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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

ほんの森

久野研二・中西由起子著
リハビリテーション国際協力入門

評者 高嶺豊

障害分野の国際協力に関する入門書がようやく出現した。アジア太平洋地域の障害問題に関わってきた私にとっては待望の書だ。それも久野・中西のコンビであるからなおさらうれしい。この地域の途上国の障害者問題が、障害分野のみからではもはや解決できないことが明白で、開発という枠を通して捉える必要がある。それで、2003年からの新たな「アジア太平洋障害者の十年」の取り組みの枠組みに、国連ミレニアム開発目標が組み込まれた経緯がある。

この書は入門書として最適であろう。特に、第1章の「ある青年海外協力隊員の2年間」は、あるリハビリテーションの専門家が開発のアプローチに目覚めていく過程を具体的に描いていて、すぐに内容に引き込まれていく。圧巻なのは、第3章のさまざまな障害のモデルと障害を読み解く枠組みとしての開発のアプローチの紹介である。多様な障害の見方があることに驚かされる。また、アマティア・センのケイパビリティアプローチを始めさまざまな開発分野でのアプローチから障害を読み取る試みが分かりやすく説明してあって、この分野に興味のある読者にとってさまざまなヒントを与えてくれると思われる。

私はこの書を障害と開発への入門と捉えているので、副題にでも「障害と開発」などと入れてほしかった。リハビリテーション関係者以外にも、障害者団体や開発関係者にも読んでほしい書だ。

第4章の障害問題と具体的な取り組みとして、CBRと自立生活運動が紹介されている。私の経験から言えば、農村部の障害者の自助グループの形成による手法も含められると思う。これは、南インドで始められたエンパワメントに基づく手法で、農村部のさまざまな種別の障害者が7~15人集まり自助グループをつくる。グループは定期的に集まり自分たちの問題を話し合い、解決の方法を検討し行動する。さらに、これらのグループが集まり連合体(フェデレーション)を形成し、広範な問題に取り組む。今では、バングラディシュやカンボジアにも導入されている。2004年からインドのアンデラプラデッシ州で世界銀行の資金を借りて、大規模な取り組みが行われている。それによると、80の選ばれたマンダラ(地方行政区)で、600の自助グループを結成し、最終的には、5年間で4万8000人の障害者が組織化される。

この書によって、「障害と開発」が今後、さらに多くの人々の研究・活動分野として注目を集めることを期待している。

(たかみねゆたか 琉球大学教授)