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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

列島縦断ネットワーキング

埼玉 特別支援教育をテーマに公開シンポジウムを開催

山岡修

1 はじめに

全国LD親の会は、NHK厚生文化事業団等との共催で、6月12日にさいたま市民会館おおみやで、第3回全国LD親の会公開シンポジウム「特別支援教育の実現に向けて」を開催した。当日は、教育委員会関係者、教員、保護者などで満員となり、熱心な討議が行われた。主な内容に絞って紹介をする。

2 講演(1)
「特別支援教育の実現に必要なこと」

山岡修(全国LD親の会会長)

従来の特殊教育は、限られた場で、限られた教員が対応していたが、これからの特別支援教育は、すべての学校・教室で、すべての教員が関与することが求められている。

通常の学級での特別支援教育を定着させていくためには、学級王国を打破し、校内委員会等を活用した校内のチームワーク、学校外の専門家等を利用したネットワークの活用等、教員を支える仕組みが必要である。

LD等の子どもたちに対する支援を実現させるためには「特別支援教室」の設置が不可欠であり、国は、法令化、移行スケジュールの明示等を、早急に行うことが求められる。

特別支援教育については、「校内委員会ができたが、全く機能していない」など、現状は悪いところばかり目に付くと思うが、最初から100%は望まないのがコツ。LD等の子どもたちを育てるのと同じで、良い所を誉めてじっくり育てていくことが大切であり、できることから少しずつ関係者が協力して、当事者意識をもって取り組んでいくことが大切と考える。

3 講演(2)
「特別支援教育の施策と今後の展開」

柘植雅義(文部科学省特別支援教育調査官)

15年度に全国の小中学校の11%を超える規模でスターとしたモデル事業は、16年度は対象の学校数が20%を超える規模となっており、モデル校における試行の段階から、すべての学校における支援体制の構築へという段階になってきている。

本年1月にガイドライン(試案)を発行し、全国の国公私立の小中学校等に配布した。ぜひ読んで、活用していただき、意見を出してほしい。

小中学校の校長とPTA会長のペアを対象とした研修(さいたま市)。すべての小中学校の全職員への研修(長崎市)。冊子発行も、理解啓発の段階から、指導の進め方に踏み込んだもの発行する自治体が増えている。

より質の高い特別支援教育をより早く実現するために、保護者・親の会は積極的に参画することに加え、サービスを受ける立場で要望すべきことはきちんと要望していてくことが今後とも必要である。

4 講演(3)
「特別支援教育をめぐる最近の動向と展望」

上野 一彦(東京学芸大学教授で、日本LD学会会長)

特別支援教育への転換は、障害の種類と程度に応じる教育から、個の教育ニーズに的確に対応する教育への転換である。個別の教育支援計画等によって、既製服から注文服へとユーザーの視点に立った教育に転換することを意味している。

LDの子どもたちを通常の学級の周囲の子どもたちがどう理解するかが一つのバロメーターであり、それが社会的な認知レベルを示すものになるであろう。

5 シンポジウム
「通常学級の中の特別支援教育」

―シンポジストの提言

全国LD親の会理事の沼田夏子氏は、LD等軽度発達障害の子どもたちは、学校でうまくいかないことがあると、いろいろな行動の中で「心のSOS」を示すことがあり、このサインを捕らえて対応してほしい。通常学級の中の特別支援教育を定着させていくためには、LD等の子どもに対する、一般の保護者や地域社会全体の理解啓発が必要と提言した。

新宿区立柏木小学校教諭の井上薫氏は、子どもたちに問題が出る時、出ない時について、いつ、どこで、だれが、どのようにした時なのか等を分析すること、すなわち表面的な現象だけでなく潜在するリソースを子どもと共有することが大切。また、学校職員、保護者、友達、本人がチーム意識を持って取り組むことが大切と提言した。

国立特殊教育総合研究所の廣瀬由美子氏は、LDモデル事業終了後のモデル校の状況調査結果の分析を踏まえ、通常の学級の中での特別支援教育を定着させるためには、教員への支援を含め学校全体で取り組む階層的な支援体制の構築が必要と提言した。

所沢市教育委員会健やか輝き支援室の阿部利彦氏は、子どもたちを支援する時に、「しっかり、頑張れ」一辺倒から脱却し、子どものいいところを探し、いいところを気付き、いいところを増やす、子どもを応援する「いいところ応援計画」という視点が大切。特別支援教育は、大人にとって都合の良い子どもに変えるのではなく、その子どもの持ち味を大切にしつつ、学校生活をより豊かにするための支援という視点を大切にしたいと語った。

6 シンポジウムの討論

4人のシンポジストの提言を受け、上野氏、柘植氏にも加わっていただき討論を行った。

まず、保護者の果たすべき役割について、個別の指導計画に基づく取り組みについてこまめに聞く、家庭で取り組むべき課題について相談する等担任教諭とのコミュニケーションが大切(井上)、保護者は子どものよきモデルとして、手本を示してほしい(阿部)、連絡帳を利用する等による情報の共有化が有効(廣瀬)。これを受けて、保護者にとって一番の相談相手は担任であり、担任は保護者の支えになってほしい(沼田)等の意見が示された。

会場からの質問で、「保護者が特別な支援を拒絶する場合はどうしたらよいか。」に対しては、「特別」と意識しないで、具体的な支援方法を示していくことがよい(井上)、子どもを変える前に環境を変える。考える授業から体験の授業、視覚的に訴える授業、子どもの目が輝くような指導をすれば、子どもも変わり、保護者の理解も得やすい(阿部)。

最後に特別支援教育の実現に向けて、みんなで相談して小さな目標を立てて具体的に支援していこう(井上)。ささやかでいいから息の長い支援をしていきたい(阿部)。現場の先生をネットワーク等を使って支援していくことが大切(廣瀬)。保護者、行政、地域社会が協力して特別支援教育を推進していきたい(沼田)との意見が出された。

柘植雅義氏から、保護者も期待して待っているだけでなく、具体的に行動していくことが必要。上野一彦氏から、「特別支援教育への転換が進んできたのは、親の会が障害の枠を越えて協力して取り組んできたことが大きかったと思う。特別支援教育はすべての子どもたちに必要な支援ということ訴えていきたい」というお話しがあった。

7 おわりに

今回のシンポジウムを通じ、多くの提言、好事例、ヒントが示されたが、共通していることは、国・自治体をはじめ、教員、専門家、保護者が連携・協力して、創意・工夫しながら、少しずつ力を合わせて取り組んでいくことが大切だということである。

障害があってもなくても、障害が重くても軽くても、すべての子どもたちが生き生きと充実した学校生活、自立した社会生活が送れるようになることが、私たち保護者の願いであり、特別支援教育のめざすべき姿である。

このシンポジウムでの提言を生かし、特別支援教育の早期実現に向けて取り組んでいきたい。

(やまおかしゅう 全国LD親の会会長)