音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

列島縦断ネットワーキング

東京 労働政策フォーラム
「共に働き、共に生きる社会づくりをめざして」

石井和広

独立行政法人労働政策研究・研修機構は2004年12月3日、東京の浜離宮朝日ホールで労働政策フォーラム「共に働き、共に生きる社会づくりをめざして」を開催しました(朝日新聞社、読売新聞社後援)。「労働政策フォーラム」は雇用・労働分野のさまざまな政策上の課題を取り上げ、議論の活性化を促すことを目的に開いています。

今回は9月に厚生労働省の「障害者の就労支援に関する有識者懇話会」がとりまとめた「障害のある人の『働きたい』を応援する共働宣言」をもとに、懇話会の委員らを招き、障害者雇用をめぐる諸課題について話し合いました。会場には企業や福祉の関係者など200人が集まりました。

障害者の就労支援と「共働宣言」

懇話会で座長を務めたさわやか福祉財団理事長の堀田力氏は基調講演で、「障害者の能力を活かす会社は、これから勤めようとするすべての人々にとって魅力的だ」と声を強めました。今、望まれるのは「自分の能力を活かして働ける会社」であり、障害者の活用はこのことを象徴することになるからです。続いて、懇話会を主催した谷畑孝・前厚生労働副大臣があいさつし、「障害があってもなくても働くことで自立でき、生計が成り立ち、人格が高まり、社会に参加できる」ための環境整備の必要性を強調しました。

「共働宣言」は「障害のある人もない人も共に働き・共に生きる社会」の実現に向けた懇話会各委員のメッセージを盛り込んだものです。「障害のある人の『働きたい』という切実な願い」に応えるため、1.関係者の就労支援への意識を高める、2.働く場や仕事を創る、3.働くための工夫をし、支えていく、ということが大切だと唱えています。ディスカッションでは、このために重要な点として「障害者に対する『思い込み』や『決め付け』を捨てること」や「企業と福祉が連携を強めて取り組むこと」を指摘する発言が目立ちました。

「思いこみ」や「決め付け」を捨てる

厚生労働省が04年10月に示した「今後の障害保健福祉施策について」という改革のグランドデザイン案は、柱のひとつに「自立支援型システムへの転換」をあげています。NHK解説委員の小宮英美氏は「自立支援型システムへの転換には、就労支援がキーになる」と主張しました。そして「私たちは障害者を十把一からげに考えてしまい、ほんとうはそれぞれにできる仕事がたくさんあるのに、思いこみや決め付けで、それらを探し出す努力をしていないのではないか」と語り、「障害者」としてひとくくりにせず、多様な就労、雇用の場を考えていく必要性を提起しました。

ヤマト福祉財団常務理事の伊野武幸氏は、同財団が設立したパン製造・販売のチェーン店での出来事を報告しました。その店では当初、エスプレッソコーヒーを入れる技術者(バリスタ)を雇っていましたが、知的障害をもつ従業員の一人がその仕事を見てマスターし、今では代わりに働けるようになったそうです。伊野氏は「障害があるからできない」という先入観を打ち破れば、このように障害者が力を発揮できる場も広がるのではないかと展望しました。

横河電機人財労政部の箕輪優子氏からも、「おしぼりを広げる」という単純作業ができなかった知的障害者にパソコンのデータ入力の仕事をさせてみたところ、とてもよくできたという例を紹介しました。箕輪氏は「会社の中でいろいろな仕事を経験しないと、なかなか潜在的なものは見つけられない」と発言し、また「障害者というだけで違った見方をしてはいけない。すべての社員は経験と教育ですごく伸びる」と述べ、さまざまな仕事を経験していく中で、可能性は広がると説きました。

共働宣言には、何度でも再就職に挑戦できるセーフティネットの仕組みがもっと充実したらよいという意見が載っています。試行錯誤を繰り返すことで、適職が見つかる可能性は高まっていきます。大阪市職業リハビリテーションセンター所長の関宏之氏は、雇用、就労に対する本人や親、企業の戸惑い、ためらいを払拭するためにも、セーフティネットの充実が大事になるとの考えを示しました。

一方、全国社会就労センター協議会副会長の勝又和夫氏は、「それぞれの地域の中で福祉、労働、医療、教育といった関係者がお互いに手を携え、地域で暮らす障害のある人を応援していけないか」との見方を示し、その時、「特別な人がいたから地域のネットワークが構築できた」というのではなく、だれもがそういった必要性を認識して取り組むよう求めました。

職場の意識を変えるために

横河電機グループでは10年ほど前、「1年間で法定雇用率を達成する」というプロジェクトを立ち上げ、障害者雇用を進めました。人事担当者が現場に足を運び、「この職場のこの仕事は障害があっても問題ない」など職場環境や仕事内容を正確に把握したうえで、現場の担当者を説得して障害者の配属につなげ、成功の実績を積み重ねることで社内の理解が広まっていったと言います。

伊野氏からは「世の中ではコンプライアンス(法令遵守)とかCSR(企業の社会的責任)がキーワードになっている。企業側の責任者はそういう視点から取り組んでいくべきではないか」という意見がありました。また、日本経団連障害者特例子会社連絡会会長の畠山千蔭氏は、企業の意識改革のためには経営トップを対象にしたセミナーの実施や同業他社などとの情報交換が効果的だと指摘しました。

企業と福祉の連携に向けて

フロアとの意見交換では福祉関係者から「情報収集のすべがなく、企業側のニーズを把握しきれていない。(福祉と企業で)情報を共有するよい方法はないか」という質問がありました。関氏は「情報は取りにいくもの」と答え、積極的に自ら情報収集に動くよう福祉関係者に促しました。また、勝又氏は、1.ハローワークで情報収集する、2.雇用率未達成の企業には直接働きかけてみる、3.同じ地域の他の福祉関係者と情報交換の場を持つ、といった方法をアドバイスしました。

障害者雇用をめぐる福祉側と企業側の関係に関して、共働宣言には「福祉サイドから押し出す力、企業が障害のある人を引き付ける力、双方ともに弱さがあるように思います」という福祉団体関係者の考えが掲載されています。畠山氏は「障害者を福祉の世界で抱えていないで、もっと企業に送り出してほしい」と呼びかけたのに対し、勝又氏は企業も門戸を広げるなど「障害のある人を引き付ける力」について一緒に考えてほしいと訴えました。さらに勝又氏は、雇用のマッチングには企業と福祉、そして行政を含めた三位一体で取り組む必要があると提唱しました。

最後に、小宮氏は「これまで企業と福祉の関係者が同席して話すことはあまりなかった。私たちは今、ようやくスタートラインに立ったばかり」と現状を説明し、「共に生きる社会」の実現に向けた、今後の企業側と福祉側の相互理解や協調の取り組みの進展に期待を寄せました。

(いしいかずひろ 独立行政法人労働政策研究・研修機構)

【参考】

○厚生労働省・障害者の就労支援に関する有識者懇話会『障害のある人の「働きたい」を応援する共働宣言~共に働き・共に生きる社会づくりを目指して』(2004/9/29発表)
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/s0929-6.html

○独立行政法人労働政策研究・研修機構
 http://www.jil.go.jp/