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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

当事者からの意見

聴覚障害の立場から
中途失聴・難聴者の障害認定について

高岡正

聴覚障害は、「聞こえない」障害である。しかし、聞こえないということがなかなか理解されにくいために、当事者がコミュニケーションに往生したり、誤解されて忸怩(じくじ)たる思いをせざるを得ない事態がしょっちゅう起こっている。その理由の一つに、「見て分からない」、「心身状態や環境に影響される」障害であること、そのために「千差万別である」、「他人に体験されにくい」こと、また「社会や相手の理解によっても左右される」、「相手や環境とのコミュニケーション」の障害である。しかも、この障害は、補聴器や補聴援助機器を利用しても全く聞こえないのはもちろん、大部分の難聴者は聞こえが大きくは改善されないのである。視覚障害者が白杖を持ったとしても本質的な障害には変わりがないのと似ている。

障害を「認定」するのは、その支援のためであるが、現在の身体障害者福祉法の聴覚障害の認定は、音の物理的なエネルギーがどのくらい感知できるかが基準になっている。その単位がデシベル(dB)である。デシベルだけでは、コミュニケーションの障害は測れない。客観性を得るためというが「聞く」という機能の一部であり、高齢者に多い感音性難聴は補聴器をしても音が大きくなるばかりで、何を言っているか分からないのである。

このことから、身体障害者福祉法の聴覚障害者日常生活用具給付事業の聴覚障害者情報受信装置など聴覚障害者用機器の対象者は障害者手帳の等級によらず、必要なものとなっている。障害者基本法、障害者基本計画、字幕放送などに関わる法律でも、聴覚障害者は身体障害者福祉法に限定していない。2000年の著作権法の改正でもリアルタイム字幕配信も現行の放送の享受ができない人を対象としている。

身体障害者福祉法の基準による聴覚障害者は35万人という統計が出ているが、日常生活に支障を来すのは40dBくらいからと言われているので、高齢者人口が2400万人以上であることから実際には1千万人を越えるかもしれない。

障害認定の問題は、身体障害者福祉法では、41dBから支援を提唱しているWHOの聴覚障害の分類の採用を検討してほしい。(http://www.who.int/pbd/deafness/hearing_impairment_grades/en/

さらに、dBだけではコミュニケーション障害が測れないので、機器の給付やコミュニケーション支援を一律的に行うのではなく、ニーズに応じて必要な支援が得られるようにすべきである。現状では中軽度の難聴者に必要な補聴援助システムや警報機の給付が受けられず、手話通訳と要約筆記の同時派遣が認められていない。また障害当事者の収入に応じた自己負担ならともかく、同居者の収入を算定するのでは気兼ねして申請できない。

補聴器を使っている人も全くのろう者も地下鉄では放送も聞こえないし、会話もできない。本質的には、どんな聴力であってもどこでも情報の保障、コミュニケーションが図れるように社会環境、制度の整備に努力しなければ意味がない。

(たかおかただし 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長)