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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年8月号

会議

第27回総合リハビリテーション研究大会の開催

熊谷昌司

7月2日(金)・3日(土)の2日間、パシフィコ横浜・アネックスホールにて第27回総合リハビリテーション研究大会が開催されました。今回の研究大会メインテーマは「障害者の地域生活支援とリハビリテーション」でした。現在、ホットな話題となっている「介護保険制度への障害者ケアの統合」についての情報交換と支援費制度におけるサービスの選択権を保障する立場から「重複障害者のリハビリテーション」について、技術的な課題を中心に活発な話し合いが行われました。

1日目(7月2日)の特別講演では、厚生労働省老健局長中村秀一氏が「介護保険制度改革の動向」と題して、介護保険の実施状況の分析から介護保険制度の見直しの課題と今後の介護サービスの方向性を「2015年の高齢者介護」(2003年6月26日)、「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」(2004年1月29日)から詳細に語られました。 

その後、「介護保険制度改革と障害者施策」をテーマとした鼎談が行われ、板山賢治氏(社会福祉法人浴風会)上田敏氏(日本社会事業大学)藤井克徳氏(日本障害者協議会)より、介護保険制度への障害者ケアの統合について意見が交わされました。板山氏からは、障害者の自立生活力と社会生活力を開発・向上させるリハビリテーションを介護保険の中に位置付けることの重要性が強調されました。上田氏からは、ICFモデルに沿って、要介護の高齢者ニーズと障害者ニーズを検討してみると、ともに生活機能低下を有するという意味においてそのニーズに差はなく、障害者運動の思想の先駆性を高齢者支援に生かすことが求められていることが述べられました。また、介護保険制度を改革して「全国民のための介護保険サービス」とするためには、支援費の独占部分を保障していくことが必要であり、支援費制度の統合にあたっては、拡大された新しい介護保険制度に一本化する必要性があることが強調されました。藤井氏からは、当事者の立場では支援費制度と介護保険制度の統合に賛成できる材料はないこと、統合はあくまで政策の手段であり、障害者施策全体像を明確にして、その中に介護保険制度を位置付けるべきであることが語られました。 

午後は、「障害者ケアの介護保険制度への統合~技術的課題と対策~」をテーマに、「介護保険制度は若年障害者の地域生活をどう変えるか」「介護保険制度は知的障害者の地域生活を支える手段となるか」「精神障害者の自立支援への関わり」「重症心身障害者に必要な支援技術と介護保険」の4つの分科会が行われました。 

「介護保険制度は若年障害者の地域生活をどう変えるか」の分科会では、岡ノ谷雅之氏(横浜市福祉局障害福祉課)より横浜市の「介護保険と障害者施策統合の方向性についての意見」として「障害者施策は、『介護』という視点に加えて、ガイドヘルプ(移動介護)や就労援助など『社会参加』をも含んでおり、高齢者施策と障害者施策では『福祉サービスによる支援すべき生活』に対するとらえ方が相違している」などの理由から「統合した場合、新たに被保険者となる若年者にとって、また障害者や高齢者にとって、納得の得られる仕組みとなるよう十分慎重に検討する必要がある」との考え方が報告されました。現場でケアマネジメントを行っている片野一之氏(うしおだ介護支援センター)は「介護保険の現状は、加齢に伴う障害の部分しか対応しておらず、その部分にすら対応しきれていない。障害者を受け入れるためには、介護保険が変わる必要があること」を強調されました。また当事者からは、統合には反対であるとの意見表明もなされました。これらの提言を受け、コーディネーターの谷口明広氏(愛知淑徳大学)より「介護保険は、若年者からの費用徴収のために障害者支援施策との統合を必要としている。それならば、統合の条件として障害者の側がさまざまな障害者施策の要求を出し、介護保険制度を変えていくことが必要である」との提起がなされました。 

2日目(7月3日)は「重複障害者の地域生活支援をめぐる課題と対応」をテーマに4つの分科会が行われました。

「軽度発達障害児者の社会参加―2次障害として生じる精神疾患や社会病理との関連から―」をテーマにした分科会では、思春期・青年期の引きこもりは、『性格』の問題ではなく、半数近い人に軽度発達障害があり、2次的なストレスが加わって起こっているケースが多いことが報告されました。周囲の人々がこれに気づかず、障害を前提とした対応をしていないことで、より事態が深刻になっているケースが多いため、予防的観点からいかに継続的なケアを施すかが議論になりました。 

「高次脳機能障害を合併した人のリハビリテーション」では、横浜市の障害者地域活動センターなど高次脳機能障害者を受け入れているスタッフから医療に対してより具体的な高次脳機能障害の診断をしてほしいという要望が強いこと、また対応に困ったときスポット的に医師が出張し関わり診断する連携体制の必要性が述べられ、その支援のコーディネートを総合リハセンターや更生相談所が担う可能性についても議論が交わされました。 

その他の分科会では「重複障害者の就労―自閉症と知的障害、高次脳機能障害と肢体不自由の重複を中心に―」「常時医療的ケアを要する人たちの地域生活支援」をテーマに検討がなされました。 

その後にシンポジウムが行われ、各分科会における討論を通して、現状で専門機関や施設が重複障害に対してどのような専門性を持ち得ているのか、また、そうした専門性が地域生活を支援するために果たして有効性があるのかなど、各コーディネーターから報告がありました。さらに重複障害者の地域生活を支援するための課題について討論が深められ、これらを受けて、コーディネーターの伊藤利之氏(横浜市総合リハビリテーションセンター)から「軽度発達障害や高次脳機能障害は集団に入らないとその障害像がわからないという特徴があり、その解決のためには、医療と教育の協力体制をつくることが急務である。特に教育現場に入り込んでいける医療スタッフの育成と重複障害者に対する専門医療の確立・共同活用のシステムづくりが必要である。また、重複障害者の支援は、長期の経過観察とサービス拠点の整備、地域活動ホームやグループホームなど地域生活のコーディネート機関とそれをバックアップするシステムの構築が求められる」と提起されました。

(くまがいまさし 横浜市総合リハビリテーションセンター身体障害者更生施設生活支援員)