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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

当事者からの意見

知的障害の立場から
「知的障害」と認定されるまでの問題点

北沢清司

療育手帳制度は、1973年の旧厚生省(現 厚生労働省)事務次官通知により設けられたが、身体障害者手帳(身体障害者福祉法第十五条)や精神保健福祉手帳(精神保健福祉法第四十五条)と異なり、知的障害者福祉法に位置付いていない。また福祉サービスを利用するにあたって、手帳所持を必須とされていない。それ故に手帳の取得は、家族に強く意識されないできた。

ダウン症や代謝異常による知的障害の場合を除くと、多くはかかりつけの小児科医、あるいは乳幼児健康審査において保健師あるいは医師からの「遅れていますかね」が、始まりといえる。もちろん家族内での気づきから出発する場合もあるが。知的障害に関わっての直接な医療行為はないので、障害幼児療育機関、障害児学級、養護学校入学に際しても、診断書を求められるという場面はほとんど僅少である。それ故、学齢段階での障害認定、強いては療育手帳の取得が進まない背景があった。結果として、療育手帳の交付というのが、障害認定の公式的場面といえる。

しかし、1985年に障害基礎年金制度が創設され、また1987年身体障害者雇用促進法が改正されて障害者雇用促進法が成立したのに伴い、知的障害者も雇用率の適用対象となった。加えて、1991年関係諸団体の運動によりJR運賃等の割引制度が適用されることになり、1980年代中頃より療育手帳の取得が促進される傾向へと変化し、家族にとっても手帳が身近なものとなった。

さて、手帳の交付手順であるが、福祉事務所のワーカーによる家族からの状況聴取による資料、児童相談所・知的障害者更生相談所の心理判定員による知能検査、それらの資料による両相談所の医師による診察を経て、障害程度を付して交付されることになる。しかし、家族から見ると、その診察で障害認定ができているのかどうか疑問である。また、都道府県によって異なる障害程度区分の違いやサービスの内容なども含めて、判定基準も全国の両相談所によるすり合わせの努力もなされてきているが、統一されているとは言いがたい。

この障害認定にあたって、家族という言葉が目立ち、障害当事者が表面に出てこない(手帳のカード化の要求は強くあるが)問題もある。知的障害者福祉法に「知的障害」の定義がないこと(精神保健福祉法第五条に位置付いている、ということは精神医学の定義に従うと解釈されるが)も含めて、知的障害の場合は、手帳取得のプロセスでも表れている医療との関係が結果として希薄であること、生活モデルで障害認定に結びついている可能性が高いという曖昧なレベルにあるといえる。

(きたざわきよし 高崎健康福祉大学教授)