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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

ユニバーサルデザインの広場

松下電器のユニバーサルデザイン

市原増夫

ユニバーサルデザインは、松下電器のDNA

松下電器産業(株)では、1942年(約60年前)に松下幸之助創業者から「製品には親切味、情味、奥ゆかしさ、ゆとりの多分に含まれるものを製出し、需要者に喜ばれることを根本的の信念とすること」という社主達示が発せられ、それに基づいて商品作りがなされてきました。これを現代風に焼きなおすと「どんな人にもやさしい製品・サービスを通じて幸せな暮らしをしてもらいたい」というユニバーサルデザインにも通じるものです。すなわち、ユニバーサルデザインは、松下電器のDNAといえます。

ユニバーサルデザインの取り組み
 ―フレンドリーから高齢者配慮を経てユニバーサルデザインへ―

このDNAをベースに、ユニバーサルデザイン(以降UDという)が定着するまでの松下電器の取り組み経過(約10年間)をご紹介します。

1990~93年は、フレンドリープロジェクトとして「人にやさしい商品づくり」が全社的なプロジェクトとして推進されました。ここでは操作性を中心とした研究が行われ、一部は標準化され松下グループの社内基準になりました。

1994~98年は、65歳以上の高齢者が日本で14%を超え高齢化から高齢社会に突入した時期です。それに合わせ高齢者に対する取り組みが白モノ商品※を中心に推進され、体力負荷の軽減や、白内障等の研究がなされました。特に「白内障」では、眼科医師、白内障患者と松下電器が連携して研究を行い、擬似体験用のゴーグルとして使われていたオレンジフィルターとは全く異なる、霧視(かすみ)と色覚変化に対応した新しい「白内障ゴーグル」【写真1】を開発しました。今では、これを用いて操作表示文字における見やすさを評価しています。

【写真1】「白内障擬似体験ゴーグル」
写真1

さらにこれらの研究から高齢化配慮ガイドラインが作成され、このガイドラインに沿って商品開発がなされました。その成果の一つが「座シャワー」【写真2】です。この商品は、心臓負担が浴槽入浴に比べ2分の1さらに温熱効果は、浴槽入浴と同等。湯量も普通の入浴に比べ4分の1と少なく「人にやさしく・環境にもやさしい」ということからGマークでUD賞を受賞。今から考えると高齢者配慮の取り組みもUDの一つの切り口であったと思います。

【写真2】「座シャワー」YU-RT21SR
写真2

さらに1999年には、デザイン部門からUDの5つの基本要項が示されました。1.楽な姿勢と動作への配慮2.誰もが認識できる表示と表現3.簡単で理解しやすい使用方法4.安全・安心への心配り5.五感を駆使した新しい造形です。またそれらの考え方を解説したUDガイドブックも発行されました。デザイン部門として、これらをベースにUD視点での取り組みを推進した結果、「コードレスアイロン」「IHクッキングヒーター」「IHジャー炊飯器」「システムバス(ユニリッチ)」【写真3】など白モノ商品を中心にUD商品が発売され、マスコミ等でも話題になりました。

【写真3】IHクッキングヒーター KZ-321G
写真3
【写真3】システムバス「ユニリッチ」
写真3

2003年には、UDを全社的活動にするため社内にUD推進体制が設けられるとともに、UD規程と運用基準が制定され全社に発信されました。

【UD規程:基本の考え方】

当社のユニバーサルデザインは、より多くの人々への心配りを商品・サービスを通じて提供し、共に生き生きと快適にくらせる生活の実現をめざす。

【基本要素】

  1. 理解しやすい操作への心配り
  2. わかりやすい表示と表現への心配り
  3. 楽な姿勢と動作への心配り
  4. 安心・安全への心配り
  5. 使用環境への心配り

これにより、UDの取り組みは全社活動として本格化し、全社各部門で積極的な推進が図られています。全社活動推進の取り組みとして、ななめドラム式洗濯乾燥機の事例を紹介します。

ななめドラム式洗濯乾燥機(NA―V80)の開発【写真4】

【写真4】ななめドラム式洗濯乾燥機
写真4
写真4

ドラム式洗濯機は、もともと欧州が発祥の地ですが、日本においては、「音が大きい」「振動が大きい」等の理由で、日本の住宅にはそぐわないことから普及しませんでした。しかし、90年代半ばから洗濯乾燥機の一体型が市場から要望されるようになり、当初、各メーカは日本の住宅事情に合った縦型洗濯乾燥機を開発しました。

一方で、日本初のドラム式洗濯乾燥機は、1997年に松下から発売されましたが、当時24万円という高価格であったため大きな反響を得るまでには至りませんでした。しかし、洗濯+乾燥機一体型ではドラム式のほうが理にかなっていることもあり、次第にドラム式洗濯乾燥機が一般消費者にも注目されるようになってきました。

このような中、2004年初めに松下も次期商品としてドラム式洗濯乾燥機の再参入を決めました。当初は一般的な欧州スタイルの横型で検討を進めていましたが、従来のドラム洗から脱却できていなかったため、企画をリセットしてゼロから再スタートすることになりました。原点に返り、過去から継続してきた生活研究を通じてお客様の洗濯機に対する要望事項を洗い直し、「洗濯物の取り出しやすさ」「操作のしやすさ」など、UDに特化したドラム式洗濯乾燥機のキーワードを抽出しました。このキーワードをベースに、企画、技術とデザイン部門が一体となって討議をし、生まれたのがドラムを「ななめ30度」にするという発想です。ななめにすると、設計的には非常に技術的ハードルが高くなりますが、傾いたドラムの角を使って洗うことができるので節水効果があり、デザイン的には、洗濯物の投入口が人のほうを向き、洗濯層の中が見やすく出し入れがしやすいという利点があることから、ななめ30度ドラム式洗濯乾燥機の考え方が最終的に採用されました。

デザイン部門では、洗濯機の置かれている現場の実態調査等【写真5】を踏まえ、無駄な造形を廃し、子どもが誤ってぶつかっても安全で、掃除がしやすく、衣類の出し入れが楽で、手にフィットするハンドル形状などを配慮したデザインにしました。

【写真5】洗濯機実態調査
写真5

また、デザインモックアップを利用して、社内のユーザビリティ研究機関である「くらし研究所」を通じて、エンドユーザーに使い勝手を検証【写真6】する中から得られた結果や提案を盛り込みました。たとえば、洗濯機の上に洗剤等が置けるスペースがほしいと言う意見をもとに、上部にトレイを設けたり、ななめに傾いた投入口のドアをスムーズに開けるために、いろいろなハンドルを検証し、負担の少ないプッシュ式を取り入れました。

【写真6】洗濯機検証風景
写真6

一方技術部門では、ななめに傾けたドラムの重心を支えつつ回転させるという課題や、ななめによる振動の処理などに対して、モーターやサスペンションの改良に取り組みました。

このように開発当初から、企画・技術・デザインなど関連部門が一体となった推進ができたため、市場で高い評価(機種別売り上げトップ)を得るUD特化商品を誕生させることができたと考えています。お陰様でGマーク金賞、MONOスーパーグッズオブザイヤー銀賞など数多くの賞を受賞することができました。

また、UDが全社推進プロジェクトになったため、AV機器においてもUD視点を中心にした商品開発がどんどん立ち上がっています。

さらなるユニバーサルデザイン商品に向けて

UD活動はお客様にできる限り近づいた商品提案ができるかどうかにかかっています。そのためには、開発段階からUD視点を持った推進が今後ますます必要になってきます。松下電器は、さらなるUD特化商品の創出に向け、UDの取り組みを加速、強化していきますのでどうぞご期待ください。

(パナソニックデザイン社 いちはらますお)

※ 白モノ商品…冷蔵庫、洗濯機等(一部調理電化製品も含む)の家庭電化製品をいう。