「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号
障害の定義と障害認定
寺島彰
1 障害の定義
総務省のホームページで法令検索してみると、「障害者」という単語を含む法律は、500以上あった。障害者関係福祉法や年金各法における障害年金等の障害者を直接対象とした制度は当然として、それ以外にもさまざまな制度が障害者に対する施策を実施している。たとえば、税金の減免、公営住宅の優先入居、通信等でも障害の範囲を定めてサービスを提供している。また、地方自治体の条例においても多くの障害者施策が規定されている。さらに、鉄道、バス、タクシー等民間企業のサービスまで含めればさらに多くの障害者施策が存在すると考えられる。実際、東京都の自治体の福祉の手引きによれば、約100種類の障害者サービスがあげられている。このように障害者にかかわる制度は予想以上に多い。
これら障害者にかかわる制度は、それぞれ障害者の定義をもっている。わが国では、身体障害者福祉法の定義があまりに有名であるので、その定義を想像してしまうが、障害者に関係した制度は、それぞれ障害者の定義をもっており、共通してはいない。たとえば、身体障害者福祉法による身体障害者と年金各法による身体障害者の定義は異なっている。また、年金各法間でも違いがある。制度には目的があり、その目的に照らして障害者を定義しているからである。
2 障害認定の意味
障害を定義するということは、政策や制度の対象となる障害者の範囲を決めることである。なぜ、このようなことを行う必要があるのか。その理由の第一は、ある施策を実施しようとする場合、その対象者がだれなのかを確定しないと具体的なサービス内容を決定できないし、予算も立てられないということがある。これは、障害者福祉、障害者手当、バリアフリー対策などあらゆる障害者関連制度に共通する。しかし、障害の定義があっても、障害認定がなされないときもある。たとえば、1975年の国連「障害者の権利宣言」においては、障害者とは「先天的か否かにかかわらず、身体的又は精神的能力の不全のために、通常の個人又は社会生活に必要なことを確保することが、自分自身では完全に、又は部分的にできない人のことを意味する」と定義しているが、国連が障害認定をしているわけではない。
障害認定が必要なのは、何らかの理由で政策や制度の対象者を限定する必要がある場合である。その一つの例としては、ある政策や制度の予算に限りがある場合、あまり多くの人にばら撒いたのでは効果がなくなることから、予算を使う人を限定したいということがあるだろう。たとえば、障害者手当のための予算が10億円あるとして、それを1億人に分けたのでは一人あたり10円であるから、それをもらってもだれも助からないとするとその予算は有効に使われないことになる。しかし、それを1000人の人に分ければ、一人あたり100万円になるので、日々の生活に困っている人は、一息つけるだろうし、障害のための出費あてることで自立が促進されるかもしれない。そこで、その1000人を選択するために障害認定が必要になる。その選択方法には、いろいろあって、障害の重い人々から1000人を選ぶという選択もあるだろう。あるいは、所得の低いほうから選択するということも考えられる。ともかくも、制度の目的に照らして障害認定基準を作成し、その対象者を決定することになる。
3 障害認定の方法の整理
(1)認定制度をもつものともたないもの
表は、わが国の制度で障害を規定している法律を障害認定制度をもつものともたないものに分けて制度を整理したものである。この表からわかるように、認定制度をもつものは、個人を特定してサービスを提供しようとするものである。基本法など理念を規定したものやバリアフリー関係法など個人を特定しないものについては、認定制度をもたない。
(2)独自の認定基準をもつものと他の制度を活用するもの
また、認定制度をもっていても、独自に認定基準をもつものと、他の制度の認定基準を活用するものとがある。
1 独自に認定基準をもつもの
身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、年金各法、学校教育法など、独自に認定基準をもつものも多い。この場合は、何らかの認定制度をもっている。
2 他の制度の認定基準を活用するもの
この場合には、さらに二種類ある。
(1)他の制度の認定基準をそのまま活用しているもの
たとえば、雇用保険法では、「就職が困難なもの」として「障害者の雇用の促進等に関する法律二条第二号に規定する身体障害者」と「第二条第四号に規定する知的障害者」を規定している。
(2)他の複数の制度を指定してその認定基準にしているもの
生活保護法の障害者加算の対象者は、身体障害者福祉法、国民年金法、特別児童扶養手当等の支給に関する法律の認定基準を活用してどれかに該当すれば、認定されるという方法をとっている。同様の方法は、所得税法など多くの制度で行っている。
これらの場合の認定方法は、障害者手帳など他の制度の証明書を活用して認定することになり、独自の認定機関はもたない。
3 他の制度と同じ認定基準としているもの
他の制度の認定基準を活用するわけではなく、独自の基準として他の制度の認定基準と同じものを規定しているものもある。たとえば、地方税法は、所得税法と同じ認定基準をもっている。全体の傾向としては、年金・手当関係、災害補償関係、雇用関係など、領域ごとによく似た認定基準としている。この場合は、原則として、独自に認定を行う。
4 制度別対象者数
米国の「障害をもつアメリカ人法(ADA)」では、4300万人(人口の約17%)が障害者であるとしている。ADAは、差別禁止法で、職業差別や建築物や情報アクセスにおける差別を禁止しており、バリアフリーなどの制度ではこの程度の割合の障害者が対象になるようである。
また、WHOは、人口の10%が障害者であるとしており、障害者統計のない国々では、この数字を障害者数としている。障害者を通常の個人または社会生活を自分自身で完全または部分的にできない人としてとらえ、国際機関がこのような人々に対する政策の開発を求める障害者数としては、この程度になると考えられる。
また、わが国の障害者関係福祉法の対象者は、人口の約5%である。わが国の障害者関係福祉法は、基本的には、リハビリテーション法であり、保護対象者をも含む。このような対象者の数は、この程度であると思われる。
また、米国の社会保険障害年金(Social Security Disability Benefit:SSDI)やわが国の障害年金受給者は、1%から1.5%である。障害年金の対象者はこの程度であると考えられる。障害者手当のような対象者はさらに少なくなると考えられる。
まとめると対象障害者数は、下のような関係にあると思われる。
バリアフリー > 一般 > リハビリテーション > 年金 > 特別な障害者手当
5 障害関係福祉法の障害認定
具体例として、わが国の障害関係福祉法の障害認定と認定制度について整理してみると次のようになる。
(1)身体障害者福祉法
同法における「身体障害者」は、「別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう。(第四条)」とされており、身体障害者手帳所持が同法に基づくサービスを受給の要件となっている。同法別表には、視覚障害、聴覚または平衡機能障害、音声・言語・そしゃく機能障害、肢体不自由、心臓機能障害、じん臓機能障害、呼吸器機能障害について障害の範囲を規定し、それ以外の障害については、「その他政令で定める障害で永続し、かつ日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの」として、政令でぼうこう・直腸および小腸機能障害を定めている。障害程度等級については、「身体障害者福祉法施行規則」により6級が定められており、詳しい認定基準については厚生省(現 厚生労働省)社会局長通知「身体障害者障害程度等級表について」(昭和59年9月28日)によって解説している。
障害認定は、身体障害者福祉法第十五条に定められた医師(十五条指定医)の作成した診断書と意見書を添えて市町村を経由して都道府県(政令指定都市、中核市を含む、以下同じ)知事に身体障害者手帳を申請することで行われる。身体障害の程度が変わったりした場合は、再認定が行われるが、定期的な再認定制度はない。
(2)知的障害者福祉法
知的障害者福祉法(昭和35年)には、知的障害の定義はされていない。そのために、各都道府県で定義が異なっている。一般的に用いられているのは、平成7年度に実施された知的障害児(者)基礎調査の定義で、「知的機能の障害が発達期(概(おおむ)ね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にある者」というものである。その判定基準では、次の(a)および(b)のいずれにも該当する場合に知的障害者とされる。
(a)「知的機能」について
標準化された知能検査(ウェクスラーによるもの、ビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの。
(b)「日常生活能力」について
日常生活能力(自立機能、運動機能、意志交換、探索操作、移動、生活文化、職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準のa、b、c、d(詳細な基準は略)のいずれかに該当するもの。
障害の程度についても都道府県単位で異なる。多くの都道府県では、国のガイドラインに従って、「重度(A)」と「その他(B)」と区分しているが、「最重度」「重度」「中度」「軽度」という区分が行われている都道府県や重度、中度、軽度の3区分になっている場合もある。
障害認定は、福祉事務所(福祉事務所を設置していない場合は町村)を経由して都道府県知事に療育手帳(名称も各都道府県で変わることがある、以下同じ)を申請し、知的障害者更生相談所(児童は児童相談所)での判定を受けることで障害認定が行われる。また、定期的に再認定が行われる(通常2年間隔)。
法律上、療育手帳は知的障害者福祉法のサービスを受けるための必要条件ではないが、福祉事務所などでは取得するための方向付けがなされているので、実質的には知的障害者は療育手帳を所持していると考えられる。
(3)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年)第五条で、「精神障害者」とは、「精神分裂病、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。」としている。精神障害の状態については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和26年)第六条に、次の等級が定められている。
- 一級
- ・日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
- 二級
- ・日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
- 三級
- ・日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの
具体的な判定基準は、「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(平成7年9月12日厚生省(現 厚生労働省)保健医療局長通知)」により示されており、(1)精神疾患の存在の確認、(2)精神疾患(機能障害)の状態の確認、(3)能力障害の状態の確認、(4)精神障害の程度の総合判定という順を追って判定を行うこととされている。
障害認定は、診断書(障害年金証書等の写しで代えることもできる)を添えて、市町村を経由して都道府県知事に精神障害者保健福祉手帳を申請することで行われる。この診断書を作成する医師は、精神科医でなければならない都道府県とそれ以外の医師でもよいところがある。また、定期的に再認定が行われる(2年間隔)。
精神障害者保健福祉手帳は、精神保健福祉サービスを受けるための必要条件ではない。制度がまだ未成熟なこともあり、同手帳を所持している精神障害者は、平成16年3月末で312,794人(ぜんかれん調べ)にすぎない。
まとめ
障害者にかかわる制度は、予想以上に多い。これらの制度は、それぞれの制度の目的を達成するためにそれぞれの障害の定義をもっている。そして、年金や手当制度など個人を特定してサービスを提供するものは、認定制度をもっている。分野ごとに障害の定義は似通っているものの、それぞれが認定を行っている。しかし、障害を受けたことの意味はそれほど違うのかについては議論のあるところである。また、各制度ごとに障害認定することの非効率性も検討する必要があるのではないかと思われる。さらに、地方分権化によって都道府県ごとに認定基準が異なることも予想されるが、今後の動向についても注目される。
(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部)
表 障害者を規定している主な制度の分類
分野 | 障害認定制度をもつもの | 障害認定制度をもたないもの |
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障害者福祉 |
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社会福祉 |
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年金・手当 |
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雇用・労働 |
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労働災害 |
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戦傷 |
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税制 |
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交通 |
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建築 |
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通信 |
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児童・教育 |
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国家賠償 |
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権利関係 |
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災害関係 |
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資格関係 |
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刑法関係 |
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その他 |
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