音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

当事者からの意見

盲ろう者の立場から
「足し算」ではなく、「掛け算」の障害

福島智・前田晃秀

2003年度から始まる新「障害者基本計画」において、盲ろう重複障害への対応のあり方の検討が盛り込まれたのは、画期的なことである。ただし、今なお取り組みは十分とは言えない。

たとえば、身体障害者福祉法等の関連法において、盲ろう者に関して、その固有の福祉施策の規定が明確になされていないからだ。それは従来、「盲ろう」が、「盲」と「ろう」の障害の単純な合算として捉えられてきた証なのではないか。

仮に目と耳で外界の情報を得ることをテレビの視聴にたとえるなら、「盲」とは、テレビ画面を消して、音だけを頼りに「見て」いる状態であり、「ろう」とは、「音」を消して、画面だけを見ている状態だと言える。これらの状態も、もちろん不便ではあるけれど、相当程度の情報は伝わる。

ところが、「盲ろう」はテレビのスイッチが切れてしまうわけなので、全く外界の情報が得られない状態になる。盲ろうという重複障害は、単なる「足し算」ではなく、言わば、「掛け算」なのだ。

ただ、これは問題の明確化のための比喩であり、現実の盲ろう者の抱える障害程度は多様だ。大別しても、全盲ろう、盲難聴、弱視ろう、弱視難聴、の4タイプが想定され、単純な基準には設定困難である。

実際、全国盲ろう者協会では、「身体障害者手帳に視覚と聴覚の両方の障害が記載されている人」をすべて「盲ろう者」とし、さらに「(同)手帳の視覚・聴覚の障害が併せて1~2級の盲ろう者」を重度盲ろう者として、通訳者派遣サービス等の給付基準としている。これらの基準には一定の合理性はあるものの、課題も多い。なぜなら、そもそもこの協会基準の基礎となる現行の障害認定基準自体に、さまざまな問題があるからだ。

たとえば、軽度難聴や片耳のみの失聴で、法令上は障害として認定されない聴覚「障害」をもつ全盲の人は、聴力で周囲の環境情報を正確につかめず、安全な単独歩行が困難な場合もある。また、夜盲の症状のあるろう者は、夜間の移動や暗い室内でのコミュニケーションが難しい。

このように考えると、医学的なデータによる機械的な認定ではなく、本人の生活機能やニーズに即した柔軟な認定基準が望まれる。障害者を「測定し、振り分ける対象」としてのみ捉えるのではなく、他者と対話し、まちに出かけ、個性的な人生を送る「掛け替えのない生活主体」として捉える。こうした障害者福祉の原点に立ち返りたい。

(ふくしまさとし・まえだあきひで 東京大学先端科学技術研究センター)