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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

ユニバーサルデザインの広場

埼玉県のユニバーサルデザインの取り組み

埼玉県総合政策部文化振興課ユニバーサルデザイン担当

なぜ埼玉県が取り組んでいるのか

埼玉県は、首都圏の一地域として、戦後、高度経済成長期、第二次ベビーブーム、バブル時の東京の地価高騰等により、人口が急増し、現在706万人を超え、依然、毎年3万人程度で微増しています。

生産年齢人口の増加が続いたため、高齢者の比率は、12.8%と低く、平均年齢も39.6歳と、沖縄県に次いで若い県となっています。しかし、2010年には、高齢者が145万人に達すると想定されています。また、障害者手帳交付者は、19万7千人、外国籍の県民は、10万人に達します。

人口の急増に対応して、全県域にわたり、都市型社会のための社会資本の整備が進められ、年齢、性別、能力、状況の異なるさまざまな人々が、活動されています。しかし、少子高齢化、国際化などにより、これまで、形成された社会資本が、利用しやすいものであり続けることが難しくなってきています。他の地域に比しても、急激に人口構造が変化し、かつ、絶対数の大きい埼玉県だからこそ、現在も、将来も、だれもが利用し続けることのできる社会環境の整備が、強く求められているのです。

埼玉県のめざすもの

埼玉県では、平成14年2月に、ユニバーサルデザインによる埼玉県づくりを推進していくため「『ハートいっぱい・さいたま』埼玉県ユニバーサルデザイン推進基本方針」を策定し、今後の県のユニバーサルデザインの推進の方向性を示しました。

推進指針が掲げる展開施策は5つあります。

1.みんなで進めるユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザインは、特別な人のための特別な施策ではありません。一人ひとりが、さまざまな人に気づき、配慮することが大事であり、一人ひとりが主役として、県全体の運動に発展させていくことをめざしています。

2.安全・安心して移動できる環境づくり

だれもが使いやすい交通機関、道路、案内表示の整備を進めていきます。

3.だれにもやさしいまちづくり

さいたま新都心は、旧国鉄操車場跡地を利用し、国の支分部局を集め、民間企業、集客施設を一体で整備したまちですが、計画当初から、さまざまな人が交流し、安心して快適に活動できるまちをめざしたもので、ハード、ソフト両面にわたってユニバーサルデザインを実践したまちといえます。このさいたま新都心をモデルとした安全快適なまちづくりを進めていきます。

4.訪れる人に配慮した施設づくり

ユニバーサルデザインの視点を加えて福祉のまちづくり条例を改正しましたが、これにより快適で暮らしやすいまちづくりを進めていきます。

5.いきいき豊かな暮らしづくり

ユニバーサルデザインに配慮したイベントの実施、製品開発や商店街づくりなどを進めていきます。

これまでの取り組み

平成13年度から始まったユニバーサルデザイン推進事業は、当初は、啓発が中心でしたが、次第に、県庁内の取り組み実施・定着、各団体や市民団体の自主的活動の支援へと重心が移ってきています。

実際に、大型ショッピングセンターに協力して、施設のユニバーサルデザイン化調査を実施した市民グループも登場しています。

(1)啓発事業

1.ユニバーサルデザイン全国大会の開催(平成15年1月)

2.「みんなの劇場~ユニバーサルデザイン・シアター」

手話やパソコンによるせりふの表示、音声ガイド付き映画、体感音響システムによるコンサート、楽器演奏体験、託児サービスなどにより、障害者、高齢者、子育て世代などだれもが一緒に楽しめる「みんなの劇場」を開催しました。文化芸術を通してユニバーサルデザインの実践を体験することは、一人ひとりの行動における大きな変化が期待できます。

3.ガイドブック等の配付

「見やすく分かりやすいサイン」

「ユニバーサルデザイン成功・失敗・改善事例集」

「だれもが参加しやすいユニバーサルデザインの考え方を活かした会議・講演会実施ガイド」

「ハートいっぱいさいたま ユニバーサルデザイン」

4.講演・シンポジウム・市町村情報交換会・ホームページやメールマガジンによる事例紹介、出前講座の実施

(2)点検・提言・改善の実践

1.ユニバーサルデザイン・岡目八目隊の結成

施設、建築物、製品などについてユニバーサルデザインの視点で、点検する岡目八目隊を公募で幅広く人選し、結成しました。平成14年度は「買い物」に注目し、近所の商店街に行く場合、百貨店などに行く場合について、移動時及び買い物時の問題点・解決策などを探りました。

平成15年度は、「観光」をテーマに県内の主要な観光地を調査。観光地において配慮すべき事項を提言しました。

2.「まず、やってみよう」全課所室ユニバーサルデザインの取り組み

安心・安全・快適な埼玉県の実現のための一つとして、ユニバーサルデザインの視点を県のすべての事業に反映させるため、全庁で業務改善取り組みを実施し、県民にとって分かりやすく、利用しやすい埼玉県庁に取り組んでいます。

3.ユニバーサルデザイン指定事業

ユニバーサルデザインの視点を県事業へ反映させるため、平成16年度から、多数の県民の皆様が利用する施設に対して、学識経験者や公募の委員で組織する「UD評価委員会」が、実地調査を踏まえ、使いやすさ・分かりやすさの観点からの改善助言を行うとともに、類似の事業を実施するにあたっての留意点を提言することとしました。

(3)当事者参加事業

県や市町村が実際に進めている公共事業等へ当事者参加を普及させることを目的に、実際に計画中の、公園、道路、駅前広場の3つの整備事業を対象とした「ユニバーサルデザイン・モデル事業」を実施しました。計画・設計段階から地域住民や関係者が参加し、ワークショップを実施し、類似の事業のユニバーサルデザイン化を促進させるモデルを示しました。このモデル事業では、高齢者、障害者、小中学生、子育て中の方、商店街の方など、さまざまな関係者の方が、県や市の施設管理者とともに、現地を視察し、図面や模型を使って点検し、意見交換を重ねて、より使い勝手の良い施設にするための数々の提言をまとめました。現在、いただいた提言について、各事業担当者が実現に向けて検討しており、2月に、中間報告会を実施することとしています。

また、このモデル事業にならい、県内でも、駅前広場の整備計画を市民とともに検討した市の取り組みもでてきています。

(4)ユニバーサルデザイン実践者養成講座

ワークショップの企画運営方法の習得をすることで、地域におけるユニバーサルデザイン推進の核となる「実践者」を育成しています。参加者自らが、モデル事業にならい、実際に、利用当事者の方々や施設管理者に、まちづくりの点検実習への参加を呼びかけ、意見交換を行うなど、毎回、実践的な演習が行われています。

(5)県民活動への浸透

ホームページ上に県民・行政・企業・団体が相互に意見交換・情報交換できる「埼玉県ユニバーサルデザイン推進県民会議(UDひろば)」を設置。

「UD県民大会」を開催し、構成員の活動を発表することで、全県的にユニバーサルデザインを広めています。

これからの取り組み

ユニバーサルデザインの実現のためには、バリアフリーの施策の積み上げが、大切です。しかし、使いやすさを求め続けていくためには、実際の利用当事者が企画・計画段階から参加し、また、完成後も、利用当事者の意見が反映され、見直されていくことが重要だと考えています。利用当事者との接触回数が、ユニバーサルデザインの完成度に比例するといえます。現実的には、多様な人々にとって快適な環境を100%実現することは、困難です。しかし、今日の80%を明日の90%に変え、100%をめざしていくことはできます。

よりよい社会をつくるためには、人々が、他人の感じている不便さに気づき、思いやりの心を行動に結びつけることが大切です。個々の思いや行動を、地域における運動に発展させることが、今後の地方自治体の役割であると考えています。