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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

今後の障害保健福祉施策について

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部

1 障害保健福祉の現状

わが国の障害保健福祉においては、障害種別ごとの法律等に基づいてサービスが提供されていて、制度的にさまざまな不整合があります。また、全国共通の利用のルールはなく、地域における基盤整備の状況やサービス提供体制が異なっているのが現状です。そのため、障害種別ごと、また、地域ごとにサービスに大きな格差が生じています。

平成15年4月には、従来の措置制度から、利用者が自らサービスを選択することのできる支援費制度へと移行しました。これによって、一定のサービス提供体制の整備が図られ、また、新たな利用者が急増してまいりました。

ただ、精神障害者はこの支援費制度に入っておらず、障害種別ごとの制度的不整合は依然残されています。また、全体のサービス費用が増大する中、さらに増加する新規利用者への対応が不可欠となってまいります。

さらに、障害種別ごとの制度になっていること、また、施設等については、その期待される役割や対象者などにより、種別等が細分されていることなどから、せっかく身近な地域にサービス基盤があっても、必ずしも利用者のニーズに的確に対応したものとはなっていないというのも現状です。つまり、身近な地域でサービスを利用しようと思っても、想定されている対象者と異なる障害を有しているため利用できなかったり、想定されている事業内容が利用しようとする方のニーズに合っていないため有効に機能していなかったりする場合があるということです。たとえば、働く意欲があるにもかかわらず、適切な訓練を受けることができないために、企業等で働けないままに過ごしているといった方々も少なからず存在するというのが現状です。

2 改革の視点

今後は、「障害者が自立して普通に暮らせるまちづくり」「地域に住む人が、障害の有無、老若男女を問わず、自然に交わり、支え合うまちづくり」―すなわち「自立と共生のまちづくり」をめざしていくことが求められています。

このため、障害者本人を中心にした個別の支援を、より効果的・効率的に行っていくための基盤づくりを進めていく必要があります。

具体的には、1.障害保健福祉の総合化、すなわち、年齢や障害種別等にかかわりなく、できるだけ身近なところで必要なサービスを受けながら暮らせる地域づくりを進める、2.自立支援型システムへの転換、すなわち、障害者が、就労を含めてその人らしく自立して地域で暮らし、地域社会にも貢献できる仕組みづくりを進める、3.制度の持続可能性の確保、すなわち、障害者を支える制度が、国民の信頼を得て安定的に運営できるよう、より公平で効率的な制度にする、といったことが必要だということです。

3 改革の基本的方向

(1)障害のある人が普通に暮らせる地域づくり

地域においては、支援を必要とする障害者は高齢者と比較すると数が少ないため、これまでは障害者とサービスの拠点が遠くなりがちでした。身近なところにサービスの拠点を増やすため、既存の社会資源を活かし、多様な地域の状況に対応できるよう、必要な規制緩和等を行います。

一つは、これまで原則として障害種別ごとにサービス拠点を整備する必要がありましたが、障害種別を超えて共通の場でそれぞれの障害特性等を踏まえたサービス提供ができるようにします。

次に、NPO法人、空き教室、空き店舗、民間住宅、小規模作業所といった地域の社会資源を、障害者を支える資源として一層活用しやすいようにします。

入所施設を地域に開かれたものとして地域生活支援のための社会資源とすると同時に、施設入所者も日中活動を選べるようにして、地域移行に資するようにします。

極めて重度の障害者に対しては、複数のサービスを組み合わせながら包括的にサービスを提供していく仕組みを導入します。たとえば病気の進行したALS患者などの身体障害者や、非常に強度の行動障害のある知的障害者や、重度の精神障害者を社会として受け止められるように、必要なサービスをパッケージで提供する仕組みを設けます。手厚い支援が必要な障害者像を明確にして、社会的に投入するコストについても、サービスモデルをつくりながら、必要かつ、国民的な合意の得られるものとしていかないと、各地域で極めて重度の障害者を受け止める仕組みが広がっていかないのでないかと思っております。

(2)障害のある人のニーズや適性に応じた自立支援

サービスとして提供される支援がより一層効果的なものとなるように、施設や事業の体系を見直します。障害種別を超えて対応できるように制度を手直しする一方で、具体的な自立支援のサービス内容を一人ひとりに合ったものにしていく必要があります。キーワードは「制度は共通に、支援は個別に」です。

障害者が地域で自立して生活することを考えると、一般企業等で就労することが重要になってきます。施設・事業の体系を見直し、障害者のニーズや適性に合わせて、働く意欲と能力を育み、雇用などへつなげていきます。

(3)精神医療の効率的な提供

精神障害者施策固有の重要事項として、精神医療の問題があります。基本的には、良質な医療を効率的に提供することにより、一時的に入院治療が必要になっても、社会復帰できる者は社会復帰するように支援し、新たな長期入院の患者を生まないようにします。

(4)市町村を中心とするサービス提供体制の確立と国、都道府県による支援

障害者施策の中心を担うのは市町村であり、これまでの法改正においても、一貫して住民に身近な自治体である市町村への権限移譲を進めてまいりました。市町村中心の体制を確立するとともに、国や都道府県が、広域的、技術的、財政的などの観点から重層的に支援する体制の整備を図ります。

(5)効果的・効率的なサービス利用の推進

これは、一口で言えばサービス利用に関するルールをしっかり作りますということです。どういう状態の人にどういうサービスを提供するかが市町村によりまちまちになっており、地域差が生まれる大きな原因となっています。相談支援体制を整備するとともに、こうしたルール化等を進めることにより、必要なサービスをより効果的・効率的に、より公平で透明なプロセスで提供できるようにします。

(6)費用の公平な負担と資源配分の確保

制度の公平性と持続可能性を確保するため、「みんなで負担する」という考え方が重要です。また、限られた社会資源をより必要な分野(たとえば、入所から自立支援サービスへ、医療費負担の軽減措置から自立支援サービスへ)に重点的に配分することが必要です。

また、利用者負担を見直し、負担能力の乏しい方へ配慮しつつ、福祉サービスの利用量に応じた負担(応益負担)とするとともに、国、都道府県の財政責任を確立します。現行法では、居宅サービスに係る費用に対しては、国、都道府県は補助することができる、という規定になっていますが、財政確保の観点から、これを義務負担化していくことが必要です。

(7)介護保険との関係の整理

今回の試案は、介護保険との関係をどう考えるかにかかわらず、障害保健福祉施策として行うべき改革を示したものです。障害者施策としての体系は、新たな「障害福祉サービス法」を中心として構築します。

障害者施策側から見ると、一定範囲の若年の障害者について、65歳以上の高齢者と同様、ホームヘルプサービスなど年齢にかかわらない共通のサービスについて、介護保険制度を活用するかどうかという問題となりますが、今回の介護保険制度の改正においては、被保険者の範囲を拡大して障害者も介護保険のサービスを活用することまでは織り込まれておりませんので、引き続き、今後検討していくべき課題でしょう。

なお、介護保険制度との「統合」という表現が使われることがありますが、これは実態とも異なるし、大変誤解を招く表現です。介護保険との関係でいえば、高齢者介護との共通部分を介護保険制度という仕組みを活用して部分的に提供するということであり、たとえば、就労支援等の障害者施策独自の部分は障害者施策として提供し続けることになります。

4 今後の動き

今後、これらについて、さまざまなご意見を伺いつつ、具体的に、法改正を含め、制度見直しに向けた取り組みを進めていくこととなります。

現在、障害種別にかかわりのない各障害者共通の自立支援のための給付、サービス体系や利用者負担体系、財政システム等について規定する「障害者自立支援給付法(仮称)」を国会に提出すべく準備を進めているところです。

障害者の地域生活と就労を進め、自立を支援する観点から、これまで障害種別ごとに異なる法律に基づいて提供されてきた福祉サービス、公費負担医療等について、共通の制度の下で一元的に提供する仕組みを創設することとし、自立支援給付の対象者、内容、手続き等、地域生活支援事業、サービスの整備のための計画作成、費用の負担等を定めるとともに、精神保健福祉法等の関係法律について所要の改正を行ってまいります。

厚生労働省としては、限りある資源を最大限に活用しつつ、障害者が地域で当たり前の生活が当たり前に営めるような社会づくりに今後とも全力で取り組んでまいります。