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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年11月号

提言

精神保健福祉法改正への意見
~個人生活の確立と地域生活支援の大展開~

全国精神障害者地域生活支援協議会(あみ)

■抜本的改革の必要性あり

『精神保健ならびに精神障害者の福祉に関する法律(精神保健福祉法)』の5年ごとの定時改正を翌年に控えています。そもそも現行の『精神保健福祉法』は、福祉的条項が全体の12パーセント(全五十七条中七条)に過ぎず、福祉を標榜するに値しないほど、その要素は希薄です。本来ならば、医療に関するものは医療法、福祉は他の障害者福祉との整合を図りながら単独の福祉法か他の福祉ジャンルとの融合による『(仮称)総合福祉法』の制定へと進みたいものです。そして残る要素の社会防衛に関する規定は、しかるべき置き場が存在するでしょう。このように“名が体を成していない状況”や同居が怪しい構成要素の抱き合わせの問題も含め、現行法は解体、再構築という抜本的見直しが実は大きな課題として存在しています。

以下、改正への意見として、主要ないくつかの事柄を提起します。

■共同作業所の正当な評価と位置づけを!

共同作業所が「小規模通所授産施設」に移行することによって法人組織化し、社会的存在の基盤確保が一定はかられて来ています。しかし一方、移行事業所の認定数の少なさや補助額の削減により事業展開への不安が増幅しています。さらに昨年度からは「民間給与改善費」の算定根拠から共同作業所での経験を削除する動きなどもあり、事業評価への疑問や不満も噴出しています。

精神障害者共同作業所は、利用者の日中の活動保障や生活拠点づくりはもとより、地域福祉の増進を図ってきました。「小規模・多機能・可変性」というキーワードのもと、地域ニーズや状況に直対応する柔軟な姿勢を示しながら、規格にはまらないダイナミズムを体現しています。まさに“地域の玉手箱”であり、わが国固有の福祉文化というべきものです。こうした実情をあるがままに法定化することも評価のひとつの機軸としつつ、法人組織化への移行ならびに認定作業が強力に促進されるよう切望するものです。

■いつまで親を頼りにするのか~保護者規定に決別を!~

保護者規定は前回改正で少々の見直しがかけられましたが大きな疑問は残存しています。精神障害者家族の実態、特に親の高齢化に伴う対処・対応力の低下は明白です。また精神障害者は、一生家族の保護を必要とする人というイメージの固着化も大きな懸念材料となり、社会的偏見を温存する素因でもあります。保護者規定は、権利擁護制度の拡充との連動を最大限はかりながら撤廃の方向に向かうことこそ、当事者・家族の生活実態や時代状況を踏まえた対応と言えるのです。

■支援施策推進の要は市町村

「居宅生活支援事業」の所掌を筆頭に、精神障害者支援について市町村の役割が強化されてきています。しかし専門の職員配置が極めて不十分であり、対応に不備不足の感を禁じ得ません。地域生活支援の行政のフロントラインは市町村にあり、都道府県ならびに精神保健福祉センターと同様「精神保健福祉相談員」を配置し、現行の施設サービス・在宅支援の利用調整に、さらに官民の共同支援なども織り込みつつ、総合的な対応力を確保していく必要があります。

■地域に受容力と支援力の形成を!

『新障害者プラン』を達成していくには、地域の受容力と支援力の形成が欠かせません。それを具体化するには、社会復帰施設等の数の増大とともにマンパワーの増強を織り込んだ要綱の見直しによる、事業運営ならびに実践力の拡充とともに、在宅支援サービスである「居宅生活支援事業」の大展開に他なりません。いくつかのことがらとして…。

■社会復帰施設の“自立促進”?

宿泊を伴う生活関連施設は、手薄い職員配置により24時間の体制づくりに頭を痛めています。また「生活支援センター」は地域事情を踏まえた「来所・訪問」を実施し、幅広い支援を展開しています。いずれも職員のやりくりの苦労が忍ばれます。利用する人たちの自立助長を掲げながら、施設自体の自立度は低いという、実にチグハグな構造です。また、他障害との格差が開く原因ともなっている第二種社会福祉事業から、第一種社会福祉事業への変更を求めます。

さらに「脱施設化」を強調した施策の推移のなかで、社会福祉法人などが営むいわゆる“地域開放型・福祉独立型”の設置促進を強く求めます。そしてこの間の国による施設整備費の不採択は憤怒に堪えません。施設整備の強力な進展を強く求めます。

■実態や志向性を踏まえた居宅生活支援の推進

社会的入院の解消に向けた地域生活支援策には「居宅生活支援事業」の豊かで強力な展開が必要です。「ホームヘルプ」に関しては、現行の規格にはないものの有力な訪問支援の実施であり、「ショートステイ」は介助者のレスパイトケアに限るという現行の実施要件を見直し、単身生活者の急増やそれを志向する人たちも増している現状を見据え、暮らしの安心を確保し個人生活の維持に資する場面保障とすること。「グループホーム」に関しては、増設は当然のこととして、ここでは前述した24時間の対応体制を必要とする生活援助事業という実態を考慮し、職員の複数配置の実現をはじめ、入居者の生活圏域を念頭においた「居住地主義」の見直し、グループホームの孤立化を防ぐために運営をバックアップする仕組みの起用などを挙げたいと思います。

以上、地域生活や支援活動の安定性や継続性に主眼を置いた施策および制度の見直しや柔軟な運用を強く求める次第です。

(伊澤雄一(いざわゆういち) 全国精神障害者地域生活支援協議会(あみ)副代表)