての障害者の連帯によって実現させていくことの重要性を認識することができました。

(あんどうとよき 財団法人全日本ろうあ連盟理事長)